NTT西日本は10月25日に発表していた大阪・京橋のオープンイノベーション施設「QUINTBRIDGE(クイントブリッジ)」の運用を3月24日より本格的に開始した。

今回は社会実装型を謳い、事業共創を推進する同施設のオープニングセレモニーに参加。内覧ツアーで紹介された各フロアの設備などをお伝えする。

  • 大阪・京橋のオープンイノベーション施設「QUINTBRIDGE(クイントブリッジ)」の運用を3月24日より本格的に開始

大阪・関西発のイノベーションを巻き起こす

「この場所はもともと大阪大学の工学部があったキャンパスの跡地で、NTT西日本の社員の研修センターとして活用してきました。この年初にNTT西日本の本社機能を大阪・京橋のこの地へ移した際に「i-CAMPUS」と名付けております」とは、NTT西日本の小林充佳社長。そんな4棟からなる「i-CAMPUS」の目玉施設として、このほど併設されたのがオープンイノベーション拠点「QUINTBRIDGE」だ。

ウクライナ危機やコロナ禍など先行き不透明なVUCAと呼ばれる時代。少子高齢化をはじめ数多くの課題が山積している日本社会では、これまでになかったアイデアとアプローチを生み出すオープンイノベーションへの期待が高まっている。

地域社会と連携しながらICTによる社会課題の解決へ取り組んできたNTT西日本では、企業・スタートアップ・自治体・大学などが共創する場、コワーキングスペースとして「QUINTBRIDGE」を運用。事業共創と人材育成の支援を通じ、オープンイノベーションを推進することで、社会を取り巻く環境変化がもたらすさまざまな社会課題の解決と持続可能な社会の実現への貢献を目指すとした。

  • NTT西日本の小林充佳社長

    NTT西日本の小林充佳社長

「大阪・関西では多くのスタートアップ・ベンチャーが存在しますが、残念ながらスケールとしては東京の10分の1程度。スタートアップ企業の方々などに本施設を自由に使っていただき、大阪・関西発のイノベーションを巻き起こすことで、少しでも地域の発展に寄与していきたいと考えています」(小林氏)

構想・開発・社会実装の循環を生み出すための人材育成では専門の講師を招き、さまざまなセミナーやワークショップなどを日替わりで開催。社会実装型のイノベーションを掲げている点が同施設の大きな特徴で、会員登録の案内は昨年10月からスタートさせており、現在すでに75の団体と約1,000名の個人会員が登録しているという。

  • 大阪・京橋のオープンイノベーション施設「QUINTBRIDGE(クイントブリッジ)」

    「Q」のロゴマークはNTTのダイナミックグループという有名なロゴマークがモチーフに。知的財産を外に広げていこうという意味合いを持たせている

「個人会員の約半分は我が社の社員という内訳ですが、NTT西日本の営業エリアは西日本30府県に及び、それぞれの地域の方々と一緒にさまざまな課題解決に取り組んでいます。水産業、林業など担い手不足が課題になっている分野をはじめ、多岐にわたるテーマでこうした活動を進めるなか、さまざまなアイデアが『QUINTBRIDGE』で交わり、アジャイルな開発を行い、社会実装まで持っていく流れを生み出したいと思います」(小林氏)

ドイツ・オランダのコミュニティ施設を視察

「QUINTBRIDGE」の名は同施設のある大阪・京橋の地名に由来している。英語で100京という数字の単位を表す「クインティリオン」に、未来への架け橋となる場所にとの願いを込めて「ブリッジ」を合体させたネーミングだ。

  • 1階は“交流と拡散”をテーマに掲げるコワーキングスペース

エントランスで受付を済ませれば会員は無料で施設を利用できる。1階は“交流と拡散”をテーマに掲げるコワーキングスペースで、レンガを基調とした内装はホテルのラウンジのようにリラックスできる雰囲気。壁によって間仕切るのではなく、高低差によってスペースを仕切る設計となっている。

