ラストスパートはもう目の前となったNHKの連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』(総合 毎週月~土曜8:00~ほか)。3代目ヒロイン・ひなた(川栄李奈)の物語では、祖母・安子(上白石萌音)編と母・るい(深津絵里)編での様々な“しこり”が次々と解消され、視聴者をうならせている。藤本有紀脚本による怒涛の伏線回収劇には、制作統括の堀之内礼二郎氏も「脚本を読んだ時、僕も正直、視聴者のみなさんと同じようにびっくりしました」と驚きを隠せない。
■3世代に共通するキーワードが多数登場
「序盤に描いていた何気ない日常的な場面も、中盤以降で響き合って感動を生む作りになっているのがすごい」と藤本脚本を絶賛する堀之内氏。昭和初期からスタートし、平成、令和と3つの時代にわたって親子の絆を描く本作では、NHKラジオで流れるカムカム英語や、あんこのおまじない、高校野球など、3世代に共通するキーワードが多数登場してきた。るい編でも、安子編とリンクするシーンがたくさん挿入されてきたが、ひなた編では、これまで描かれていなかった空白の過去が明かされることで、途切れていた親子関係はもちろん、様々な人間の縁がつながっていく。
SNSでも話題沸騰だが、とにかく伏線回収の数でいえば、枚挙にいとまがない。1つ例を挙げれば、安子編で自転車の乗り方が危なっかしかった安子と彼女を見守る雉真稔(松村北斗:SixTONES)のシーンは、同じくるい編でも、自転車に不慣れな錠一郎(オダギリジョー)をるいがサポートするシーンとして描かれた。
堀之内氏は「自転車のシーンで、るいが錠一郎に言う『前を向いて漕ぎ続けていたら進むから』という台詞は、稔さんも言っていたものです。普通に見ていて、何気ない台詞であっても、これまで通しで見てくださった視聴者の方なら、きっと気づいてくださる。全編がそういう構造になっているので、毎週、感情がかき立てられます」と感心しきりだ。
3世代のヒロインがバトンを受け継いできた理由はきっとそこにあったに違いない。「それは藤本さんの狙いだったと思いますが、正直僕たちとしてはこんな見たこともない構造になる、ということまでは読み切れていなくて、『どうなるのかわからないけどなんだか面白くなりそうだ』という感覚をチームみんなで信じて、チーム全員がそれぞれの仕事や工夫をひたすら真摯に積み重ねてきたのですが、その結果がこうなったのか! という感じです」
■丁寧に描かれてきた親子の愛や葛藤
親子の愛や葛藤が描かれたのは、安子やるい、ひなたというヒロインだけに限ったことではない。安子の兄・橘算太(濱田岳)と父・金太(甲本雅裕)親子や、モモケンこと初代桃山剣之介と二代目桃山剣之介(いずれも尾上菊之助)親子など、一筋縄ではいかない父と息子の切っても切れない絆も丁寧に描かれてきた。
堀之内氏によると「藤本さんと『このドラマでは親子の関係を熱く描いていきましょう』というような話は特に話してないです」としたうえで「親、または親のような存在との関係性は誰にとってもとても大事なので、人間を真摯に描くことをやっていった結果が、親子というテーマにもつながっていったのだと思います」と捉えている。
堀之内氏は「19週からさらに色々なところで響き合いが生まれていきますが、20週はその中でも特別です」と期待感を煽っていたが、実際に第20週は感動の嵐となった。特に、るいが算太ことサンタ黒須(振付師としての芸名)からとっておきの“クリスマスプレゼント”を受け取ったことで、岡山の雉真家を訪れることとなり、安子、るい、ひなたの3人を結びつけるカムカム英語の話にたどり着くという美しい流れには、まさに涙腺崩壊となった。
「遂に、るいさんが実家の岡山に行きたいと思うところまで辿り着きますが、その気持ちの変化が、時の力を借りたるいさんの成長なのかなと。安子編の第8週(安子がるいを置いて渡米する)をご覧頂いた時には感情を乱されたという方も多かったと思いますが、思い出して頂けば、当時とは全然違う感情を感じて頂けるのではないでしょうか。僕自身もそうです。それは時の力が大きいのかなと思います。るいさんの心の中に起きていく変化を、ずっと観てくださった視聴者の方々も共有して感じていただきたいなと思っています」
果たしてこの後、安子とるいは再会できるのか? 最終回に向けて、今後の展開に胸が高鳴る。
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