映画やテレビドラマなどでも頻繁に描かれることもあり、「フラッシュバック」という言葉を知らない人はいませんし、「フラッシュバックとはこういうもの」というイメージは多くの人が持っているでしょう。でも、専門的な観点から見た場合、フラッシュバックとは果たしてどういうものでなぜ起きるのでしょうか—。

  • 「過去の嫌な記憶」でつらくなる…。「フラッシュバック」の正体と逃れ方 /心理カウンセラー・中島輝

心理カウンセラーの中島輝さんに、フラッシュバックの正体、そしてフラッシュバックからの逃れ方について解説してもらいました。

■フラッシュバックが起きる要因は、メンタルヘルスの低下にある

「フラッシュバック」とは、過去に強いトラウマ体験を受けた場合に、あとになってその記憶が突然思い出される、あるいはその記憶を夢に見る現象を指します。

そのトラウマ体験、嫌な記憶というものは人それぞれです。愛する家族を大病や不慮の事故で亡くしたとか、いまの時代からはなかなか想像もつきにくいですが、戦争経験者であれば兵士として人をあやめてしまったこと、味方兵士が目の前で亡くなったなど、強いショックを伴う出来事がトラウマ体験となり得ます。

そのフラッシュバックが起きるにはいくつかの要因があり、いわゆる「自己肯定感」や自律神経も大きくかかわっています。

自己肯定感とは、「ありのままの自分を肯定し、認めることができる感覚」のことです。その自己肯定感が高まっている、つまり自分の感情に「快」が多くメンタルヘルスがポジティブになっているときにはフラッシュバックは起きにくい。わざわざ解説するまでもなく、「いま、わたしは絶好調だ!」というときにフラッシュバックが起きにくいことは容易にイメージできますよね。

逆に、自己肯定感が低下し、自分の感情に「不快」が多くメンタルヘルスがネガティブになっているときは注意が必要で、フラッシュバックが起きやすい状況といえます。

それから、自律神経のうち、身体がアクティブなときに働く交感神経が優位になっているときにはフラッシュバックは起きにくくなります。対して、身体が休息モードに入っているときに働く副交感神経が優位になっているときはフラッシュバックが起きやすい状態です。トラウマ体験を思い出すのではなく「夢に見る」こともあるというのは、このことが関連しているのでしょう。

■フラッシュバックによりパフォーマンスが低下する

嫌な記憶を思い出したり夢に見たりするというのは、それだけですでに本人にとってよくないことであることはいうまでもありません。でも、社会人にとって、フラッシュバックを頻繁に起こしてしまうことのデメリットは他にもあります。それは、「パフォーマンスが下がる」ということです。

よい感情のことを心理学ではグッドフィール(good feel)といいますが、そういうグッドフィールを持てていると、グッドシンク(good think)、つまりいい思考ができて、そしてグッドアクション(good action)をとることができます。

でも、フラッシュバックが起きてしまうと、あたりまえですがグッドフィールを持つことは難しくなります。逆に、バッドフィール(bad feel)という悪い感情を持ち、連鎖的にバッドシンク(bad think)、つまり悪い思考をしてしまい、その後の行動もよくないバッドアクション(bad action)となります。

あるいは、アクションをとることすらできず、行動しないノーアクションだとか、仕事相手からのメールなどにも対応できないノーリアクションといった事態にも陥ってしまいます。そんな状態ではパフォーマンスが上がるはずもありませんよね? その結果、年収も上がりにくいということにもなりかねません。

とくに、日本の場合は注意が必要です。たとえばアメリカでは精神的な悩みによってカウンセリングを受けるときには保険が適用されます。でも、日本の場合は基本的には保険適用外です。そのため、フラッシュバックに悩まされている人も、その悩みをひとりで抱えていることも多いという事情があるのです。

