人生100年時代となり、老後が長くなるとリスクも多く抱えることになります。老後に起こりうるリスクにはどのようなものがあるのか、そのリスクに備えるにはどうしたらいいのか、国の制度や保険、資産運用などによる老後のリスクの備え方をご紹介します。

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■老後にどのようなリスクがあるか

老後のリスクには大きく分けて、健康上のリスクと経済上のリスクがあります。それぞれのリスクを細かく見ていきましょう。

【健康上のリスク】

●病気・ケガのリスク

厚生労働省「令和2年(2020)患者調査の概数」によると、病院および診療所を利用する65歳以上の患者の割合は、外来で50.7%、入院患者で74.7%となっています。外来は半分以上が65歳以上の人、入院の場合は7割以上が65歳以上です。このように、老後は病気やケガをするリスクが圧倒的に高くなり、常に隣り合わせであることを認識しておきましょう。

●認知症のリスク

日本における65歳以上の認知症の人の数は約600万人(2020年現在)と推計され、2025年には約700万人(高齢者の約5人に1人)が認知症になると予測されています。認知症も病気のひとつと言えますが、症状の性質からここでは分けて考えます。

認知症の症状が進むと日常生活全般に支障が出てきて、さまざまなミスを犯したり、場合によっては他人に損害を与えたりすることもあります。とはいえ認知症は誰でもなりうることから、認知症への理解を深め、社会の中で共生することが課題となります。

●介護のリスク

厚生労働省「介護保険制度の概要」によると、要介護(要支援)認定者の数は669万人(2020年4月末)となっており、この20年間で3倍以上に増えています。介護問題はとても身近な問題です。自分が介護になるリスクだけでなく、同居している家族が介護となるリスクもあります。近年問題になっている「老老介護」は高齢化と核家族化により、年々深刻化しています。

【経済上のリスク】

●老後資金の不足

以前、老後2000万円問題と騒がれたことがありましたが、老後の30年間で約2000万円不足するとの情報は少なからず我々にショックを与えました。厚生労働省「厚生年金保険・国民年金事業の概況(令和2年度)」によると、公的年金の平均受給額(月額)は厚生年金で14万4千円、国民年金で5万6千円となっています。これに対して、65歳以上の夫婦のみの無職世帯の生活費は平均で22万4千円、65歳以上の単身無職世帯は13万2千円です。(総務省「家計調査2021年」より)公的年金だけでは不足する可能性が高いと言えるでしょう。

●その他のお金の問題

*身辺整理

終活を意識して、身辺整理を始めることは老後にやるべきことのひとつです。身辺整理とは不要なものを処分したり、人間関係を整理したりして、環境を整えることですが、お金に関することで残された家族が困らないようにすることも身辺整理の大事な部分です。

そこで財産関係の整理をしましょう。相続の際に問題が起こるリスクを回避するために、エンディングノートに財産の目録や意向などを記しておきましょう。また相続税対策が必要な場合は生前贈与なども考えておくといいでしょう。

*葬儀費用

残された家族に負担がかからないように、葬儀代くらいは自分で用意しておきたいものです。

鎌倉新書が行った「第4回お葬式に関する全国調査(2020年)」によると、お葬式にかかった費用の平均は119万円、お墓の購入にかかった費用の平均は135万円となっています。他にも遺品整理や空き家処分などにお金がかかるので、200万円程度現金で残しておくといいでしょう。

■リスクに備えるには

それぞれのリスクに備えるための方法をご紹介します。

【病気・ケガのリスク】

*公的医療保険で備える

まずは公的医療保険での備えです。保険適用の治療であれば、原則3割負担で済みますが、70歳から74歳の人は2割、75歳以上の人は後期高齢者医療制度に切り替わり1割負担となります。ただし、70歳以上の現役並みの所得者(年収約370万円以上)は3割負担となります。

また、1カ月間の医療費が所得に応じて設定されている自己負担限度額を超えた場合、高額療養費として返ってくる制度があるため、医療費が高額になった場合に対処できます。 ただし、健康保険扱いとならないものは、高額療養費の対象とはなりません。具体的には差額ベッド代、食事代、先進医療の技術代などです。この場合、全額自己負担となるので、別途備えが必要です。

*民間の医療保険で備える

このように、公的医療保険で備えきれない場合は、民間の医療保険を利用するとよいでしょう。

医療保険には掛け捨てのものと貯蓄性のあるものがあります。掛け捨ての保険は、保険料は低く設定されていますが、満期保険金や解約返戻金がありません。医療保険の役割と貯蓄性も求めるなら「貯蓄型」の医療保険に加入するとよいでしょう。ただ、保険料は割高になるので、家計を圧迫しない程度の保険料に設定しましょう。

【認知症のリスク】

*公的医療保険・介護保険で備える

認知症は、治療の場合は公的医療保険、介護認定を受けた場合は公的介護保険が利用できます。ただし、すべて公的な保険で賄えるわけではありません。次項でも説明しますが、介護保険制度は介護費用として現金が支給されるわけではなく、介護サービスが提供される制度です。

