面接のオンライン化や就活時期の多様化など、コロナショックや企業の採用手法の変化により、就活生が留意すべきことも変わりつつあります。自己PRや面接でよく尋ねられる学生時代に力を入れたこと(通称ガクチカ)などで思い悩む就活生も少なくありません。

自己PR、ガクチカで失敗しないために押さえておきたいポイントについて、就活のリアルな事情に詳しい大学ジャーナリストの石渡嶺司さんに聞きました。

■自己PRは無駄をそぎ落とし、誰にでもわかる表現で

……自己PRやガクチカではどんな失敗例がありますか?

エントリーシート(ES)でも面接でも同様ですが、自分を形容する際に余計な修辞を付けてしまう人が多いです。例えば「私などはつまらない人間ですが、得意な分野ではとことん頑張ります」など。これは単純に文字スペース、時間の無駄遣いです。

そもそも自分に絶対的な自信を持っている就活生などごく一部でしょうし、企業もそれを承知しているので、その不安をわざわざ言語化する必要はありません。

「普通」というキーワードも就活生の多くが使いがちです。当人をよく知る人であれば、その「普通」の度合いがわかりますが、ESを初めて読む人は「普通」かどうかは全くわかりません。あなたが「普通」かどうかの判断は相手に任せるべきです。

ガクチカでは、「好きなことをこれだけ頑張りました」というのもお薦めできません。この場合、学生のアピールポイントと企業の受け止め方で乖離が生じやすくなるからです。「嫌いなことを頑張った」と言うのはありですが、「好きなことを頑張った」は、わざわざ言う必要がありません。

……具体的に自己PRする際の留意点を教えてください。

同じ内容を自己PRするにしても採用担当者にわかりやすく伝えることが大事。そのために言葉を置き換える作業を私は「就活翻訳」と名付けてお勧めしています。例えば、ある学生のアルバイト体験での自己PRは次のようなものでした。

輸入食品を扱う食品店には、コーヒーサービスというものがあります。お店に来てくださるお客さんがコーヒーを飲みながら買い物を楽しめるように用意してあるものです。コーヒーサービスをしているといろいろなお客さんに出会います。理不尽に怒る人もいれば、ただただ話をしたくていらっしゃる人もいます。コーヒーサービスをしながら、お客さんの質問に答えたり、好みのコーヒーを提供したりと同時進行でしなくてはならないことがたくさんあります。私はこの食品店でのアルバイトを3年続けました。(232字)

これだと最初から最後までコーヒーサービスの説明になっており、メインは就活生本人ではなく、食品店とそのコーヒーサービスになってしまいます。この内容なら冒頭で「輸入食品店でのアルバイトです」と言い切れば十分です。無駄をそぎ落とす、これが1つです。

同様に熊本のある就活生の自己PR分を見ていたところ、冒頭に

「普通の飲食のアルバイトを地元でしていたのですが……」

とあったので、詳細を具体的にヒヤリングして情報を引き出した結果、書き出しを以下のようにまとめました。

(改善例)

スターバックスコーヒーでのアルバイトです。3年間、続けました。私が働いた店は熊本市内で唯一のドライブスルー対応をする店でした。そのため、いつも忙しく働いていたのです。(83字)

ポイントはより具体的にして誰にでも想像でき、わかりやすい内容にすること。「スターバックスコーヒー熊本××店」を「熊本市内で唯一のドライブスルー対応をする店、いつも忙しく」に変える作業、これが「就活翻訳」です。

■逆質問はあえてしなくてもOK

……面接で自爆してしまうのはどんなケースでしょう?

