国税庁の民間給与実態統計調査によると、令和2年の給与所得者の平均給与は433万円、男性は532万円、女性は293万円となっています。

そこで今回は男性の平均に近い、年収500万円の会社員を想定して、将来受け取ることができる厚生年金の受給額がいくらになるのか計算してみたいと思います。さらに、その年金額から引かれる税金や社会保険料についても解説します。

老齢基礎年金と老齢厚生年金

まずは、65歳から受け取ることができる老齢年金について解説します。

老齢基礎年金は、原則として国民年金に10年以上加入することで、65歳から支給されます。 国民年金の保険料は一律で、20歳から60歳まで漏れなく納めると、満額(令和3年度は78万900円)支給されます。

老齢厚生年金は、厚生年金保険の加入期間があり、老齢基礎年金を受け取るために必要な資格期間を満たした場合に、65歳から老齢基礎年金に上乗せする形で支給されます。この上乗せが報酬比例部分であり、収入や加入期間によって異なります。

老齢厚生年金の報酬比例部分は、給与や賞与に応じた保険料と納めた期間によって決まるため、詳細な記録がないと、将来受け取ることができる年金額を正確に算出することはできません。詳細な記録は毎年誕生月に、日本年金機構が郵送している「ねんきん定期便」(電子版「ねんきん定期便」はねんきんネット)で確認できます。

年収500万円の厚生年金受給額

ここでは、あくまでも目安として知るために、以下の条件を設定して、年収500万円の会社員が将来受け取ることができる年金額を出してみたいと思います。

<前提条件>
40歳の会社員(昭和57年生まれ)。20歳から22歳まで国民年金に加入。22歳から60歳まで(38年間/456ヵ月)厚生年金に加入。厚生年金期間の年収はずっと500万円(月給35万円・賞与80万円)と仮定。

<厚生年金(報酬比例部分)の計算式>
(1)平成15年3月以前=平均標準報酬月額×7.125/1,000×平成15年3月以前の月数
(2)平成15年4月以後=平均標準報酬額×5.481/1,000×平成15年4月以後の月数
(1)+(2)=厚生年金の年金額(報酬比例部分)
※昭和21年4月2日以後に生まれた人の給付乗率となります。

収入をあらわす基準として「平均標準報酬月額」と「平均標準報酬額」があります。

平均標準報酬月額は、賞与を除いた月給の総額を加入期間で割った額です。平均標準報酬額は月給と賞与を合わせた総額を加入期間で割った額です。平成15年4月を境に給与の計算方法が変わったため、年金額の計算はこのように分けて計算します。

例の会社員は平成16年に入社となるため、(2)の計算式で計算します。

41.7万円×5.481/1,000×456ヵ月=104.2万円
(千円未満四捨五入)

厚生年金の報酬比例部分は約104万円、これに基礎年金を加えると、約182万円となります。月額にすると約15万円です。

平均年収500万円の会社員の厚生年金受給額がイメージできたでしょうか。

条件によっては加給年金も支給される

加給年金は老齢厚生年金に加算される扶養手当にあたるものです。厚生年金保険の加入期間が20年以上ある人が、65歳になった時点で生計を維持している配偶者や子どもがいる場合に、一定の条件を満たすと、老齢厚生年金に加給年金が加算されます。

<被扶養者の要件>
配偶者:65歳未満
子ども:18歳到達年度の末日まで(現役の高校3年生でいる日まで)、または、1級・2級の障害の状態にある子の場合は20歳未満
※上記に加え、前年の年収が850万円未満であること

対象者 加給年金額(令和3年度)
配偶者 22万4700円(※)
1人目・2人目の子 各22万4700円
3人目以降の子 各7万4900円

※受給権者の生年月日に応じて特別加算あり
出典:加給年金額と振替加算|日本年金機構をもとに筆者作成

たとえば、例の平均年収500万円の会社員が65歳になった時に、扶養している65歳未満の配偶者と高校生の子どもが1人いた場合、約182万円の老齢厚生年金に加給年金が44万9400円加算され、年金額はおよそ227万円になります。子どもが高校を卒業したり、配偶者が65歳になって自分の年金を受給したりすると、それに応じた加給年金は支給されなくなります。

年金からも税金が引かれる! 手取り額を計算してみよう

例とした年収500万円の会社員の厚生年金の受給額は概算で182万円となりました。しかし実際には、ここから税金や社会保険料が引かれて、手取りはこの額より少なくなります。 そこで、年金額が182万円だった場合の税金と社会保険料を計算してみたいと思います。

年金額182万円の税金と社会保険料

次の条件の年金生活者の所得税・住民税および社会保険料が、年間いくらになるのか求めてみましょう。

<前提条件>
東京都八王子市在住(68歳)
公的年金収入182万円(これ以外に収入はない)
一人暮らし

国民健康保険料

所得割額:(前年の総所得金額等※-基礎控除43万円)×8.4%
均等割額:加入人数×47,500円
※前年の総所得金額等=公的年金収入-公的年金等控除額

所得割額=2436円
均等割額=38000円(軽減措置の2割軽減に該当)
合計40436円

参考:年間保険税の決め方(令和3年度(2021年度))|八王子市公式ホームページ

介護保険料

今回のケースでは第6段階に当てはまります。
79400円

参考:令和3年度(2021年度)から令和5年度(2023年度)の介護保険料(所得段階)|八王子市公式ホームページ

所得税

(公的年金収入-公的年金等控除額-各種所得控除-社会保険料控除)×税率

182万円-110万円-48万円(基礎控除)-40436円(国民健康保険料)-79400 円(介護保険料)=12万164円×5.105%=6134円
所得税:6134円

※65歳以上で公的年金以外の収入がない場合、年金額が158万円(公的年金控除110万円+基礎控除48万円)以下であれば、非課税となります。(扶養者がいる場合は、表記の金額以上でも非課税となります)

住民税

住民税の税率は一律10%となります。

均等割は定額で課税されます。道府県民税(都民税含む)1,500円と市町村民税3,500円を合わせて5,000円となります。

27万円×10%=27000円
所得割=27000円
均等割=5000円
合計32000円

※65歳以上で公的年金以外の収入がない場合、年金額が155万円(公的年金控除110万円+基礎控除45万円)以下であれば、非課税となります。(扶養者がいる場合は、表記の金額以上でも非課税となります)

年金の手取り額は?

税金(所得税・住民税)が3万8134円、社会保険料が11万9836円となり、これらを全部足すと、年間15万7970円が非消費支出として年金収入から引かれることになります。

年金を182万円もらっても手取りは166万円程度になってしまうということです。

老後の生活をイメージしてみる

総務省の家計調査(家計収支編/2021年)によると、65歳以上の単身無職世帯の平均消費支出は1カ月あたり13万2476円、65歳以上の夫婦のみの無職世帯の平均消費支出は1ヵ月あたり22万4436円となっています。ちなみに同データにおける社会保障給付は65歳以上の単身無職世帯は平均12万470円、65歳以上の夫婦のみの無職世帯は平均21万6519円となっています。

先ほど出した手取り収入166万円から65歳以上の単身無職世帯の平均消費支出を年額にした約159万円を引くと、年間7万円の黒字となります。

このことから、新卒から定年まで、平均年収500万円で働いてきた会社員は、年金だけで生活することは可能であることがわかります。ただ、個々の状況によって必要な生活費は変わってくるので、あくまでも目安としてみてください。また、不測の事態が起きると、収支は大きく変わってくるので、老後の安心のためにも老後資金を蓄えておきましょう。