「悪貨は良貨を駆逐する」は、「グレシャムの法則」とも呼ばれる考え方。ビジネスシーンにも当てはめることができます。では具体的にどのような現象を指すのでしょうか。

この記事では「悪貨は良貨を駆逐する」について、意味をわかりやすく紹介します。例文や類語、英語表現などにも触れていますので、ぜひ参考にしてください。

  • 「悪貨は良貨を駆逐する」の意味をわかりやすくいうと

    「悪貨は良貨を駆逐する」のビジネスシーンにおける意味とは

「悪貨は良貨を駆逐する」の意味

「悪貨は良貨を駆逐する」の読み方は、「あっかはりょうかをくちくする」です。意味は「価値としては同じでも、悪貨と良貨が同時に流通すれば、市場には悪貨ばかりが流通することになる」というもの。悪貨はよくない地金が使われていたりすり減っていたりするため、人々は良貨ばかりをため込んで悪貨を手放そうとするため、という考えからきています。

「悪貨は良貨を駆逐する」の由来

「悪貨は良貨を駆逐する」は、経済学の「グレシャムの法則」を表します。ここでの良貨は「金や銀の含有率が高い硬貨」、悪貨とは「金や銀の含有率が低く、混ぜものが多い硬貨」のことを指しています。

例えば、金含有率が80%の金貨Aと金含有率30%の金貨Bがあり、金額としてはどちらも同じ価値だとします。

人々がため込むと考えられるのは、金貨A。貨幣価値が下がったとしても、金貨に含まれる金そのものに価値があるからです。そのため金貨Aと金貨Bが同時に流通している場合には、金貨Bを手放すようになる、つまり市場には金貨Bばかりになる、という考えです。

実際に似たような事態が中世以降のヨーロッパで起こり、このような市場の状況をイギリスの財務官だったトマス・グレシャムが「グレシャムの法則」と名付けました。

日本でも江戸時代に悪貨が出回り、世界各地でも同じような状況になっていたことから、「悪貨は良貨を駆逐する」という言葉が生まれたのではと考えられています。

「悪貨は良貨を駆逐する」の使い方・例文

  • 業務に対してやる気のない新入社員が入ってきた結果、課内全体の活気がなくなってしまった。悪貨に良貨が駆逐されてしまったのだ。
  • 1社が値段と質を下げた商品を売るようになったせいで、この業界はどこも値段は安いが質の悪い商品ばかりになってしまった。悪貨に良貨が駆逐されてしまったね。
  • 「悪貨は良貨を駆逐する」を英語でいうと

    「悪貨は良貨を駆逐する」の例文を参考に、適切なシーンで使えるようにしましょう

「悪貨は良貨を駆逐する」のわかりやすい例

「悪貨は良貨を駆逐する」の例を2つご紹介します。

江戸時代の慶長小判

1601年に江戸幕府の誕生に合わせて発行された慶長小判。金含有率の高い立派なものでしたが、幕府は財政難を解消するなどの目的で1965年に元禄小判へ改鋳します。その際、元禄小判は大きさは慶長小判と同程度であるものの金含有率を下げて作られたものであったため、人々は慶長小判をそのままため込んだと言われています。

漫画やCDの海賊版

漫画やCDなどを、違法に安価で販売したりインターネットにアップしたりする海賊版。広まってしまうと正規の漫画や音楽が売れなくなり、海賊版という違法な商売がはびこってしまうというものです。

  • 「悪貨は良貨を駆逐する」の意味をわかりやすくいうと

    「悪貨」と「良貨」がある場合、人々は良貨を溜め込んでしまいがちです

「悪貨は良貨を駆逐する」のビジネスシーンでの例

「悪貨は良貨を駆逐する」は、ビジネスシーンにも当てはまります。「出来の悪い人材がのさばると、できる人材がいなくなってしまう」ということや、「ルーティーンワークに追われていると、創造的な仕事が後回しにされてしまう」ということを表しています。どういうことなのか、具体的に見てみます。

出来の悪い人材が増えると、できる人材が減る

例えば、自分の業績を上げるために不正をする人がいるとします。それを知った周囲が「自分も」と不正を働くと、やがて常習化してしまいます。しかし不正を働くことを嫌う人もいるはずです。そのような人は転職し、職場を離れるでしょう。つまり、職場には地道に仕事をこなす優秀な人はいなくなり、不正をするような出来の悪い人ばかりが残るということになります。

