伊藤園は、「第6回 伊藤園健康フォーラム」を6月24日に同社公式YouTubeで開催した。現代社会でお茶が果たせる役割について考える本フォーラム。 「慢性炎症を防ぐ食習慣とは」をテーマに実施された、専門家によるパネルディスカッションの様子などを紹介する。

さまざまな病気の原因「慢性炎症」とは

幅広い最先端技術を活かし、「健康、おいしさ」の領域を中心に研究に取り組んでいる伊藤園中央研究所。人生100年時代と言われるなか、近年新たに発生している健康課題に食生活で対処する観点から、その研究結果を生かしてさまざまな商品開発を進めている。

「伊藤園健康フォーラム」は人生100年時代において直面する新たな健康課題への対処方法を探り、専門家の基調講演やディスカッションを通して学べるフォーラムだ。

6回目の開催となる今回は、生活習慣病などの慢性疾患に共通する基盤の病態である「慢性炎症」にフォーカス。「お茶で人生100年時代を豊かに生きる知恵 緑茶による健康寿命延伸への新たな視点-慢性炎症の抑制-」と題し、慢性炎症の原因や予防に向けた食習慣について専門家とともに紐解いた。

「『疲れた』『やる気が起きない』『寝たのに疲れがとれない』といった日常的な症状の原因のひとつに、慢性炎症があると言われています」とは、本フォーラム主催者の伊藤園中央研究所所長・衣笠仁氏。

  • 伊藤園中央研究所 所長 衣笠 仁氏

体内の異物や異常な状態を取り除くための防御反応を指す炎症だが、口内炎など症状が出てから短時間で収まる「急性炎症」に対し、慢性炎症の多くは無症状で炎症が長期に渡り、免疫の暴走などを招く。

「最近では新型コロナウイルスに感染された方々が、その後遺症によってこうした症状が現れるとも聞きます。慢性炎症は肥満などによって体の奥底で起こる小さな炎症で、慢性化することで徐々に体に悪影響を及ぼします」

今回のフォーラムでは、そんな慢性炎症を防ぐ食習慣をテーマにしたパネルディスカッションが実施され、近年注目が高まる慢性炎症の予防方法や改善方法などが紹介された。

緑茶の適量は1日4~5杯

フォーラム前半で「生活習慣病の予防のカギを握る慢性炎症のコントロール」と題した基調講演を行った静岡県立大学の合田敏尚教授は、「慢性炎症の原因のひとつが肥満」と指摘。免疫細胞が過度に活性化することで生活習慣病や老化の加速を引き起こすと説明する。

「生活習慣病の中で壮年期に起こる疾病は、内臓脂肪蓄積型の肥満から起こるものが多く、肥満によって免疫細胞が暴発することで全身の臓器などの機能に障害が現れ、さまざまな病気に関わってきます。現代では栄養の過多の問題、肥満からくるメタボリックシンドロームを抑制し、慢性炎症をいかに防ぐかということが重要だと思います」(合田氏)

慢性炎症を防ぐための食生活について、合田氏は食事のタイミングや量が関わってくると解説。お米の場合は大麦などを加えたり、パンの場合は全粒粉のパンを食べたりするといった工夫による効果が研究でも認められているという。

  • 静岡県立大学 食品栄養科学部 特任教授、「ふじのくに」みらい共育センター長 合田 敏尚氏

「ドカ食いや早食いといった食べ方の問題がひとつのポイントで、1日の生活スタイルを考え、食事による血糖値の上昇をいかにコントロールするかが重要です。日本人は基本的に稲作の文化で、この穀物を中心にエネルギーを確保しながらいろんな食品を主菜・副菜として食べる食文化を続けてきました。食品の品目数が多く、バラエティに富んだ世界的にも優秀な食文化ができたわけですが、その中心はやはり穀物。なので、穀物から引き起こされる血糖値の上昇をいかに防ぐことが大切になります」(合田氏)

血糖値が上がりにくい食事、食べる順番や速度といった食べ方などは、世間に広く知られているものもあるが、そうした手段のひとつとして、抗肥満作用などの持つ緑茶を意識的に摂取することも有効だという。

「お茶は基本的に糖が少なくても美味しく飲めて、血糖値の急激な上昇を起こさないということが、まず大きな特徴です。食事の際に水分補給としてお茶を飲む文化は、血糖値の急激な上昇を抑制する意味で非常に理に適っています。ペットボトル飲料というかたちで若い世代にも緑茶が一般に広まっていることは、歴史的に見ても非常にいい方向ではないかと思います」(合田氏)

もっとも大量に摂取しすぎると抗炎症作用の効果がかえって得られにくくなる研究もあるそうで、“適量”という考え方は存在するようだ。 「ラットのモデルを使った実験から言うと、人間の場合は1日4~5杯(約1リットル)まで、その2倍になると少し多すぎるかなと思います。0杯よりは1杯、1杯より2杯というように、4~5杯までは直線的な効果がかなり期待できます」(合田氏)

緑茶で人生100年時代を豊かに

基調講演で茶カテキンが慢性炎症を抑制するメカニズムについて解説した九州大学の立花宏文教授は、「動物性の脂に比較的多く含まれる飽和脂肪酸で太らせたネズミにはカテキンの効きが非常に悪く、「抗肥満作用」が出にくい状況があることがわかりました。ただ、慢性炎症との関わりではお茶と一緒に口にするものを考えることも重要です」と、その効果には食べ合わせなどの影響も大きいと語った。

カテキンの効きを悪くする食品もある一方で、その効果を高める食品成分もわかっているという。

「緑黄色野菜に多く含まれるβカロテン、柑橘に多く含まれているポリフェノールといった成分が、カテキンの抗炎症作用の効果を高めることも確認しております。疫学研究の論文でも「日本のある地域の方々がお茶とみかんを両方一緒にたくさん摂っている方々が、単独で摂っておられる方々以上に、がんの発症率が低い」といった報告があり、私どもの研究はそうした疫学研究の裏付けになるかもしれません」(立花氏)

  • 九州大学大学院 農学研究院 生命機能科学部門 食料化学工学講座 食糧化学分野 主幹教授 立花 宏文氏

衣笠氏は、2003年から伊藤園中央研究所で進めている茶カテキンによる脂肪の吸収抑制に関する研究について紹介した。

「摂取した脂肪は体の中で膵臓から出てくるリパーゼという酵素によって脂肪が小さく分解され、この分解された脂肪が小腸から吸収されます。茶カテキンはリパーゼの分解作用をブロックし、吸収できなくなった脂肪はそのまま体の外に排出されます。脂肪の吸収抑制に関する研究では、食事の際にガレート型カテキンを200mgほど摂取すると効果が期待できます。目安としては、少し濃く入れたお茶の抽出液を食事の際に2〜3杯ぐらい摂る感覚です」

近年の研究で慢性症が多くの疾患の基盤病態となっていることがわかってきたが、他方ではコロナ禍で働き方や生活スタイルが変わり、生活習慣病リスクも増大したとも言われている。

バランス良い食事でさまざまな食材を食べたり、食事の際に緑茶を取り入れたりといった意識を早くから持つことが、慢性炎症ひいては生活習慣病の予防では重要なようだ。