やりがちなのはいわゆる「逆質問」での失敗です。オンラインでも対面でも一通り面接が終わった時の常套句として「では面接は以上になりますが、最後にあなたの方から何か聞きたいことはありますか」というものがあります。

これにどう答えるべきか多くの就活生が悩みがちです。ダメな一例は、面接担当者が答えづらい質問を配慮なくぶつけてしまうケースです。

例えば「●●さんがもしいま就活生だとしたら、この企業に入社していましたか」など。仮定に無理がありますし、仮にそうでないとしても言えるはずがありません。ましてやまだ何の関係性もできていない就活生相手ならなおさらです。

「初任給はいくらですか」「福利厚生はどうなっていますか」など、あまりに基本的な質問をしてしまうのもNGです。ネットなどで調べればすぐわかることを聞いても「私は検索能力がものすごく低い人間です」と言っているようなものなので、極力やめたほうがいいです。

……逆質問では何を質問したらいいのでしょう?

戦略としては3通りあります。

1番目は質問がそもそもない場合で、「私のほうからは質問はありません。本日は私の話を聞いていただいてありがとうございました」と一言付け加えて退出します。これだときれいに終わることができます。

2番目は話したかった内容について質問してもらえなかった場合で、「質問ではないのですが、私の自己PRポイントについて少し補足させていただいてもよろしいでしょうか」と一言断った上で、OKをもらえれば話し足りなかったことをアピールします。ただし、序盤の選考で多人数の面接などの場合は、空気を読んで控えたほうがいいかもしれません。

3番目は「面接官のみなさんが普段若手にお話されているのはどのようなことでしょうか。もし差し支えなければ教えてください」など、その人の仕事観や流儀的なことを尋ねるケース。会社説明会ではあまり触れられないことが多く、しかし自分が働く上では参考にしたいことだと思いますのでありだと思います。

ただ、これも●●さんにとって仕事とは? ということになると答えにくいので少しリスキーかもしれません。一番無難なのは質問はせずお礼を言って引き下がる、あるいは自己PRの補足をするパターンですね。

  • 面接終盤の「逆質問」はあえてしなくても問題はない

■グループディスカッションは「全員で受かろう」という心構えで

……グループディスカッションでやってはいけない振る舞いは?

多くの学生は、グループの他の学生を論破したり、言い負かしたりすることが次の選考に進む基準だと勘違いしています。

グループディスカッションはディベート大会ではありません。例えば司会進行役を買って出る、相手とやり合って持論を押し通す、逆に安易に迎合する、といった振る舞いが有利に働くわけではありません。

グループディスカッションは序盤から中盤の選考で実施する企業が多いのですが、そこで人事が何を見ているかというと、主に参加者の人間性や協調性です。

例えば、場が停滞している時、あるいは意見が対立した時にどうアクションするかといったことです。うまく話せていない学生がいたとして、それを無視するのかフォローしようとしているか。それは入社後に周囲に理解の遅い社員がいたら助言してあげる人か、放置する人かということに繋がります。

また、自分の意見が通らなかった時に、ふてくされて終わりなのか、あるいは意見が通らなくても全体を前に進めようとしてるのかでは、入社後の態度もおおよそ想定できます。

……どんなことに気を配るべきでしょう?

1点目は「全員で受かろう」という心構えを持つこと。面接官も全員がいい印象であれば誰か1人落とすよりも全員通した方が話が早いはずです。

2点目はどこまで自分の意見を言って、どこで自分の意見を引っ込めるかを見極めること。3点目は時間配分を考えてしっかり目的を果たせるようにすること。

まとめると協調性、議論を前に進めようという目標達成意欲、時間管理の3つです。

■就活を通じて自己PRを見直してみる

……エントリーシートと面接で、自己PRやガクチカのポイントが違うのは問題ないですか?

ESで書いた内容と面接での自己PRやガクチカのポイントが同じほうが良いのか、違っていてもいいのかということですね。

もしESを提出した後に、自分が変えたほうが良いと考えるのであれば、私は変えてもかまわないと思います。理由を尋ねられた場合、「提出後に就職活動を続ける中で自分でも再検討しまして、こちらのほうがより私が伝わると思いました」ということであれば、本人の意思が弱いと判断する企業は、そんなには多くないでしょう。

学生のアピールポイントが就活を通して変わっていくというのはよくある話なので、そこはさほど気にしなくてもいいと思います。