木月:シオプロさんがすごいのは“全員野球感”ですよね。

オークラ:今の制作会社には珍しいですよね。

――AD、ディレクター、プロデューサーという別け隔てがないという感じですか?

塩谷:「みんなで協力してやろう」みたいな感じなんです(笑)

木月:全員で前日に小道具とか探してますもんね。

オークラ:最近のバラエティってシミュレーションが不足してる番組が、また増えてきてるんですよ。熱湯風呂をやるのに養生ができてなくて浴槽むき出しで置いてあったりとか、YouTubeでやってる罰ゲームを見てそのまま持ってきて、誰も実験しなかったとか。最近はだんだん罰ゲームもなくなってきてるからそういうことが起きるんですけど、代々伝わってきた罰ゲームという伝統をシオプロは受け継いでいて、そこに対する意識が高くなってきてる感じもあります。今、罰ゲームは本当廃れてますからね。業界的に必要とされなくなってるというのがありますけど。

木月:でも、たまに必要になるんですよね。

オークラ:“下町ロケット感”がありますよね。何回もシミュレーションするんで、シオプロって科学実験工場みたいになってるんですよ。

  • 「科学実験工場」のようなシオプロの社内

塩谷:普段目にしないような物が、たくさんあるんですよ。そういうのをいろいろ手に入れて実験してますね。壁と床全てがブルーシートで1年中覆われている部屋がありますね(笑)

オークラ:本来そういうのは、フジテレビで受け継がれていたんですよね。前にレジェンドと言われる先輩ディレクターの方に、そういう技術を1回本にまとめたほうがいいんじゃないかって提案したけど、いまだに実現されていません。

塩谷:本当そうですよ。普通のわさびより濃度がヤバくて辛さというより、むせてしまうわさびって、フジテレビさんが開発したものなんですから。

オークラ:『みなさん(とんねるずのみなさんのおかげでした)』ですよね。そういう伝統技術って芸人においてもそうで、『(天才・たけしの)元気が出るテレビ!!』(日本テレビ)で、爆弾につながる導火線を付けられたら芸人は、遠くに逃げるんじゃなくてちゃんと集団の中に逃げないといけないとか(笑)。最近はそういう基本的なスキルをみんな知らなすぎるので。「箱の中身は何だろな」で両サイドからヘビのいる箱に手を突っ込んでも、ヘビが怖がっちゃって下にしか行かない。だから、正しくは下の方から手を入れるとワ―って絡んでくるんですよ。そういう基本的な技術は残していかないといけないですよね。

塩谷:もったいないですもんね。

木月:そういう技術が、局じゃなくて今シオプロさんに残っているという(笑)

オークラ:いわゆるギリシャ文明がヨーロッパで廃れちゃって、イスラムに渡って発達して、ヨーロッパで復興しようとルネッサンスが起きたみたいなことです(笑)。フジテレビが育んだ技術が、今シオプロで発達している。ただ、痛いのがダメという話になってきているから、これからどんどん変わってくるかもしれないですね。

  • スタッフたちが体を張って検証

■「痛み伴う笑いはやめよう」の流れが…

――コンプライアンスの意識が高まる中で、大変な部分はありますか?

塩谷:そこまで言われることはないですけど、やっぱり「痛み伴う笑いはやめよう」とか、そういう話は出てきてますね。全体的にそういう流れになっていくんじゃないですかね。

――そうした制約の中でもシミュレーションを重ねて、ノウハウを引き継いでいくというのが大きな役目になっていくんですね。

塩谷:そうですね。ルールはちゃんと守りますので(笑)

木月:塩谷さんは古い感じじゃなくて、常に最新鋭ですからね。

オークラ:武闘派のディレクターみたいに「こんなんじゃ面白いのできねーよ!」って言うタイプじゃないですからね。

塩谷:決められたルールの中でやって、ダメって言われたら「じゃあやめましょう。違うのやりましょうか」ってなりますから。

――視聴率の指標が変わって、追い風は感じますか?

塩谷:世帯視聴率が指標だったときよりは、面白いことを結構やれる感じでありますよね。

木月:『バチくるオードリー』ができたのも、そのおかげですからね。

塩谷:そうですよね。変に「情報入れろ」とか、言われなくなりましたもんね。

オークラ:テレビって予算が減ってきてるじゃないですか。その中では、やっぱりどっかで常軌を逸したエネルギーがないとなかなかうまく作れないと思うんですよね。今はお金がかけられないから、人海戦術、人の努力でカバーしなきゃいけないんだけど、それもなかなかさせづらい環境にある。そこらへんをうまく打破できれば、もしかしたら新しいすごい番組が生まれるんじゃないかなと思って。