■「ななつ星 in 九州」トークショー、ミニコンサートも

短時間の休憩を挟み、次はゲストを招いた上でのトークショーが実施された。JR九州取締役相談役の唐池恒二氏と、俳優の檀ふみさん、ほぼ日代表取締役社長の糸井重里氏を迎え、「ななつ星 in 九州」とその旅の魅力について、トークが展開された。

檀さんは、思い出としてしか残らない贅沢が好きとのことで、何度も荷物を出し入れしなくても九州の各地に連れて行ってくれるところや、「ななつ星 in 九州」の隅々までの面白さ、個性豊かなクルーなどに魅力を感じていると話す。九州にゆかりのある檀さんとしては、「ななつ星 in 九州」が九州全体を巻き込んで列車が走っていることや、沿線からも多くの人々が手を振ってくれることに感動したとのこと。

糸井氏からは、旅の面白さは何かと考えると、「離れたい」という遠心力にひとつ、戻ってくることにもうひとつあるのではないかという話があった。遠心力と求心力という風にも例えられる。「ななつ星 in 九州」に関しては、(規模は違うが)遊園地のアトラクションと同じ構造として、「行きたい」と「帰りたい」を両方満たす列車と見ていたようだ。その上で、実際に「ななつ星」に乗った際は、動いていることさえ忘れる時間を体験し、それを他では味わったことがないとのこと。

そこに唐池氏が補足する。そもそも鉄道は、A地点からB地点へ移動するための手段だった。新橋~横浜(現・桜木町)間の鉄道開業からずっと移動手段としての鉄道が続いてきた中、「ななつ星 in 九州」は博多駅を出発し、コースを周遊して再び博多駅に戻ってくる。明確な目的地がなく、ぐるっと回って元の駅に戻ってくることは、「ななつ星 in 九州」ならではだという。

  • 「ななつ星 in 九州」トークショーのフォトセッション(写真左から水戸岡氏、糸井氏、檀さん、唐池氏)

途中からは、作曲家の川井憲次氏、ドーンデザイン研究所の水戸岡鋭治氏も登壇。川井氏はこれまで「ななつ星 in 九州」に6回乗車しており、そのたびに「ななつ星」を満喫しているという。「福岡とかは行ったりしますけど、旅行自体としてはすごく少なかったんですよ。だから、『ななつ星』に乗って九州の良さを再発見した」とコメントした。「ななつ星」に乗車している間、風景を見て、お酒を飲んでいると、作曲家であることを忘れているという。「きっとそれがまわりまわって、次の(曲を)作る力になるのかな」と川井氏は語った。

水戸岡氏は、「ななつ星 in 九州」を制作した当時の思い出はほとんど忘れてしまったとのことだが、昨年、「コンデナスト・トラベラー」の読者投票を通じて世界一に輝いたことに驚いていた様子。乗ると思わなかったものに乗ってくれる利用者はもちろんのこと、訓練から始めたら10年間努めているクルーらが、感動を忘れず、手間暇を惜しまずに取り組み、かつ自らも旅を楽しんでいることに感謝しているとのことだった。

最後に糸井氏は、「あの中で、つまらない時間がもしあったとしたら、それはそれで楽しいんじゃないかと思っています。1人旅のときって、つまらないものはつまらないって言えるじゃないですか。その良さをこれから味わってみたい」とコメント。檀さんは、「カップルじゃないとつまらないかなって思っていたのですけど、自信を持って言わせていただくと、1人で乗っても楽しかったです」とコメントした。

  • 「ななつ星」と、その旅の良さを話し合った。途中からは川井氏と水戸岡氏も登壇

新商品発表会の最後にミニコンサートも行われた。「ななつ星 in 九州」テーマソング参加、楽曲提供、および7周年記念ミニコンサートへ出演した、シンガーソングライターの池田綾子さん、ピアニストの光田健一さん、ヴァイオリニストの水谷晃さんが出演。3曲を披露した。池田さんとJR九州には、九州新幹線「つばめ」CMソングのときから18年来のつながりがあるとのこと。

演奏中、「ななつ星 in 九州」公式動画を再生しながら曲が進行する場面もあり、「ななつ星」の運行に携わる関係者や、沿線から手を振る人々の笑顔、最後部車両の窓から見える風景などが映し出された。筆者はまだ一度も「ななつ星」に乗ったことがないが、優しく、心に響く音楽や、地域住民の笑顔が集まった動画を通じて、「ななつ星」がさまざまな地域や人々をつなげていることを少しだけ体感できた。

  • 「ななつ星 in 九州」のミニコンサートも開催。3曲が披露された

今後、最も安い1泊2日コースのスイート(2名1室利用の場合)でも1人あたり65万円かかり、定員は10組20名までとなるため、乗車できる機会はめったにないかもしれない。それでも、9年目を迎えるまでに約1万7,000名に利用され、列車運行・沿線観光に携わる関係者、沿線やファンなど多くの人々に愛されてきたからこそ、「ななつ星 in 九州」の今がある。JR九州公式サイトでも「ななつ星 in 九州」の紹介や、過去に行われた7周年記念企画の様子が見られるので、気になったらチェックしてみてほしい。