フジテレビのドキュメンタリー番組『ザ・ノンフィクション』(毎週日曜14:00~ ※関東ローカル)で、昨年10月に放送された『ボクと父ちゃんの記憶 ~家族の思い出 別れの時~』が、国際メディアコンクール「ニューヨークフェスティバル」のドキュメンタリー・普遍的関心部門で銅賞を受賞した。若年性認知症の父を介護する17歳の息子と家族の日々を追った作品で、家族の「その後」の新撮も加えた『ボクと父ちゃんの記憶 ~別れのあと 家族の再会~』が15日に放送される。

今回の受賞に、「国や言葉を越えて、とても心に刺さるものがあったんだと思います。それは僕も現場で感じました」と語るのは、密着した山田貴光ディレクター(ドキュメンタリーSAMURAI)。この家族から感じた「リアル」とは――。

  • (左から)食卓を囲む母・京子さん、父・佳秀さん、長男・大介さん (C)フジテレビ

    (左から)食卓を囲む母・京子さん、父・佳秀さん、息子・大介さん (C)フジテレビ

■数年ぶりの再会で「症状の進行具合に驚いた」

この家族と山田Dの出会いは、2015年に放送された「脳科学」をテーマにした特別番組での取材。若年性アルツハイマー病と診断された父・佳秀さんとその家族に密着した。

これをきっかけに付き合いが始まり、佳秀さんの認知症が進行すると、ハードディスクに入っている家族との写真や映像を取り出すのを手伝ったり、佳秀さんが映像制作の仕事で使っていた機材を譲り受けたりする関係となった。

当時の佳秀さんへのインタビューでは、苦労をかける家族を愛する思い、そして自身が父親から厳しく言われてきたことから、子どもたちには自由に生きてほしいという思いを語っていたのだそう。その後、数年会わない間に、介護施設への入所という話が持ち上がり、久々に訪ねてみると、「佳秀さんの症状の進行具合に驚いたんです」(山田D、以下同)と、コミュニケーションが困難な状況になっていた。

それでも、「家族をすごく愛しているのが節々に感じられたので、前回は病気の目線で取材をしたのですが、『ザ・ノンフィクション』で家族愛や、施設とのマッチング、ヤングケアラーといった社会問題をテーマにして、また取材させていただきたいとお願いしました」と、この番組が走り出した。

■「僕が父ちゃんの病気をがんばって食い止める」

主人公の1人である息子・大介さんは、佳秀さん譲りの明るい性格で、いつも父を思いやる好青年。「彼に出会ったのは小学5年生でしたが、その頃から周りを明るくして愛される子でした。『お父さんの認知症をどう思っている?』という厳しい質問にも『僕が父ちゃんの病気をがんばって食い止める』と言っていたのを覚えています」と振り返る。

カメラを回していても、家の中でいつもパンツ一丁なのは、山田Dを幼い頃から知っている信頼の表れで、番組では自然体な彼の姿が映し出されている。

客観的には、未成年ながら父の介護を続ける、いわゆる「ヤングケアラー」という立場だったが、彼自身はそのように捉えていない様子がうかがえたという。

「彼らにとってお父さんの認知症というのは当たり前のことであって、グラデーションのように進行していくことも丸ごと受け止めて“父ちゃん”なんですよね。それが、すごくリアルなことなんだと感じました」

ただ、それぞれに話を聞いてみると、子どもたちからは母親の負担、母親からは子どもたちの負担を心配し、お互いのことを気遣い合う構図があったという。しかし、施設に入れば、認知症が一気に進行する心配もあり、コロナ禍もあって半年以上、家族との面会が許されず、父の頭の中から家族の存在が完全に消え去ってしまうのではないか……番組ではその葛藤が描かれている。