新型コロナウイルスの感染拡大がはじまってすでに2年が経過しました。そのなかでもっとも大きく変わったのは、リモートワークの広まりです。もちろん、働き方が変わればビジネスマナーも変わるはず。
そんな、リモート時代特有のビジネスマナーを、書籍『ビジネスマナーと仕事の基本ゆる図鑑』(宝島社)を監修したクロネコキューブ株式会社代表取締役の岡田充弘さんに聞きました。
■基本のコミュニケーションツールはメール
リモートワークが広まってリアルの会話が減るなかで、新たなコミュニケーションツールがどんどん誕生している時代です。でもやはり、リモートワークにおけるコミュニケーションツールの基本はメールなのだと思います。
もちろんわたしもチャットツールを使うこともありますが、近しい仕事仲間とのあいだで、「さっきのあれって、どういう意味?」「今日、一緒にランチをしようか」というふうにあくまでも「流れていい」小さくて軽いコミュニケーションに限って使っています。
一方、なんらかの依頼をしたり約束事をしたりといった「流れてはいけない」、つまり「記録として残しておかないといけない」ものには必ずメールを使います。なぜなら、そういった重要な内容をメールとして残しておかないと、トラブルのもとになるからです。
上司が部下に電話だけで指示をしたとします。その指示を部下がきちんと認識できなかったり忘れてしまったりしたらどうですか? あるいは、部下が重要な報告を電話だけで済ませたとしたらどうでしょう? それこそ記録がないためにトラブルに発展してしまうこともあると思います。
「いったいわない」で余計なトラブルを招くようなことは、当然ながらマナーに反しているといえるものです。最初こそ電話で指示をしたり報告をしたりするとしても、その内容をあとで必ずメールにして残しておくべきです。
もちろん、わたしも仕事相手の都合に合わせてチャットツールを使うこともありますが、わたし自身の基本はいちばん原始的ともいえるメールを主流にしています。いい換えると、わたしからは、相手が使うコミュニケーションツールを指定しないということです。
それこそ、「わたしはSlackを使っているので、Slackをインストールしてください」「今後はChatworkでやり取りしましょう」なんてお願いすることは、相手の負担を増やしてしまうことになります。それらを使ったことがない人にとっては、その使い方を覚えることも負担となりますからね。でも、メールを使っていないビジネスパーソンは、まずいないはずです。
■冗長でわかりにくいメールは相手の時間を奪うだけ
もちろん、そのメールの書き方にも相手に対する配慮は欠かせません。基本的には、「内容を簡潔にわかりやすくする」ことを意識すべきでしょう。
新社会人のような若い人の場合、相手を敬おうとへりくだるあまりに、冒頭のあいさつ文はもちろん、伝えるべき肝心の内容についても丁寧な口語で書いてしまいがちです。でも、そうするとどうしてもメールそのものが長くなります。
読む相手からすると、メールを開いた途端に「長いなあ…」と面倒に感じますし、伝えるべきことが簡潔に書かれていないために「結局なにがいいたいのかよくわからないな」というふうに感じてしまいます。
もちろん、相手の気持ちを和らげるような文も必要ですが、それは最初か最後の1、2行で十分です。それよりも、箇条書きを使うなどして伝えるべき内容を簡潔に伝えることのほうが、相手にとってはよほどありがたいことでしょう。
ケーススタディとして、下記のメールを箇条書きにして簡潔にしてみましょう。
〇〇様
お世話になっております。
△△株式会社の□□です。
4月20日にお約束いただいているお打ち合わせでは、
まず顧客管理システムの製品説明をさせていただきます。
また、ご注文いただいた名刺管理ソフトの納期についてもご報告できるかと存じます。
それから、もしお時間に余裕があるようでしたら、
弊社で新たに提供を開始したサービスについてもぜひご案内させてください。
不明点があるようでしたら、ご遠慮なくご指摘ください。
それでは、当日はなにとぞよろしくお願い申し上げます。
とても丁寧ですし問題ないように思えるかもしれませんが、やはり冗長です。相手の貴重な時間を奪わないこと、相手がすっと理解できることを考えるなら、以下のようにしてみるのはどうでしょうか。
〇〇様
お世話になっております。
4月20日の打ち合わせでは、以下の3つの内容を予定しております。
不明点があるようでしたらご指摘ください。
・顧客管理システムの製品説明
