NTT東日本群馬支店は災害が発生したときを想定したドローンパイロットの訓練を4月19日に群馬ドローンパーク(岡成飛行場)で実施。マスコミ向け取材会が行われた。

取材会前半では、災害時の通信設備の早期復旧や、通常時の安定した通信提供に向けた設備点検といった業務を安全かつ効率的に進めるため、ドローンの運用を促進するNTT東日本の取り組みが紹介された。後半では、訓練の会場となった群馬ドローンパークを運営する野口 十九一(とくいち)氏がドローンを活用した地域活性化への展望について語った。

  • 先端部分にカメラが搭載された小型ドローン「Parrot ANAFI」

    先端部分にカメラが搭載された小型ドローン「Parrot ANAFI」

安全で迅速な情報収集を可能にするドローン

NTT東日本 群馬支店は2018年頃から点検作業や災害対応でのドローンの運用訓練を実施。2019年の台風15号、19号で嬬恋村が被災した経験なども踏まえ、現場スタッフの安全性の確保や作業効率化の観点からドローンパイロットの育成に取り組んでいる。

「基本的には災害時でも通常のように車が走れれば車両で現場に駆けつけ、目視などでの情報収集を行いますが、交通渋滞や道が途絶している状況などに備え、より機動的に乗り付けられるバイク隊を編成しています」と、群馬支店の設備部長の鉄谷成且氏。

今回の訓練は群馬県内で発生した地震による土砂崩れで通信の遮断が発生した場面を想定。土砂崩れや河川の氾濫、道路の崩落・落橋など被災箇所で人が立ち入り困難な場所にある設備の状況を把握するため、現場近くへ駆けつけたバイク隊がドローンによる撮影を行うというシナリオだ。

  • 今回は群馬支店の社員6名がドローン隊として訓練に参加

    今回は群馬支店の社員6名がドローン隊として訓練に参加。そのうちバイク隊は3名で、通常業務とは別にこうした訓練に定期的に参加しているそう

「バイク隊はリュックサックでドローンを持ち運び、被災箇所付近の現場で組み立てを行った後、ドローンを飛行させ、高崎市にある群馬支店に設置された災害対策本部へ撮影データを送ります。実際の大規模災害時ではその後、収集された情報をもとに本部が復旧に向けて必要な機材や人手の差配をすることになり、群馬支店では被害状況などを踏まえて適切な判断を下すための机上訓練も実施しています」

  • 20メートルほどドローンを飛行させ、5メートルの高さからA3サイズの紙に書かれた「目標物」の文字を正確に読み取った

    20メートルほどドローンを飛行させ、5メートルの高さからA3サイズの紙に書かれた「目標物」の文字を正確に読み取った

ドローンの撮影データはリアルタイムの映像だけでなく、クラウドにアップロードすれば、スマートフォンなどからさらに高精細な画像や動画で確認できる仕組みである。

NTT東日本の平時の設備の点検作業でもドローンの活用が進んでいるようだ。

「従来、橋梁の下を通る通信ケーブルを収容する管路などの点検は、足場を組んだり特殊なアームを伸ばせたりする作業車が必要でした。そうした特殊な作業車は台数に限りがあり、また、足場を組むにはそのためのコストがかかるので、それらを回避できるドローンは効率化やコスト削減が期待できます。あわせて、小規模の通信ビルの屋根の点検についても、塗装の剥げや腐食の確認にドローンの活用を進めていく予定です」

まだトライアル段階とのことだが、橋梁通信設備の点検ではドローンの実践運用をすでに開始しているという。

  • ドローン撮影

群馬支店内には12名のドローンパイロットがおり、保有するドローンは現在2台のみだが、今後増やしていく予定とのこと。当面は四半期に一度ペースでこうした訓練を重ねていくそうだ。

「実際の災害時はドローンを飛行させるか否かの判断も含め、さまざまな現場判断が求められますが、ポイントを押さえた撮影など的確な情報伝達ができなければ、本部の誤った判断につながる可能性もあります。今後はドローンパイロットの技術向上だけでなく、飛行訓練の中でドローンを操縦しながら簡潔に状況を伝える本部対応のポイントをさらに整理していきたいと思います」

ドローン人材を育成、地域の次世代産業に

こうしたNTT東日本群馬支店の技術者育成の一翼を担っているのが、「群馬ドローンパーク」(岡成飛行場)だ。高崎駅から車で20分ほどのところに位置するドローン専用の飛行場で、群馬支店では昨年12月から同施設での訓練を開始した。

一般社団法人群馬ドローンパークの野口会長は、地域経済の活性化を牽引していく次世代産業としてドローン事業に期待を寄せる。

  • 一般社団法人群馬ドローンパーク 野口会長

    一般社団法人群馬ドローンパーク 野口会長

「日本で最初に一般社団法人農林水産航空協会から農薬散布の認可をとった機種を開発した『TEAD』という高崎の会社とお付き合いがあり、ドローン産業に関心を持ちました。ハードもソフトも幅広い技術・技能が必要なドローンは、自動車のような裾野の広い産業になるはずです。ただ、製造業が盛んな富岡で、もともと私も金属加工業を営んでいましたが、ドローン事業に直接関わる会社はありません。そこで地域のハブ(仲介役)の役割を担う施設として、安全にドローンのテスト飛行や飛行訓練ができる環境を整備しました」

飛行場を広く開放することで県内外のドローンの活用を検討する企業やドローン事業を展開する先進企業を呼び込み、地元企業とのマッチングを促進するほか、ドローン産業を担う若い人材の育成にも取り組む。

「一般社団法人として今年3月1日付で認定校にも認可され、富岡実業高校の1年生全員(約120名)にドローン操縦に関する3時間の座学と10時間の実技講習を実施し、修了証を発行しました。工業など機体をつくるハードと、農業などのドローンを運用するためのソフトの両面で、地元ドローン産業の振興を図っていきたいと思います」

群馬ドローンパークは首都圏からのアクセスも良く、近くにコンビニもあり、一日がかりなど長時間の訓練もしやすいのが特徴だという。

  • トイレがないドローン飛行場も少なくないんですが、ここの飛行場には駐車場や電源、トイレといった設備がひと通り揃っているという

    NTT東日本の(左から)落合壮司氏、鉄谷成且氏、清水観氏、佐藤泰弘氏

「トイレがないドローン飛行場も少なくないんですが、ここの飛行場には駐車場や電源、トイレといった設備がひと通り揃っています。保険加入などの関係で、企業などの事業者・団体が主ですが、個人で利用される方も少なくありません。安全第一なので、ドローン操縦が全く初めての方が利用する場合は、きちんとした指導者のもとでの利用をお願いしています。利用料金は一律、平日ですと、一日の場合は1万円で、半日の場合は5,000円というかたちです」

通信設備の災害復旧の迅速化を図る今回の訓練。群馬ドローンパークの運営は、地域の安全な暮らしや新たな産業の振興による働きがいの向上といった、SDGsにも貢献する取り組みと言えそうだ。

「富岡エリアの企業とのコラボレーションが活発になることで、ドローンを活用したビジネスモデルのヒントや方向性を得られればと期待しています。とくに若い人材育成では、企業のドローンの飛行訓練の様子などを高校生に見てもらい、実社会でドローンが活用されている具体的なイメージをつかんでもらいたいと思います。新たな飛行場のニーズを感じており、すでにいくつかの候補地で検討を進めている段階です」