日本コロムビア『快傑ズバット オリジナル・サウンド・トラック』ジャケット(著者私物)

本日「2月2日」は「70年代東映特撮ヒーロー」ファンにとって、ひときわ印象深い日として知られている。それは今や伝説的に語り継がれる痛快アクションヒーロー作品『快傑ズバット』の放送開始日だからである。

「仮面ライダー」や「スーパー戦隊」といった人気シリーズとは一味違う“単体作品”の『快傑ズバット』には、他のヒーロー作品にはない独特の個性があり、一度でも本編を観てしまうとあまりの面白さにハマる人が続出するという、不思議な魅力が備わっている。放送開始から45年を迎えたことを記念し、東映特撮ヒーローの可能性を大きく拡げた意欲作『快傑ズバット』とはどのような作品だったのか、解説していきたい。

東映製作、石ノ森章太郎原作の連続テレビドラマ『快傑ズバット』は、1977年2月2日より9月28日まで、東京12チャンネル(現テレビ東京)系で毎週水曜日夜7:30~8:00に、全32話が放送された。

小林旭主演の日活アクション映画『渡り鳥シリーズ』をヒントに、単純明快、勧善懲悪といった無国籍アクションの面白さを目指して作られたのが『快傑ズバット』である。本作が製作された77年という時代は、等身大・特撮ヒーローの世界にも巨大メカニックや宇宙的規模のスケール感などが求められることが多かったが、本作の場合、意識的にヒーローの乗り物や武器を最小限にとどめ、そのシンプルさゆえに印象を強める結果となった。

快傑ズバットこと私立探偵・早川健を演じたのは、『仮面ライダーV3』(1973年)で仮面ライダーV3/風見志郎、そして『秘密戦隊ゴレンジャー』(1975年)でアオレンジャー/新命明を演じたアクション派俳優・宮内洋である。『快傑ズバット』は、『秘密戦隊ゴレンジャー』の撮影終了直後、宮内が三たび挑んだ変身ヒーロー作品。仮面ライダーV3とアオレンジャーですでに、精悍なルックスとシャープな立ち回り、そして爆発の中をかいくぐったり水の中に飛び込んだりという危険なシーンにも果敢にチャレンジする姿勢で子どもたちの心をガッチリとらえた宮内は、自他ともに認める「変身ヒーロー」役者として高い人気を得ていた。『快傑ズバット』は、そんな宮内のヒーロー性、スター性をぞんぶんに活かすべく、構想が練り上げられたのだという。

さすらいの私立探偵・早川健(演:宮内洋)は、親友の科学者・飛鳥五郎(演:岡崎二朗)を無残に殺害した犯人の手がかりを捜し、日本各地を旅している。早川の行くところ、必ずといっていいほど悪党の集団が暴力をふるい、善良な人々を苦しめていた。弱い者を見捨てておけない早川は悪のボスの前にさっそうと現れるが、ボスが雇った腕自慢の殺し屋用心棒がそこに立ちふさがる。一度は武芸勝負に勝利する早川だが、悪の攻撃は卑劣かつ執拗だった。罠にはめられた早川は絶体絶命の危機に陥るが、悪党たちが目を離した一瞬、早川の姿が消える。そして次の瞬間、ズバットスーツに身を包んだ早川=快傑ズバットが、ズバッカーに乗ってかけつけるのである。

本作の魅力は、なんといっても早川健を演じる宮内洋の「カッコよさ」を徹底的に追求したヒーロー像だろう。熱血漢の風見志郎、クールな新命明とも違う、劇画的にまで誇張したキザな早川健の立ち振る舞いを見事に決めてみせる宮内の演技は絶品で、相手を小馬鹿にするような言動で煽る、相手の言葉を涼しい顔で聞き流すなど、ギャグになるギリギリ寸前というべきクールでキザなふるまいが強烈な印象を残した。また、非道な悪党たちにまっすぐな怒りを向ける熱血な部分、凶悪事件の謎を見事に解き明かす私立探偵としての能力の高さ、女性や子どもを守る頼もしさ・優しさなども表現し、早川を血の通った人物として作り上げている。

そして、毎回登場する個性的なボスたちのインパクトも重要である。本作におけるズバットの敵はみな、首領L(演:はやみ竜次)が君臨する「悪の大組織ダッカー」の配下という設定。日本の各地でのさばる悪の団体は、地獄組(地獄竜)、金バッジ連合(金仮面)、まむし平和会(ミッキー蛇山)、ナチス連合会(ナチスジャガー)、ぐれん団(キングボー)など、どれも濃密な個性を有している。それぞれの団体のボスは、改造人間やロボットではなく生身の人間でありながら、殺人、爆破、脅迫、誘拐などを平気な顔でやってのける、極悪非道極まりない奴らなのだ。

悪ボスが雇っている殺し屋用心棒たちも、非常に濃厚なキャラクターがそろっている。「ガンマン(ランカーク)」「居合斬りの達人(風流之介)」といった、生きる時代を間違えているかのような仰々しい用心棒は『ズバット』の世界では当たり前。やがて回を追うごとに「爆弾を投げる釣師(釣師十兵衛)」や「瞬時に拷問台を作り上げる殺し屋大工(カーペンター甚十郎)」「皿と包丁で敵を料理する殺し屋コック(伊魔平)」「殺人手品師(ダンディハリー)」「殺し屋占い師(ウリ・ケラー)」「殺人テニスプレーヤー(陣太郎/演じるはキレンジャー・大岩大太役の畠山麦)」「槍使いの婆さん(ガラバー)」など、「怪人」というより「奇人変人」といったほうがピッタリくるような刺激的なキャラクターが続出した。

