必殺の退路封鎖から正確に寄せ切る

藤井聡太棋聖へ永瀬拓矢王座が挑戦する、第93期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負(主催:産経新聞)の第2局が6月15日に新潟県新潟市「高志の宿 高島屋」で行われました。結果は138手で藤井棋聖が勝利し、五番勝負の成績を1勝1敗のタイとしました。

本局は永瀬王座の先手番から角換わりに。これは第1局における千日手指し直しの1局目と同様です。さらに永瀬王座が9筋の位を取ったのも同様で、またも千日手かと、気の早い意見もあったようです。永瀬王座が4筋の位も取ったことで、完全に前例とは別れを告げました。

■藤井棋聖の攻め、永瀬王座の受け

このタイミングで藤井棋聖が△8六歩と仕掛け、以降は藤井棋聖の攻め、永瀬王座の受け、という展開で進んでいきます。以下は先手陣にと金を作った藤井棋聖が優位に立ったとも見られましたが、永瀬王座も受け一辺倒ではなく、1筋の端攻めなどを絡めて反撃の土台を作り、形勢は不明のまま終盤戦へ突入します。

クライマックスは113手目、永瀬王座が▲3二金と打ち込んだ局面でした。対して後手は△同飛▲同桂成△同玉で良ければ話は早いのですが、自玉が裸になるため怖いところです。藤井棋聖は△1三玉と逃げました。これは王手がかかりにくい形です。ただし3一の飛車を見捨てることになるので指しづらい手です。藤井棋聖は「時間がなかったので、勝負手のつもりでやっていました」と振り返っています。

■鮮やかな必殺手

対して永瀬王座は▲3一金と飛車を取りました。しかしここで藤井棋聖の△9七銀が退路封鎖の必殺手筋で、ここで形勢は藤井棋聖に大きく傾きました。玉の退路を断つ、あまりに鮮やかな銀捨てです。永瀬王座は、▲3一金に代えて、先に▲8八玉と逃げておかなければいけなかったのです。とはいえここまでの手の組み立ては、飛車の横利きを頼りに攻め合いで勝とうというもの。ここでいったん飛車を取らずに受けに回るというのは容易に指せる手ではありませんでした。

永瀬王座は▲1一飛と王手をかけて、藤井棋聖に持ち駒を一枚使わせてから▲9七桂と取りました。これは合駒請求と言われる将棋の手筋で、相手に持ち駒を使わせることで攻めを遅らせる意味があります。しかし、続く藤井棋聖も△4八歩と相手の守備を弱体化させる終盤の手筋で斬り返し、△7八金からの詰めろを掛けました。

なお△4八歩では△6七歩成も有力に見えます。これも詰めろですが、対する▲2一角が詰めろ逃れの詰めろで逆転します。後手玉は受けが利かなくなっているので先手玉を詰ますしかありませんが、2一の角が遠く7六にまで利いているのが大きく、先手玉は詰まないのです。

最後の二択を乗り切った藤井棋聖が以下は永瀬玉を寄せ切り勝利、五番勝負の成績をタイに戻しました。また永瀬王座に今年度初の黒星をつけました。第3局は7月4日に千葉県木更津市「龍宮城スパホテル三日月」で行われます。この大きな一局を制するのはどちらでしょうか。注目です。

相崎修司(将棋情報局)

苦しい時間が長かった戦いを制し、タイに戻した藤井棋聖
苦しい時間が長かった戦いを制し、タイに戻した藤井棋聖