お笑いコンビ・爆笑問題がノンストップ漫才を披露する『爆笑問題のツーショット』2021年度版が、30日(21:00~)にCSテレ朝チャンネルで独占放送される。放送に先立ち、太田光と田中裕二が「ツーショット」への思い、漫才やお笑い業界、昨今のコンプライアンスについて語った。

爆笑問題(左から田中裕二、太田光)=テレビ朝日提供

その年の政治、経済、海外情勢、スポーツ、芸能など幅広いジャンルを独自の目線で切り取り、漫才として披露する「爆笑問題のツーショット」は2006年にスタートし、今年で第17弾を迎える。最新作となる2021年度版では、総選挙、東京オリンピック・パラリンピック、新型コロナ、大谷翔平などの話題が盛り込まれた。また、2020年度版も2021年度版の前の時間帯である19時半に放送する。

このたび、ラジオ番組『爆笑問題カーボーイ』のハガキ職人・ゴールダストとして知られる現放送作家の平山森氏も参加し、テレビ朝日が爆笑問題へインタビューを行った。以下は一部を抜粋したもの。

――お2人にとっての『ツーショット』はどのようなイベントですか。

田中:そうだな、年に1回の一番憂鬱な……。

太田:初詣みたいなもの、かな。

田中:いや、初詣とは違うでしょ! 毎年この時期は1カ月ぐらい、テレビやラジオの収録以外の時間も太田の家に行って作家陣と連日ネタ作り。だから、この時期が一番つらい、キツイんですよ。それを15年もやっているんですが、だんだんこの季節が近づいてくると、あー今年もとうとう来るかという感覚にはなりますね。僕の中では1時間半ぐらいのノンストップ漫才という単独ライブをやる感じです。テレビ番組での漫才もプレッシャーはあったりで大変なんですが、これはその中でもボリュームはあるし、まぁ単独ライブをやるような感覚ですね。

太田:そうね、まぁだいたい……初詣みたいな……。

田中:だから、さっき言ったでしょ! ぜんぜん正月でもないし。

太田:恒例行事という感じかな。(特別なイベントという感覚が)麻痺してきているのかもしれないね。なんか早く用意しろよ、と言われているような感じだね。結局ライブと変わらないですよ、やることはね。

――今回は太田さんの選挙特番の話題から始まりましたが、そこはあえて頭に持ってきた?

太田:いや、そういうわけでは。入れたかったというより、あそこから入るのが一番自然かな、という感じだね。

――『ツーショット』を15年続けて、世の中、変わったなと感じたところはありますか?

太田:いやー、一個も変わってないね。

田中:いやいや、我々はあまり変わっていないけどさ、世の中は大きく変わったと俺は思っている。ネタを作っても以前なら出来たであろうネタがどんどん出来なくなってきているんです。ウケないからというのもあるし、倫理上の問題でやったら炎上するし、というのもあるし。そこを意識すると大きく変わっている気が僕はしますね。下ネタとか本当ウケないですよ、最近。俺はすごく感じる。特に若い女性のお客さんが多ければ多いほどダメ。

太田:昔からウケないよ、下ネタは。

田中:いや、昔からそんなにウケないけど、今は引き方がすごいよ。

太田:俺は微妙な変化というのは感じるね。だからといって根っこが大きく変わっているのかな、というとそうでもないかな。表面的にはコンプライアンスとかが働いて良いこと、悪いことの境界線が動いている感じはするけど、こっちはその線の動きに合わせるだけのことだから。だから人間そのものが変わっているかというと、そうでもないんじゃないかという気がしますね。

――コンプライアンスが厳しくなってきましたが、そのあたりでネタの出し方などは田中さんの役割ですか?

田中:いや、俺が線を引いたらとんでもないことになりますから。

太田:こいつはめちゃくちゃですから。

田中:俺は絶対ダメだから。

太田:ルール無用だからね。

田中:そういうこいつもそれがダメだからね。だから、あんな選挙特番みたいなことになるんだよ。

――お2人の仲の良さがうかがえるアドリブのようなくだりもあります。ファンも嬉しいと思うのですが、今回は太田さんが田中さんを「タナ坊」と呼んだりしていますが、そのあたりは意図して入れているのですか?