早川は、奇想天外な殺しのテクニックを披露する用心棒を前にしてまったく動じることもなく、涼しい顔で「日本じゃあ二番目だ」と言い放ち、その言葉のとおり用心棒の技をはるかに上回る超絶テクニックで勝負を制してしまう。全32話中30話を手がけたメイン脚本家・長坂秀佳氏による卓越したアイデアの産物といえる早川と用心棒との「日本一対決」では、まず用心棒の人間離れした技を考えた上で、それを上回る早川の超絶技を考えていたのだという。早川の「日本じゃあ二番目だ」そして快傑ズバットの「ズバッと参上、ズバッと解決。人呼んでさすらいのヒーロー、快傑ズバット!」といった決めゼリフに彩られた番組フォーマットはほぼ固定されており、そこに悪ボス&用心棒のあまりにも強すぎるキャラクター性と、二転三転するミステリアスなストーリーが盛り込まれ、毎回見ごたえのある特濃エピソードが繰り広げられた。

得意のムチさばきで用心棒を倒したズバットは、うろたえるボスに向かって次のように問い詰める。「2月2日、飛鳥五郎という男を殺したのは貴様か!」 しかしたいていのボスたちにはその日のアリバイが存在し、日本にいなかった(=真犯人ではない)ことが判明する。ズバットはいつか真犯人を見つけ出す日が来ることを心の中で願いつつ「この者 極悪殺人犯人」などと書かれたズバットカードを投げ、戦意を失ったボスを警察に引き渡すのである。

後半より、ブラック連合のムッシュ神が「ドイツにいた」、邪悪党の悪天坊が「インドで修行をしていた」と、2月2日(=飛鳥の銃撃が行なわれた日)のアリバイを訴えることが多くなり、中には紅狐党の紅フォックスのように「俺はそのころシシリー島でスパゲッティを食べていた」と、ズバットがそこまで詳しく聞いていないことまでしゃべる者も出てきた。「早川と用心棒の日本一対決」「ズバットの名乗り」そしてラストの「ボスへの尋問」「ズバットカード」と、毎回のエピソードに組み込まれるこれらの「定番シーン」も創意工夫に満ち、観る者を楽しませた。

変身ヒーローやメカニックアクションの要素を盛り込みつつ、早川健の「復讐」を軸にドラマ性を重視した『快傑ズバット』は子どもたちだけでなく青年層にも好評を博し、SFテレビアニメをはじめとする若者カルチャーを取り上げた雑誌『月刊OUT』の1977年11月号「東京12チャンネル特集」で、ライター富沢雅彦氏による秀逸な「快傑ズバット紹介記事」が発表されたこともあった。しかし一方で、当時の東京12チャンネルは地方局とのネットワークが固まっておらず、未放映の地域もあったため、長らく『ズバット』は特撮ヒーローの中でもややマイナーな存在という扱いを受けていた。

状況が一変したのが80年代の中盤ごろ。「仮面ライダー」シリーズをはじめとする70年代東映特撮ヒーロー諸作品がビデオソフトで復活する「レトロブーム」が巻き起こり、セルおよびレンタルでかつてのヒーローたちにふたたび注目が集まった。そんな中、我らが『ズバット』もビデオソフトとして東映ビデオからリリースされ、特撮ファンから再評価されることで知名度と人気を高めていった。2002年には作品の成立過程から宮内洋ロングインタビュー、全「ボス&用心棒」紹介を含む詳細なエピソードガイドなど濃密内容で迫る研究本『快傑ズバット大全』(双葉社)が刊行されている。

  • 『快傑ズバット大全』表紙(著者私物)

宮内洋は『快傑ズバット』終了後、ほとんど間を置かず『ジャッカー電撃隊』第23話(10月1日放送)「白い鳥人!ビッグワン」より行動隊長ビッグワン/番場壮吉としてレギュラー出演する。変装の名人で神出鬼没。コミカルな扮装で犯罪組織クライムの侵略ロボットをからかうひょうきんさと、ジャッカーを助けて華麗に立ち回るカッコよさを併せ持った番場は、宮内洋が演じる第4のヒーローとして新たな魅力をふりまいた。宮内によると、番場を演じる際は早川健より設定年齢を高くし、敵を上から見下ろすくらいの余裕を備えた人物を表現したという。番組の内容強化のため招かれた宮内は『ズバット』での勢いを止めることなく『ジャッカー』でも大暴れし、作品の娯楽色アップに貢献。見事、周囲の期待に応えた。

『快傑ズバット大全』のインタビュー中で宮内は「早川健イコール宮内洋です」と、いかに快傑ズバット/早川健が自身にとって「当たり役」であったか、その愛着の強さを言葉にしていた。放送開始から45年という節目を迎えた今日、みなさんも『快傑ズバット』第1話「さすらいは爆破のあとで」をご覧になり、私立探偵・早川健の「復讐の旅」の始まりを今一度追いかけてみるのも一興ではないだろうか。

『快傑ズバット』は東映特撮ファンクラブ(TTFC)にて全32話を配信中。