  • 最大3面のスクリーンを使って、イベントを行える1階フロア

    最大3面のスクリーンを使って、イベントを行える1階フロア

「QUINTBRIDGE」の設計にあたっては、ドイツやオランダなどコワーキング文化が盛んな地域を視察。より多くの人たちの混じり合いを起こすための工夫が随所に施されており、階段を利用したつくりも現地の公共施設などのコミュニティスペースで多く見受けられるものだという。

  • 階段を利用したつくりも現地の公共施設などのコミュニティスペースで多く見受けられるものだという

飲食店街も多い京橋という土地柄を活かして、テラス席ではキッチンカーなどの出店やマルシェの開催などを予定している。地域との繋がりや交流の機会も積極的に設け、地域に開かれた場所として利活用していくという。

  • テラス席ではキッチンカーなどの出店やマルシェの開催などを予定

2階は、事業構想や事業化に向けたプロジェクトルームがメインコンセプトとなるガレージの雰囲気を演出。フリーアドレスのデスクや予約制の会議室、商品プロダクト紹介の配信などを行える配信室などを配置した。

  • 2階は、事業構想や事業化に向けたプロジェクトルームがメインコンセプト

    LANケーブルを活用したランプシェードと電話帳を素材に加工し直したカフェテーブル。椅子は森ノ宮にあった本社受付ロビーの椅子をアップサイクルしたものとか

フリーアドレスで使えるオープンスペースは、天井のレールによって間仕切を自由に動かしてプロジェクトサイズに合わせた空間を設けることができる。交流や混じり合いを重視するコンセプトに基づき、会議室やテーブルの配置を工夫して、あえてジグザグの動線にしているそうだ。

  • LANケーブルを活用したランプシェードと電話帳を素材に加工し直したカフェテーブル

従来のオープンイノベーション施設が構想止まりの施設が多いことが課題と考え、「QUINTBRIDGE」では構想と開発と社会実装のサイクルを回していくために必要な開発環境も整備している。

  • 開発という観点でメインのスペースとなるのが「MakersFactory」

開発という観点でメインのスペースとなるのが「MakersFactory」という部屋だ。3Dプリンターやレーザーカッターなどの機材を備え、プロトタイプやモックアップ制作が可能。今後さらに会員の声をヒアリングしながら機材設備を充実させていく方針とのことだ。

オンライン会議や1人でより集中して仕事したい時のために個室ブース、「縁側」と呼ぶ靴脱ぐ小上がりスペースも用意しているほか、併設されたキッチンスペースでは会員同士の交流会も行える。

  • 「縁側」と呼ぶ靴脱ぐ小上がりスペースも
  • 併設されたキッチンスペースでは会員同士の交流会も行える

NTT研究所の最新技術も展示・提供

社会課題の解決にはさまざまなセクターのパートナーと連携し、構想・開発・社会実装を通じて、製品化や事業化を進めていくことが不可欠。「QUINTBRIDGE」は社会実装に特化した仕掛けによって、ICTの実験場というカラーを強く打ち出しており、NTT西日本の次世代技術を会員へ展示・提供する。

従来のWi-Fiではアクセスポイントの関係で、人が密集するところでは繋がりにくい、速度が遅くなるといった問題が発生するが、「QUINTBRIDGE」では人が集まりやすい場所でも電波強度を担保するNTT研究所の新技術を採用。人流センサー付きのカメラを施設内に設置し、エントランスに設置されたパネルから混雑状況を把握できる仕組みも導入している。

  • NTT研究所の最新技術も展示・提供

声や映像といった非言語の情報から推定して感情などを可視化する次世代メディア処理AI「MediaGnosis(メディアグノーシス)」の体験もできる。もともとは発話内容のテキスト化のために開発された技術だそうだが、発話音声のバッティングなど既存のウェブ会議ツールの使いにくさを解消するのに役立つという。

  • NTT研究所の最新技術も展示・提供

こうした最新技術は定期的に入れ替えを行い、「QUINTBRIDGE」会員の製品などの展示なども随時実施することで、アイデアや技術の新たな利活用法や共創事業などに発展させたい考えのようだ。

各種プログラムなどへの参画や施設内設備の利用には会員登録が必要となる。今後の事業共創や教育プログラムについては順次、「QUINTBRIDGE」公式ホームページなどに掲載される。