バブル花盛りの時代に映画『私をスキーに連れてって』『彼女が水着にきがえたら』などの大ヒット作で邦画界をけん引したホイチョイ・プロダクションズの馬場康夫監督が、初のテレビドラマ『潜水艦カッペリーニ号の冒険』(フジテレビ系、1月3日21:00~)の演出を担当した。

ドラマ制作の現場は映画と違ったのか。また80年代後半~90年代に大流行となる作品を生み出した天才エンターテイナーが、現在のドラマ低視聴率、YouTubeやTikTok、サブスクの動画配信サービス時代に思うことは――。

  • 『潜水艦カッペリーニ号の冒険』馬場康夫監督

    『潜水艦カッペリーニ号の冒険』馬場康夫監督

■初のテレビドラマ「リズム感が僕に合っている」

『潜水艦カッペリーニ号の冒険』は第二次世界大戦下で、日独伊が同盟を組んでいた中、革命の起こったイタリアが日本の敵国となり、それを知らずに航行していたイタリア人の潜水艦乗務員が、浮上したら同盟国だったはずの日本の軍人に拳銃を突きつけられたという馬場康夫監督が調べた実話をもとに、最も規律の厳しい日本兵と、食べて歌って恋をして…が人生のテーマであるイタリア人たちの奇妙な交流を描く物語。厳格な日本海軍少佐・速水洋平を二宮和也、速水の妹・早季子を有村架純が演じる。

馬場監督にとって、これが初めてのテレビドラマ。その手応えについて、「傑作ですよ。自分でもビックリするぐらい!」と興奮気味に語る。

「テレビドラマの撮影は映画に比べるとスピード感があり、リハ回数を含め、撮ったら次、撮ったら次と、映画なら2カ月かかるところを1カ月ちょっとで撮るのでテンポが良く、そのリズム感の良さはむしろ、僕にハマりましたね」

美術も非常にレベルが高く、特に潜水艦が登場するシーンは「外観も潜水艦内もテレビドラマのレベルじゃない」。精巧なセットと最新技術のCGを組み合わせた映像にも大満足で、「あまりにいつまでも見ていられるので、プロデューサーに潜水艦のシーンを長くしてほしいとお願いしたほどです」と明かす。

「そもそも僕は映画オタクである前に、テレビドラマについて語らせた方が長いくらい、テレビドラマオタクなんです。敬愛する河野圭太監督鈴木雅之監督、星護監督らの仕事を見てきており、仕上がりになっています」と、自信のほどを語った。

■なぜ「ドラマがつまらなくなった」と言われるのか

そんな馬場監督は、昨今のドラマ低視聴率、YouTubeやTikTok、サブスクの動画配信サービスに若者の視聴者を奪われている現在の日本のエンタメをどのように見ているのか。

「正直、こんな状態になるなんて思ってもいませんでした。僕も学生時代に自主制作映画を作っていましたが、YouTubeやTikTokで一般の方が作品を配信し、身近になったことで、プロが作るものとの間の障壁がかなりなくなった印象ですね」

実はこの以前も、世界的にエンタメ界が衰退した時代があった。1968年にパリで学生の暴動が起こってから、世界的に学生運動一色に。時はベトナム戦争の頃で、馬場監督は「ここで一度、エンタメは壊されているんです。死んじゃったわけ」と解説する。

「例えばアメリカでは『イージーライダー』とか『ファイブ・イージー・ピーセス』『俺たちに明日はない』のような既存のものをぶっ壊すような社会的メッセージが強いアメリカン・ニューシネマの時代が来ました。日本でもそれまで王道だったエンタメは影を潜めて、手前味噌ながら『私をスキーにつれてって』や、角川映画が気を吐くまで、芸術的描写の多い映画が多く製作されていました」

馬場監督は何も考えなくても見られるエンタメ作品と、メッセージ性の強い芸術色のある映画をジャンルとして分けて解説していく。

「アメリカもエンタメ暗黒期、『大空港』のような超エンタメ作品もありましたが、『おもしろきゃいいじゃん』という感覚を引っさげて席巻したのがジョージ・ルーカスとスティーブン・スピルバーグです。日本の『セーラー服と機関銃』も名作ですが相米慎二監督の手によって、アップよりも引き画が多いなど芸術色が高く、僕の感覚だと純粋に“娯楽”だとは言えない感覚がありますね」

では、ルーカスやスピルバーグのエンタメ復興法とは、そして日本との違いは。

「まったく新しいものを作ったわけでなく、過去のエンタメを掘り起こしたんです。ヨーロッパがルネッサンスと言ってギリシャ時代のアートやギリシャ悲劇をもう1回引っ張り出して暗黒時代を終えたように、ルーカスもスピルバーグも昔のエンタメ映画を徹底的に研究し、いい部分を復活させた」

彼らは、黒澤明監督のエンタメ時代劇にも強い影響を受けたことが知られている。

「日本は失われた30年と言われますが、ここ昨今のエンタメ映画がなかなか振るわないのは、その“過去の良いものを掘り起こす”という作業が、かなり長い間途絶えちゃっているからだと思うんです。そこの復興をうまくやっているのが韓国ですね。過去の名作から日本の名作コミックまで、良い要素を掘り起こして製作している。だから映画も動画配信サービスのオリジナルドラマも大ヒットしてるのではないでしょうか」