・名刺管理ソフトの納期のご報告
・弊社新サービスのご案内
以上、どうぞよろしくお願いいたします。
ずいぶんすっきりしたと思いませんか? これなら相手の時間を奪い過ぎることもありませんし、相手もスムーズに理解できます。それこそ、すでにつき合いのある相手になら、毎回わざわざ名乗る必要もありませんよね。
■オンライン会議に重要なものはリアルの会議と変わらない
リモートワークとなったことのもっとも大きな変化となると、やはり「オンライン会議」の活用でしょう。
オンライン会議においては、「こういうときは音声をミュートにする」だとか「こういうときはビデオをオフにする」といった、まさにマナーのようなものが取り沙汰されていますが、それらはそれほど重要ではないというのがわたしの考えです。
なぜなら、そういったマナーは、相手と共有していてこそマナーとして成立するものだからです。相手が知らないマナーをどれだけ実践したとしても、相手がマナーだと受け取ってくれなければなんの意味もありません。
そんなことよりも何倍も重要なことは、先のメールとも共通しますが、相手の時間を無駄に奪うことなくスムーズに会議を進め、会議の目的をきちんと果たすということに尽きます。つまり、原則はリアルの会議となんら変わらないのです。
わたしは、オンライン会議となったことで会議が難しくなったとは思っていません。これまでのリアルの会議でも会議が下手だった人たちの、「会議が下手だというその事実」が、オンライン会議でよりはっきりと露呈したということに過ぎないのではないでしょうか。
その会議で決めるべき議題があるのなら、事前に参加者たちと共有しておく。内容が複雑なことなら、スライドなどを用意して会議中に共有する。そして、議事録をつくって最後に共有する。これらは、会議をスムーズに進めて会議の目的を果たすために、リアルかオンラインかを問わず欠かせないことです。
もしオンライン会議特有のものがあるとしたら、共有する資料の文字の大きさくらいのものでしょう。参加者の環境によっては資料の文字が小さく見えるということもありますから、リアルの会議の資料より文字を大きくすることは考えてもいいかもしれません。
ちなみに、わたしの会社では週に1回くらいのペースで会議をしていますが、だいたい6分ほどで終わらせています。そうする理由は、社員たちの貴重な時間を奪いたくないからです。そして、6分ほどで終わらせられるのも会議の目的や課題を事前にメールで共有しているから。その目的を果たせば、あとは社員たちの表情を見て、困っていることがないかを聞くだけで十分です。目的もよく見えない長時間にわたる会議ほど無駄で参加者にとって失礼なものはありません。
■初対面の相手との距離を縮めるのは、「相手を知ろう」という姿勢
ただ、リモートワークによって増えた、「初対面の相手」とのオンライン会議の場合なら、無駄とも思える雑談をすることも一考してみましょう。
オンラインでの初対面の相手に対して「距離を感じる」という人もいると思いますが、それは「相手に失礼がないように」と考えるあまりに、「余計な話はしないほうがいい」と思っているからですよね。でも、リアルの場であれば本題の前に自然と雑談をしていませんでしたか? その雑談こそが、相手との距離を縮めてくれます。
最大のポイントは、「相手のことを知る」ということです。なぜなら、人に対する親近感を左右するのは、「相手がどれだけ自分のことを知ってくれているか」ということだからです。
上司に小言をいわれるのだって、自分のいいところも悪いところも、それこそプライベートのこともよく知ってくれていて信頼している上司からいわれるのだったら、素直に受け入れられるでしょう。でも、ふだんは自分のことを全然見てくれていないのに、たまたま表面化したミスだけを取り上げて小言をいってくる上司にはやはりカチンとくるものです。
ですから、「相手のことを知る」ことが、相手との距離を縮めるポイントとなり得るのです。初対面の相手に共通の知人がいるようなら事前に相手の情報を仕入れて、それをもとに雑談をしてみてください。
そういう情報を得られない場合も、「余計な話はしないほうがいい」などと思わずどんどん質問をしてみましょう。立場を逆転して考えてみればわかると思いますが、自分のことを積極的に知ろうとしてくれる人に対して嫌な印象は抱かないはずです。
構成/岩川悟(合同会社スリップストリーム) 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人