モチベーションについても同様です。モチベーションの低い人が社内にいると、そのやる気のない姿勢が周囲へ伝染し、職場の活気をかき消してしまうことになりかねません。仕事に意欲的な人はその雰囲気に嫌気がさし、やはり転職して職場を離れることも。職場の雰囲気はさらに悪くなってしまうということです。

ルーティンワークが多忙だと、創造的な仕事ができなくなる

仕事には事務作業などのルーティンワークが存在します。日常的にこなしている作業のため、人はこのルーティンワークから手を付けてしまいがちです。しかしルーティンワークが多忙になると、職場環境の改善や新規事業の立ち上げといった創造的な仕事が後回しにされてしまうことに。結果として、会社の成長につなげることができなくなるということです。

コンプライアンス遵守、密なコミュニケーションが大切

上記のような事態を避けるために会社に求められているのが、コンプライアンスをしっかり遵守すること、職場内でのコミュニケーションを活発に行うことなどです。不正を許さない、活気ある職場であれば「悪貨は良貨を駆逐する」というような事態も防ぐことができるでしょう。

  • ビジネス組織での「悪貨は良貨を駆逐する」の意味

    「グレシャムの法則」とも呼ばれ、ビジネスシーンにも当てはまります

「悪貨は良貨を駆逐する」の類語・言い換え表現

「悪貨は良貨を駆逐する」とは、ご説明してきたように「悪いものはよいものを追い出す」という意味です。類語には以下のようなものがあります。

憎まれっ子世にはばかる

「憎まれっ子世にはばかる」とは、「他人から嫌われるような人のほうが、世間では幅をきかせる」という意味のことわざです。「はばかる」には「遠慮する、ためらう」などの意味がありますが、ここでは「いばる、幅をきかす」という意味で使われています。

腐ったみかんの方程式 

「腐ったみかんの方程式」とは、「組織のなかに出来の悪い人がいると、周囲に影響して組織全体をダメにしてしまう」ということ。

箱の中に腐ったみかんが1つあると、他の腐っていないみかんまでどんどん腐っていってしまうという様子を例えています。ドラマ「3年B組金八先生」のなかで使われたことわざですが、今は慣用的な表現として認知されています。

割れ窓理論

「割れ窓理論」とは、「窓ガラスを割れたままにしておくと、その建物の管理が行き届いていないと見なされ、やがて地域全体の環境に悪影響を及ぼし新たな犯罪を招いてしまう」というものです。

「窓ガラスを割る」といった軽犯罪をしっかりと取り締まることが、凶悪犯罪を防ぐことにつながるという考え方です。アメリカの心理学者ジョージ・ケリングが唱えた説であり、「ブロークン・ウインドーズ理論」とも呼ばれています。

  • 「悪貨は良貨を駆逐する」の類語

    「悪貨は良貨を駆逐する」の類語は「憎まれっ子世にはばかる」などです

「悪貨は良貨を駆逐する」の対義語

次に、「悪貨は良貨を駆逐する」と反対の言葉を見ていきましょう。

道理に向かう刃なし

「道理に向かう刃なし」とは、「どんな無法者であっても、物事の正しい筋道には勝てない」ということ。「悪貨は良貨を駆逐する」に対し「正義は勝つ」という意味合いのため、対義語だと捉えることができます。

  • 「悪貨は良貨を駆逐する」の反対語

    「道理に向かう刃なし」とは、悪人であっても道理には勝てないという意味です

「悪貨は良貨を駆逐する」の英語表現

「悪貨は良貨を駆逐する」は、英語では「Bad money drives out good (money).」と表現されます。「drive out」は「追い出す、排斥する、駆逐する」という意味です。

似た表現に「Ill weeds grow apace. (雑草はすぐ伸びる=憎まれっ子世にはばかる)」というものもあります。

  • 「悪貨は良貨を駆逐する」を英語でいうと

    英語では似た表現に「「Ill weeds grow apace」があります

「悪貨は良貨を駆逐する」の意味や例を覚えておこう

「悪貨は良貨を駆逐する」とは、「悪貨と良貨が同時に流通した場合、良貨はため込まれ、市場には悪貨ばかりが流通することになる」という意味です。それが転じて、「悪いものはよいものを追い出してしまう」という現象に当てはめられることもあります。

職場の雰囲気や仕事の進め方といったビジネスシーンにも例えることができる表現ですので、この機会に覚えておきましょう。