また、介護度によって、受けられるサービスに限度額が設けられているので、それ以上のサービスを受けたい場合は自己負担で賄わなければなりません。認知症患者は、身体的には問題がなかったり、介護状態は軽いけれど、認知症であるために介護の必要経費が多くかかったりするケースがあります。そのため、公的保険では足りない分を民間の保険で備える必要性は高くなります。そこで登場したのが、認知症に特化した民間の保険である「認知症保険」です。

*認知症保険で備える

認知症保険は、認知症と診断されたとき、給付金や一時金などの保険金を受け取ることができる保険です。保険商品によっては、医師に認知症と診断され、さらに公的介護保険の要介護認定を受けることが条件となっている場合もあります。認知症保険は、原則として認知症になる前に加入する必要があります。

*個人賠償責任保険で備える

認知症の場合、思わぬ行動を取ることによって、他人やものに損害を与えることがあります。こうした損害に備えるためには、損害保険会社などで取り扱っている「個人賠償責任保険」が有効です。個人賠償責任保険は、他者にケガをさせたり、器物を損壊したりした場合の賠償金を補償するための保険です。単体で加入できるものもありますが、多くは火災保険や自動車保険の特約として加入できます。

【介護のリスク】

*公的介護保険で備える

介護保険制度の介護サービスを受けるには、要介護認定を受ける必要があります。認定された介護度によって使える介護サービスの内容と支給限度額が変わり、要介護度が上がるに従って支給限度額は高くなります。利用した介護サービスに対して自己負担は1割(65歳以上の一定以上の所得者は2割または3割)です。自己負担額が一定の上限額を超えた場合は、「高額介護サービス費」が支給されます。施設に入居して介護を受ける施設サービスを利用した場合は、1割(65歳以上の一定以上の所得者は2割または3割)の自己負担の他に食費や居住費の負担が発生します。

*民間の介護保険で備える

公的介護保険では不足する部分を、民間の「介護保険」で備える方法があります。介護保険は、所定の状態が一定期間続いた場合に、一時金や年金などの保険金が受け取れる保険です。所定の状態は公的介護保険の要介護度と連動している場合が多く、保険商品によって「要介護2以上」や「要介護3以上」など、要件が設定されています。

先述したように、公的介護保険のサービスによって高額になった場合は「高額介護サービス費」が支給されるので、その点の心配はあまりいりません。民間の介護保険は、在宅介護のためのリフォーム代や介護施設入居のための一時金、その他介護保険ではカバーされない出費に備えるために活用するとよいでしょう。

【老後資金の不足】

病気やケガ、介護などの健康上にリスクには、公的な保険では足りない部分を民間の保険をプラスすることで対処が可能ですが、そもそも老後資金が充分にあれば、保険に頼る必要性は低くなります。そこで、老後資金を貯めるための方法を見ていきましょう。

*iDeCo(個人型確定拠出年金)

iDeCoは、自分が拠出した掛金を、自分で運用し、資産を形成する年金制度です。誰でも加入でき、税制上のメリットが大きいため、早いうちから入っておくと、長い期間、掛金分の所得控除を受けられるのでおすすめです。

*つみたてNISA

つみたてNISAは、長期・積立・分散投資を支援するための非課税制度です。年間最大40万円、最長20年間、投資から得た利益が非課税となります。いつでも投資商品を売却して資金を引き出せるので自由度が高く、長期の積立に適した投資信託の中から選ぶことができるので投資初心者でも始めやすい資産運用です。

*個人年金保険

個人年金保険は、保険会社が扱う保険商品のひとつです。保険料を払い込み、契約時に決めた年齢に達したら保険料に応じた年金を受け取ることができます。途中解約をしなければ元本が保証されたうえである程度のリターンが見込めます。個人年金保険料控除が受けられるため税負担が軽減できるメリットがある一方、インフレに弱いのがデメリットとなります。

■まとめ

老後に起こりうるさまざまなリスクとそのリスクに備える方法をご紹介しました。公的な保険だけでは不足する部分は貯蓄や民間の保険でカバーすることになりますが、用途が限定されない分、貯蓄で備える方が万能です。早い時期から資産運用などで老後資金を貯めておくと安心です。ただ、預貯金ではほぼ増やすことはできないため、投資信託などの運用によって増やしていくパターンになりますが、その場合、元本を減らすリスクもあることは留意しておきましょう。

一方、保険で備える方法は、支払い理由に該当しないと保険金が支払われないなどの制約がありますが、該当したときの保障は大きくなります。また、保険料控除によって税負担を軽減できることもメリットです。さらに、貯蓄型の保険は途中解約をすると元本割れを起こすことから、強制力が働いて積立を継続しやすい面もあります。

老後のリスクは人それぞれです。自分にあった備えを見つけて、老後の安心につなげてほしいと思います。

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