■フラッシュバックによる感情の変化を楽しむ

では、少しでもそういう人たちの助けになるよう、わたしからフラッシュバックの逃れ方を紹介しましょう。

わたしがこれまでに見てきたクライアントや、セミナーの受講者のみなさんにもお伝えしてきたのですが、フラッシュバックから逃れるには、「変化を楽しむ」姿勢が欠かせません。フラッシュバックが起きたときには、ことさらにその恐怖に目を向けるのではなく、「あれ、また起きちゃったか」「そういうこともあるよね」といったふうに、自分の感情を客観視し、そしてその変化を楽しむことが大切なのです。

もちろん、これは簡単なことではありません。でも、フラッシュバックによる恐怖をそのまま恐怖として受け取り続けていれば、その恐怖から逃れることはできません。いつまでたってもフラッシュバックに恐怖を感じ続けることになるだけです。

では、どうすればフラッシュバックによる自分の感情の変化を楽しむことができるようになるのでしょうか? そうするには、ポジティブな思考を意識的に持つということに尽きます。そこで重要になるのが、自分の人間関係を、自分が好きな人や一緒にいると楽しめる人で固めることです。

もちろん、仕事では苦手な人ともつき合わなければなりません。でも、プライベートは別です。自分がネガティブになるような言葉ばかりをかけてくるような人はしっかりと遠ざけ、一緒にいると人生を楽しめる、ポジティブな気持ちになれる人との関係を深めるのです。

そうすると、その人たちが持つポジティブなエネルギーによっていつの間にか自分の思考もポジティブになります。そのため、フラッシュバックが起きたときにも深刻にとらえることが減っていき、いずれは「あれ、また起きちゃったか」「ま、しょうがないな」というふうに感情の変化を楽しむことすらできるようになっていくのです。

■自分の感情を客観視するメソッド「反省除去」

それから、ポジティブな思考を持つという意味では、「コーピングリスト」というメソッドもとても効果的です。これは、自分が楽しくポジティブな気持ちになれる行動を事前にリストアップするというものです。

フラッシュバックから逃れるという意味では、その場ですぐにできる行動をリストアップするのがいいいでしょう。たとえば、コーヒーを飲む、甘いものを食べる、散歩に出かけるといった具合です。

そして、いざフラッシュバックが起きてネガティブな思考になりそうなときには、このリストを見て楽しくポジティブになれる行動をとるのです。そうすれば、思考がネガティブな方向に向かう前にポジティブな方向に引き戻すことができます。

なぜこのリストが有効かというと、フラッシュバックに襲われたときにはポジティブになれる行動をとっさに考えるということが難しいからです。そのため、事前にリストアップしておくことで行動に移しやすくしているというわけです。

また、先に「自分の感情を客観視する」ことも大切だと述べました。そうするために効果的な方法が、「反省除去」というもの。これは、「過剰に意識することで生じている不都合な症状を、その過剰な意識を除去することで不都合な症状を取り去ろうとする心理療法」です。

フラッシュバックには恐怖が伴います。そのとき、ただ「怖い怖い怖い…」と思っているだけでは、恐怖にばかり意識をフォーカスさせているためにその恐怖はどんどん増大してしまうだけ。そうではなく、その意識を除去してしまいましょう。

具体的には、恐怖そのものではなく、「怖いと感じている自分がここにいる」というその状況に意識を向けるのです。そうすることで、その恐怖も「ただの感情」となります。湧き上がってきた恐怖という感情や、その恐怖を感じているということを、いわば「ただの出来事」として扱うということですね。

そうすれば、恐怖という感情も、その感情を持った自分自身も、「怖いと感じることもあるよな」と冷静に客観的にとらえることができるようになり、フラッシュバックは徐々に減っていきます。

もちろん、ここで紹介した方法を試してみても、フラッシュバックがなかなかなくならないという人もいるでしょう。それこそフラッシュバックは心的外傷後ストレス障害(PTSD)の特徴的な症状のひとつですから、あまりにもフラッシュバックが続くというのなら、専門医に診てもらうことをおすすめします。

構成/岩川悟(合同会社スリップストリーム) 取材・文/清家茂樹 写真/川しまゆうこ