YouTube・サブスク動画配信サービスの台頭、視聴率指標の多様化、見逃し配信の定着、同時配信の開始、コロナ禍での制作体制――テレビを取り巻く環境が大きく変化する中、最前線にいる業界の“中の人”が語り合う連載【令和テレビ談義】。
第6弾は、バナナマン、東京03、オードリーなどと仕事し、“東京芸人”をよく知る放送作家のオークラ氏、制作会社・シオプロ社長の塩谷泰孝氏が登場。2人とともに『バチくるオードリー』、そして『新しいカギ』を手がけるフジテレビの木月洋介氏をモデレーターに、全3回シリーズのテレビ談義をお届けする。
最終回は、塩谷氏が率いる制作会社・シオプロの謎に迫る。お笑いに特化した集団による“全員野球感”とは。テレビ局で失われつつある技術継承とは。そして、ネット配信の隆盛やコンプライアンス意識が高まる中での戦い方とは――。
■フリーの“野良ディレクター”が集まってきた
――オークラさんと塩谷さんの出会いは、どこだったのですか?
オークラ:TBSのナイナイさんのお正月特番ですね。ちょうどチュートリアルさんが『M-1』で優勝したとき(2006年)の収録で、そのときの僕は若手作家としてイジられている頃だったので、「使えねえ作家だな」と思ってたかもしれないですけど(笑)。その翌年に『ゴッドタン』(テレビ東京)でレギュラーを一緒にやるようになりました。その後もTBSの『ドリームマッチ』とか特番をよくやって、一時期、年末の時期は毎年塩谷とずっと一緒に過ごしていたイメージがあります。あとはネプチューンさんの番組…
塩谷:『奇跡ゲッター ブットバース!!』(TBS)ですよ。
オークラ:そうそう(笑)
塩谷:だから、なかなか長い付き合いになりますね。
木月:塩谷さんがシオプロを立ち上げたのは、いつ頃ですか?
塩谷:27歳くらいです。『ガチンコ!』(TBS)が終わってすぐくらいの頃ですね。個人会社として立ち上げたから最初は誰もいなくて、『リンカーン』(TBS)や『ゴッドタン』でディレクターをやっていくうちに、だんだん仲間が増えていったんです。
オークラ:『ゴッドタン』には、フリーの“野良ディレクター”がいっぱいいて(笑)、彼らが「ちょっとシオプロってところに集まろうか」って入っていったイメージがありました。
木月:塩谷さんがたまたまその中で一番経営者っぽかったんですか?
オークラ:ちゃんと会社経営をしようとする人がいなかったんですよね。みんなのらりくらり生きているような人たちで、お笑いのディレクターってそういうのにしっかりしてない人が多かった(笑)。野武士みたいな人が多いから、「雇われたら、やりますけど」みたいな感じ。
木月:塩谷さんは違ったんですね。
オークラ:塩谷はしっかりしてましたよ。
塩谷:いやいや、そんなんじゃないんです。25歳くらいから、フリーの立場でやっていることが不安でしょうがなかったんです(笑)。会社を作れば同じお笑い好きの仲間が集まって、自分だけではできない何かをやり遂げれるかもしれないと思って作ったんです。
木月:意外(笑)
オークラ:僕の知ってるお笑いゴリゴリのディレクターの中で、一番不安症のイメージですね。
(一同笑い)
■仕事より『M-1』決勝観戦を優先するAD
オークラ:でも、「シオプロ」っていうのを認識したのは、『そんなバカなマン』(2015~17年、フジテレビ)くらいですよね。
木月:それくらいでしたよね。「シオプロ」っていう会社があるんだってみんな知ったのは。どれくらいの時期から、人が増えていったんですか?
塩谷:『ゴッドタン』をやってるあたりから、「入れてください」っていっぱい手紙が送られてくるようになったんですよ。どこにも募集かけてないのに、「募集してますか?」って電話の問い合わせもくるようになって。それで、当時ホームページがなかったんで、「とりあえず作るか」みたいな感じになって。
木月:今のかっこいいデザインのやつですか?
塩谷:その前に、目がチカチカするヤバいデザインのやつがあったんです(笑)
オークラ:やっぱり「シオプロ」っていうのがお笑いブランドとして見えたんですよね。『ゴッドタン』って特殊で、武闘派お笑いというより、“文系童貞バラエティ”だから、そういうオタク系のお笑いが好きな人たちが応募してきたんじゃないかな。
塩谷:たしかに(笑)
木月:シオプロ生え抜きの人で活躍されている方もいるんですよね。
塩谷:一番最初に応募してきたのは、美濃部(遥香)Pですね。あの子は全く募集してないときに手紙をくれた子です(笑)
オークラ:「お笑いが好き」と言ってきたADやスタッフで女の子が結構いましたけど、いまだに付き合いがあるのは美濃部くらいですよね。『ゴッドタン』とか『チャンスの時間』とか『バナナサンド』とかやってる。本物ですよね。
塩谷:お笑い濃度の高い番組ばっかりやってます(笑)
木月:やっぱりそういう人が多いんですね。
塩谷:いやあ、みんなめっちゃ詳しいですよ。札幌よしもとの若手芸人さんの名前全部言えたりする子とかいて、たまに怖いときありますから。
(一同笑い)
木月:すごいなあ。そういう人を塩谷さんが引き寄せちゃうんですよね。
オークラ:『バチくるオードリー』のプレビューの日が『M-1』決勝の日で、夕方の6時半にシオプロに行ったら、「M-1がどうしても見たいADが1人帰りました」って言われましたから(笑)
――理解のある会社なんですね(笑)
塩谷:そうですね、そこは(笑)