コロナ禍であろうとなかろうと「素の自分」をアピールし、それを歓迎してくれる会社と出会うことが就職の本質だと語る雇用ジャーナリストの海老原嗣生さん。

  • 面接で必要な5つの要素とは? 「立て板に水の雄弁が"コミュ力"ではない」/ 雇用ジャーナリスト・海老原嗣生

面接の場で「素の自分」を無理なく伝えるための、エピソードの探し方やコミュニケーションの方法について聞いた。

■例えば「気が小さい」=「用意周到」。欠点は長所の裏返し。

……「素の自分」をアピールできるエピソード探しって結構難しくありませんか?

確かに難しいです。あなたはどういう人って聞いても、日本人はほぼ答えがすぐ出てきません。ただ逆にあなたの欠点は何? って聞くと具体例がどんどん出てきます。だから、そこからまず始めてみるのがいいでしょう。

大体悪いところというのは、ひっくり返すと良いところなんです。また、悪いところをどうやって克服したかという話は、その過程で苦しみながら直そうと努力する様子が垣間見えるし、そこに人柄がすごく出ます。

例えば以前、京都の大学で教えていたときに、ゼミの女子学生が「私は緊張しいで気が小さくて就活向きの性格じゃないし、いいところ何もないんです」と言っていました。でも、その「緊張しいで気が小さい」を裏返すと、「用意周到で準備万端」なタイプとなります。

ゼミでは例年4月に20人ぐらいで花見をするんですが、その年に彼女が場所取り係になりました。彼女は場所が確保できるか心配で心配で、まず3日前に行って確認すると、10時半だと全然空いてたそうです。次に2日前に昼前に行ったらもうほぼ埋まっていたそうです。そこで当日は10時に場所取りに行きました。

用意周到なことに彼女はシートの配置まで考えたそうです。数ある桜の木の中でも20人が座れる木は、3本ぐらい。しかもその3本が根の張り方とか木の形が違うから、ブルーシートも大きいのを1枚敷くんでは駄目で、例えば5人用が1枚、3人用が5枚といった感じで3カ所のどこになっても敷ける組み合わせでブルーシートを用意していたらしいんです。

僕はそのエピソードをそのまま自己PRシートに書きなさいと助言しました。結果、彼女は女性に人気の京都の自然食品の会社に内定できたそうです。自然食品の通販のバックヤードの仕事であれば、必ずしも前に出ていくタイプである必要はないし、真面目で、用意周到な人が欲しいはずだから、ピッタリな子が来てくれたと思うでしょう。

もちろん本人もすごく喜んでいました。このようにWin-Winの関係が本来あるべき就職活動の姿だと思います。

■口が達者で押しが強い=コミュ力がある、は間違い

……人事が重視する「コミュニケーション力」ですが、口が達者で押しが強い人が有利ということでしょうか?

違います。例えばメーカー系や流通系などは口下手な人が多いですね。日本の企業ってそもそも地味で真面目な人が多い。だから、そんなに明るくて突拍子もない人は、逆に採用されにくいと思います。口がうまい人が受かるわけじゃない、絶対に。

……でも、どうしても口がうまい人っていうふうに思いがちですよね。

それは企業側の問題もありますね。例えばメーカーの場合、採用の全面に立つ人がやたらかっこよくって話すのがうまい。だから説明会に参加した学生はみんな「ああじゃないと採用されないのか」と誤解するんです。僕はそんな人は綺羅星の中の1人だよって説明するんですけど。だから企業側もそうやってプレッシャーかけすぎてますよね。

じゃあそもそもコミュニケーション能力とは何か、ですが私は以下の5つだと考えています。

  • コミュニケーション能力の5つの要素とは?

1つ目の「説明して理解させる力」が強いことは、その人の大きな売りになります。

2つ目は逆に聞く力のこと。聞くと言ってもうなずくのではなくて、聞きだす力のほうです。わからないことを的確に質問して、相手が匂わせている部分に対して突っ込む。こういった的確に聞く力はビジネス上でも必要です。

3つ目は相手を慮る力。コミュニケーションは相手に対する配慮が必要です。

4つ目はいわゆるKY力。相手の懐に図々しく入っていく力です。

5つ目は逆に人に嫌われないことと人を嫌わないこと。会社は基本的に集団活動ですから、やっぱり嫌われるのも嫌うのも駄目です。

誰でもこの5つの能力のうちどれか近いもの持っています。もし、自分のコミュニケーション力をアピールするとしたら、そのどれかをしっかりエピソード化すればいいと思います。

■大企業の異能人材募集は「ないものねだり」

……よく「わが社に新風を起こしてくれる人材が欲しい」とトップが語る会社がありますが、真に受けていいものでしょうか?

これは大抵の場合、学生も企業もうまくいかないからやめたほうがいいですね。そもそもそういう学生は、旧態依然の停滞した会社は選ばない。大企業の場合は給料が良かったり、ブランド力で採れたりすることもありますが、社内は硬直状態だから多勢に無勢で、普通の人になっちゃうか辞めるかのどっちかになります。

だから僕は経営者にこう言いいます。「そんな新風巻き起こすような異能人材がほしいなら、会社をちょっとでもいいから変えてください。変わり始めれば、実例ができるから、そういう人たちも納得して『自分が変えられるかも』と思って入る可能性はあります」と。そもそも経営者ができないことを若手ができるわけがないのです。

逆に言えばそういうことを真に受ける学生は、そのレベルの人ということ。本気で変えられる人間は、おそらくベンチャーや外資や組織が柔軟な会社を志向します。もちろん、実際に新しい事業を起こした事例があって変わりつつあるなら入ってみてもいいと思います。変化の先頭に立てる可能性があるから。

だけど1つも実例のない企業は難しい。そういう異能人材ほど「いろんな会社が異能人材を求むって言うけど、口だけならいくらでも言えるよな」って思っています。結論としては、まずこういうマッチングは難しいと考えた方がいいです。