クルマの電動化が急速に進み、メーカー各社が電気自動車(EV)のラインアップをそろえつつある。そんな中、2028年ごろに初のEVを投入する計画としているのが、スーパーカーメーカーのランボルギーニだ。EVでは後発となるランボルギーニだが、他社との差別化は可能なのだろうか。CEOに聞いた。

  • ランボルギーニ「ウラカンSTO」

    ランボルギーニの電動化戦略とは?

2021年は販売台数が過去最多に!

――2021年は売上高19.5億ユーロ(前年比19%増)、販売台数8,405台でいずれも過去最高となり、営業利益は3.93億ユーロ(49%増)、営業利益率は過去最高水準の20.2%に達しました。好業績の要因は?

ステファン・ヴィンケルマンCEO:新型コロナウイルス感染拡大の第1波の後、2020年の夏あたりから市場は予想を上回る回復ぶりを示していました。特に2020年末から2021年初めにかけては、世界中で急速な回復を遂げました。これが主な要因のひとつです。

  • ランボルギーニのステファン・ヴィンケルマンCEO

    ランボルギーニのステファン・ヴィンケルマンCEO。インタビューは複数のメディアがオンライン形式で実施した

  • ランボルギーニ「ウルス」

    販売台数の内訳は「ウルス」(写真)5,021台、「ウラカン」2,586台、「アヴェンタドール」798台。国別の販売台数はトップが米国の2,472台(前年比11%増)、2位が中国の935台(55%増)、3位がドイツの706台(16%増)、4位が英国の564台(9%増)

ヴィンケルマンCEO:それと、ブランド自体がいい状態にありました。つまり、主たる競合ブランドに比べて顧客の平均年齢が若く、トレンディーで若々しいブランドだというイメージが定着した結果、新たなユーザーやランボルギーニに興味を持つ人が増えてきているんです。「ウルス」(ランボルギーニ初のSUV)の導入により、新しい顧客層を獲得できたことも大きかったと思います。

それと、2021年にはV型12気筒エンジンを積んだ最後の「アヴェンタドール」に焦点を当てたキャンペーンを実施したのですが、こちらも好評で、業績に寄与しました。

  • ランボルギーニ「アヴェンタドール ウルティメ」

    ランボルギーニにとって、自然吸気V型12気筒エンジンだけを搭載する(ハイブリッドなどではない純粋なガソリンエンジン車としての)最後のモデルとなった「アヴェンタドール ウルティメ」(Aventador LP 780-4 Ultimae)

――今後5年間で18億ユーロの投資を計画しているそうですが、使い道は?

ヴィンケルマンCEO:これだけの短期間に18億ユーロの投資というのは、過去に例のない規模です。

主な使い道は、これから登場する3つの新モデルです。具体的にはアヴェンタドールの後継モデルとなるプラグインハイブリッド車(PHEV)、ウルスのPHEV、ウラカンの後継モデルとなるPHEVの3車種です。アヴェンタドールとウラカンの後継モデルを生産するには新たな生産ラインを構築する必要があるので、本社工場の改修にも資金を投じます。

それと、これまでのランボルギーニにはなかった仕事やポジションが必要になってくるので、人材獲得にも投資が必要です。

この18億ユーロには、EVの新モデルに関する開発費は含まれていません。

  • ランボルギーニ「シアン」

    ランボルギーニは2つの段階を経て電動化を推進する方針。第1段階はハイブリッド化(PHEVモデルの投入)で、最初のモデル(アヴェンタドールの後継)を2023年に発表し、2024年までに全モデルのハイブリッド化を完了する。第2の最終段階は2020年代後半のEV投入。ヴィンケルマンCEOはEV投入が2028年になるとの見通しを示した(写真はランボルギーニが2019年に発表した台数限定のハイブリッドモデル「シアン」)

EVでは後発メーカーとなるランボに勝算は?

――2028年にEVを投入するとのことですが、同じグループのポルシェやアウディはすでにEVを発売しています。なぜEV投入までにそれだけの時間を要するのでしょうか?

ヴィンケルマンCEO:ランボルギーニのような企業にとってはテクノロジーが最も重要なので、EV投入のタイミングについては他社とは違うアプローチをとっています。必ずしも市場で先陣を切る必要はありません。EV市場にスーパースポーツカーブランドを受け入れる準備ができた段階で参入し、市場に入ればベストな存在を目指します。

まずはハイブリッド化して、そのあとにEVを投入する方針ですが、これが正しいアプローチだと思っています。ただ、アヴェンタドールとウラカンの後継モデルはPHEVで出しますが、その後も続けるかどうかについては、まだ結論が出ていません。例えば、合成燃料を使うという可能性も残っています。

これから大切なのは、サステナビリティです。どの地域でも今後はエミッション(排ガスなどの排出量)の規制が厳しくなっていきますし、規制がある以上は合わせていく必要があります。作ったクルマはどの市場でも販売しなければなりませんので、最も規制が厳しい市場に合わせて作る必要があります。ただ、ランボルギーニなので、エモーショナルなクルマであることは外せない条件です。今あるクルマよりも、もっと高いパフォーマンスが出せるクルマを作らなければならないと思っています。

ランボルギーニのようなクルマを買う人は今後、増えていくと思いますし、既存ユーザーもこれからは、我々にサステナビリティを期待するはずです。特に若い世代は、サステナブルなクルマでなければ購入の検討すらしてくれなくなるでしょう。

――2028年には市場にEVがあふれているはずなので、ランボルギーニはEVの後発メーカーになると思うのですが、「ドリームカーを作るブランド」である以上、後から発売することになったとしても、皆を驚かせるようなEVであることが必要だと思います。何かアイデアや秘策はありますか? ただ電気で走るだけのランボルギーニでは、お客さんもがっかりすると思うのですが。

ヴィンケルマンCEO:電動化で先陣を切るわけではありませんが、電動化がランボルギーニの新たな世界を開くことは間違いありません。いろいろなEVを乗り比べていますが、フィーリングやセッティングはそれぞれ違います。これはいいニュースです。よく、「EVになったら、どのクルマも乗り味が変わらなくなるのでは」との意見を耳にしますが、乗ってみると違います。

ウルスが好例なのですが、このクルマはポルシェの「カイエン」やベントレーの「ベンテイガ」などと同じプラットフォームを使っているものの、乗ってみると乗り味が違います。同じプラットフォームでこれだけ違うんですから、ましてやプラットフォームが違えばかなりの差別化を図れるはずです。

EVでも独自のアプローチをとる余地は十分にあると思っていますし、いい結果が出せると自信を持っています。