粘り強く決め手を与えなかった斎藤八段が、貴重な後手番での勝利を挙げる

渡辺明名人へ斎藤慎太郎八段が挑戦する第80期名人戦七番勝負(主催、朝日新聞社・毎日新聞社)の第3局が、5月7・8日(土・日)に福岡県福岡市「アゴ-ラ福岡山の上ホテル&スパ」で行われました。結果は134手で斎藤八段が勝利し、今期七番勝負で待望の初白星を上げました。

■渡辺名人がリードするも決定打は奪えず

本局は渡辺名人の先手番から角換わりとなります。序盤で斎藤八段が馬を作ることに成功しますが、渡辺名人にも歩得の実利があり、早くも予断を許さない局面となりました。1日目の午後は両対局者が長考を繰り返したことからも、先行きの見えない戦いであったと考えられます。封じ手の局面で渡辺名人が桂得し、まずは先手が若干のリードを奪ったようです。

2日目になっても長い戦いが続きます。形勢は先手がよかった局面が続いたようですが、もう一押しがなかなか利きません。そうして迎えたのが84手目の局面ですが、ここで先手が何を指すかが難しい。渡辺名人は▲4六桂と控えの桂を打ちました。これは次に▲3四桂と迫る手を見ています。名人自身、当初はその予定だったそうですが、以下の順で誤算があり、桂跳ねを見送ったことを明かしています。まだ形勢は先手がいいのですが、変調の予感が漂い始めました。

■斎藤八段の勝負手に名人が誤る

そして迎えた92手目。これまで守勢に回っていた斎藤八段が、△2五桂とタダのところに桂馬を打って渡辺玉に迫る勝負手を放った局面です。「逆転を狙うには必要だと思った」と斎藤八段が語っています。

対して渡辺名人は▲2八歩と打って馬筋を遮断しました。これを後手が△同馬と1九の馬で取れば、▲3八銀打と受けます。△3七桂成に▲同銀が馬取りになるのが▲2八歩の効果です。「大駒は近づけて受けよ」の手筋を応用したテクニックです。しかしこの歩打ちは渡辺名人らしからぬミスでした。ここでは単に▲2五同桂と取っておけばまだ先手が指せていたようです。斎藤八段はこの瞬間を見逃しませんでした。△2八同馬と取らずに、先に△3七桂成と桂の方を取ります。先手は▲同玉しかありませんが、そこで△2五桂と再び打つ手がありました。以下▲4八玉に△2八馬とした局面は次の△3七桂成を防ぐ手段が難しく、解説の豊川孝弘七段も「いやあ、これは事件が起きたんじゃないですか」と語っています。また、後手は一歩を手にしたことで、先手からの攻めを受けやすくなっているという点も見逃せません。

逆転してから斎藤八段は着実に先手玉を追い詰め、シリーズ待望の1勝目を挙げました。次局が先手番なのも大きく、タイに戻して七番勝負の流れを引き寄せることができるでしょうか。5月19、20日に行われる第4局にも注目です。

相崎修司(将棋情報局)

待望の初勝利を上げた斎藤八段(提供:日本将棋連盟)
待望の初勝利を上げた斎藤八段(提供:日本将棋連盟)