• 父親を介護施設に送る車中で涙する大介さん (C)フジテレビ

番組の中で印象的なのは、佳秀さんを施設に送る車中のシーン。大好きだった吉田拓郎の曲を流し、運転する母親は涙、そして佳秀さんの横に座る大介さんも父の肩をたたきながら涙し、別れのつらさがこみ上げてくる象徴的な場面だった。

「きっと昔はお父さんも、いつも大好きな歌を歌っていたと思うんですよね。だから、大介さんは最後に一緒に歌ってほしいという思いがあって、肩をたたいていたんだと思い、その手にズームアップしました。それと、父ちゃんをハグしたいという気持ちも感じられましたね」

取材において、佳秀さんがカメラを回すことを拒否したり、不機嫌になったりすることはなかったという。その中で、「カメラを向いて『ありがとう』と言った瞬間があったんです。どこまでカメラというものを認識しているか分からないですし、僕に言ったのか、他のディレクターに言ったのかも分からないですし、どういう意味での『ありがとう』なのかも分からない。でも、こちらから見ると、僕に言ってくれたのかなとも思い、不思議な気分になりました」という出来事もあったそうだ。

■家族に言われた「ノンフィクション過ぎる」

前回の放送後、家族からは、あまりにリアルな日常が映し出されていたことに、「ノンフィクション過ぎる」という表現で感想を受けたそう。また、それぞれへのインタビューを見て、互いが胸の中に抱えていた本心を知ることもできたようだ。

さらに、放送を見て、認知症の家族を持つ人たちからも反響があったという。

「『うちの旦那と一緒です』と言って自治体に相談されたというお話も聞きましたし、『あのときの気持ちが分かります』と苦労を振り返るような声もありました。なかなかあそこまで家の中を取材させてもらえることはないので、共感された部分もあると思いますし、またこれだけ認知症のご家族を抱えている方が周りにいるんだというのを、僕も逆に知りました」

  • リモートで面会 (C)フジテレビ

今回の放送では、施設に入所してから4カ月後の家族の姿が描かれる。介護生活から変わって時間に余裕ができたが、「やはり家族の生活も変わっていくし、お父さんとの距離というものを感じました」という中で、父親の誕生日を祝うため、家族がケーキを差し入れに行くシーンも登場する。

今後も引き続き、この家族を追っていく予定で、「皆さんがどこに向かっていくのか、お父さんの存在がどうなっていくのか。家族にはお父さんとまた一緒に暮らしたいという思いもあるので、その行く末を見守っていき、お付き合いさせてもらいたいと思います」と話した。

  • 山田貴光ディレクター

●山田貴光
1970年生まれ、千葉県出身。制作会社・ドキュメンタリー SAMURAI代表取締役。『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ)では『ボクと父ちゃんの記憶』のほか、『ボクらの丁稚物語』『ここが わたしの居場所』などを手がける。ほかにも、『ドキュメント にっぽんの現場』(NHK)、『ガイアの夜明け』(テレビ東京)、『奇跡の地球物語』(テレビ朝日)、『夢の扉プラス』(TBS)といったテレビ番組のディレクターや、『わたし家具職人になります』、『あい ゆめ わ 出会いのアート』といった映画の監督を務める。