面接のオンライン化や就活時期の多様化など、コロナショックや企業の採用手法の変化により、就活生が留意すべきことも変わりつつあります。

エントリーシートや自己PR、オンライン面接で失敗しないために押さえておきたいポイントについて、就活のリアルな事情に詳しい大学ジャーナリストの石渡嶺司さんに聞きました。

■斬り捨てたプロセスの中にあなたの「売り」が潜んでいる

……年間300人以上のエントリーシート(以下ES)を添削されているそうですが、そのほとんどが「しょぼすぎる」ものだとか? どんな例がありますか?

代表的なのは、大したことない実績を大したことあるかのように書いてしまう例です。これは結果的にかなりしょぼいESということになってしまいます。例えば甲子園に出場しました、箱根駅伝に出場しました、全国チェーンの販売スタッフコンテストで1位になりましたという話なら確かに素晴らしい実績です。

しかし、そういう輝かしい実績を持つ学生など全体の数%もいないでしょう。ところが、SNSなどではあたかも実績が大事であるかのような話が出回っていて、誰もが実績を過大に書こうとしてしまう傾向があります。企業側はもともと学生の実績など9割方しょぼいと思っていますし、しょぼい実績に興味はありません。

……では実績がない人は何を書けばいいのでしょう?

学生が自分でしょぼいと判断して、勝手に斬り捨てている「プロセス」の中に、実は企業がすごく気になるようなポイントが潜んでいます。だから、そこを掘り下げて丁寧に書くべきです。

そこでどんな「プロセス」に注目すべきかですが、私はその人が何かに取り組んできた「期間」が重要だと考えています。最低でも半年続けたことであれば、実績が伴わなくても自己PR、ガクチカ(学生時代に力を入れたこと)とも説得力が増してきます。企業側からすれば将来活躍する見込みが立てられるので、エントリーシートの通過率も高くなるはずです。

例えば先日添削指導した学生は、ゼミの発表会で評価された話を書いていたのですが、正直私には全く響きませんでした。そこで何か長く取り組んできたことを話してと言ったところ、ドラッグストアのアルバイトをコロナ禍の期間もずっと続けていたというので、そこを深掘りしてみました。

コロナショックでマスクが日本中で不足し、ピーク時には1分に1回、お客さんから「マスクないですか」と尋ねられ、時には激昂したお客さんから「マスク隠してるんなら出せ」と怒られることもあったそうです。それでも彼は数ヶ月間、ひたすら謝り通していた。

彼がそこでもし心が折れたのであれば、簡単に辞めているはずです。でも辞めなかったという事実は、企業からすれば、この学生は入社後に何か顧客からクレームがあっても、そう簡単に挫折することはないだろうという見込みが立つわけです。ということで私はその逸話をそのまま書くように助言しました。

  • エントリーシートは実績よりもプロセスにフォーカスすることが大事

■エントリーシートだって1つの文章。書く力を鍛えるべし

……「文章力よりも中身が大事」は大間違い、だそうですね。

ここは意見が分かれるところですが、私は最低限の文章力、文章の基本は押さえるべきだと考えています。ポイントは次の3つです。

まず1点目。文章量は文字制限の80%以上は書くこと。400字以内が課題なら70%の280文字以下は減点対象です。大きな声では言えませんが、企業によっては50~70%以下は問答無用で落っことすこともあるようです。

2点目は文末が「ました」の繰り返しで、かつ一文一文がやたらと長い、いわゆる「悪文」を避けること。これは読みづらい上に、入社後の報告書一つまともに書けないのでは? と担当者を不安にさせます。ですから、文末は適度に変える、文章は適度に短くすることをお薦めしています。

3点目は設問に対してきちんと回答すること。当たり前のことですが、これができていない学生が実は多い。例えば「あなたが学生時代に失敗したこと。またその経験から得られた教訓は何かを答えなさい」という設問なのに、この条件を無視して、「私はこういうことで成功しました」と書いたり、教訓を書けと言っているのに、一言も書いていなかったりするエントリーシートが非常に多く存在します。

企業からすれば、指示されたことができないので、入社しても上司や先輩社員の指示にまともに応えられないという悪い見込みが立ってしまい、それなら早い段階で落とそうということになります。「設問の指示は絶対」だと、就活生には口を酸っぱくして伝えています。

上記3点は非常に基本的なことですが、私はこの3点すらできていない学生が少なくないという印象を持っています。

■電子版の読み飛ばしで思考の基礎体力を身に付ける

……文章力はどうやって訓練したらいいですか?

一番手っ取り早い方法の1つは、普段から新聞を読むことです。こう言うと多くの学生が一面からお悔やみ欄に至るまで全部読もうとして、途中で挫折することが多いのですが、文章力、読解力を高めることが目的なので、全て読み込む必要はありません。

まず朝は一面中心に大きな記事の見出しを拾っていくだけで充分です。次に時間が空いたときに社説や自分が気になる業界、関心があるテーマの記事を、少し時間をかけて読んでいきます。これなら時間をかけずにピンポイントで読み進められます。

社説やコラムが就活生にすぐに役に立つのかといえば、9割方はすぐには役には立ちません。しかし、新聞を読む行為はスポーツ競技のランニングや筋肉トレーニング同様、思考の基礎体力を付けるためのものです。読み続けることによって、だんだんと文章力や読解力が上がり、基礎教養が広まっていきます。

電子版か紙版かで言えば、電子版を強くお勧めします。電子版ならスクロールで興味のある記事をピックアップして、どんどん読み飛ばしていくことができます。また全国の地方版も見られて、地元に居ながら勤務を希望する地域の経済動向や現地の企業についての情報を得ることができます。