太田:その時の雰囲気次第だよね。ウケるとか、ウケないとかあまり考えていないです。

田中:タナ坊というのは本番で言ったけど、練習でも1回言ったかな。ああいうのは練習のネタ作りから言ったり言わなかったり、いろいろやっているんです。練習の最後の方、ネタを固めるときは言ったり言わなかったりはしないようにするけど、今年はギリギリまでやっていので。一個一個ちゃんと固まらずに本番当日まで行っちゃったというのがあった。

――昔から「歳をとってダメになっていく姿を見せるのも芸人」という発言をされていました。最近、漫才などで「歳とったな」と感じる瞬間はありますか?

田中:漫才の本番中はそんなにないかな。数年前にちょっとヤバかったことがあって、ネタが飛んじゃうことがあったんです。これは本当にヤバいと思いました。

太田:その時に練習量を増やしたもんね。

田中:滑舌が悪くなった、舌が回らなくなったというのは日々ラジオとかでも感じるけどね。

太田:若い頃は漫才でもガンガンいかないとヤバいという意識があったけど、歳をとるとそれがちょっと甘くなっても許せちゃっている自分もいる。まぁ、それも歳なんだろうと思うけどね。だんだん自分に甘くなっては来ているかもしれないね。若い頃はちょっとしたことにも許せない。なんであそこで噛んだとか、飛んだとか。それが、まぁ、もうそういうのもあるかな、となってきた。それが一つの味になっていればいいけどね。味でもなんでもなく、ただの衰えにしか見えなくても、それはそれでしょうがないかと思えちゃうんだよね。

――今回の『ツーショット』のノンストップ漫才ではそのような感じは見られませんでしたが。

太田:ただ田中が病気で休んでから、ちょっとテンポをゆっくりに変えているんです。我々の漫才は時期によってテンポが違うと思うんですよね。勝ち抜きをやっていたころは5分の中にいかに詰め込むかで、ダーッと上げていくからものすごく回しているのね。それが営業などで大きなホールでやるときは割とゆっくりとやっている。声が届くまでに時間がかかるし、お年寄りもいるから。で、今度は若手と混じるとまた上げてとか。それぞれ時期によってテンポが変わっているとは思うんだけどね。ただ、これが今後どう変わっていくのかは自分たちではわからないね。劇場によっても違ってくるし、テレビのやり方は多分若手が作っていくものに様子を見ながら合わせていく、という感じになるのかな。

田中:僕はテンポが遅くなっているというのは初耳で(笑)。いや、本番の直前にゆっくりやるぞ、と言う時はあるんですよ。わーっと走っちゃうと俺がかぶって失敗することもあるので、それを気をつけようという意味で言っているのかなと。

太田:休み明けのときにさ、ちょっとテンポ落とそうって話したじゃん。

田中:……そうだっけ?(笑)。

太田:忘れてんだよ、もうダメだ、こいつ(笑)。

――今年はラジオで太田さんが「哲学的〜!」と連発されていましたが、爆笑問題の漫才に哲学はあるのでしょうか?

太田:哲学というほどのものじゃないけど、俺もいろいろ考えることはあります。例えばやすきよ(西川きよし・横山やすし)さんがね、きよし師匠に聞いたんだけど、2人で漫才をやっているときが一番楽しかったって。あんなに楽しいことはないって言うんだけど、俺らはどっちかというと漫才をやっているときほど苦しいことはないと思っている。ここちょっと弱いとかさ、そんなことばっかり思いながらガチガチになってやっているから。確かに当時のやすきよさんの漫才を見ると本当に楽しそうにやっているんだけど、あれをやれるのは一つのネタを何度も何度も客前でやっていろいろ足したり、そのうちネタが体に入って遊べるようになるから。今の吉本の芸人さんたちはそれができるんだよね。いわゆる劇場があって毎日同じネタをやっていくうちに出来上がっていくものをテレビで披露する、という。だからミキとか、中川家とかを見ていても、あいつら楽しんでいるなと思うんだよね。でも、俺らはね、永遠に多分それは出来ないね。常にネタおろしだし、ウケるかウケないかと予想しながらやるから。その代わり、さっきも言ったようにテンポを少し落として、ちょっとその日のお客さんの空気に合わせる感じ。漫才というよりはフリートーク的な感覚でやったほうが楽しめるのかなと思ってやったりしています。ただ、そういう意味では前例を探せないんですよ。

――しいて前例をあげるとしたらスタンダップコメディとか?

太田:俺らが1時間半のノンストップの漫才をやろうと思ったのは、最初は単独ライブでやったんですけど、その頃にエディ・マーフィーが劇場でやっているスタンダップコメディのVHSを見たんです。で、これができるんなら漫才もできるなと思ってやり始めたんですよ。ところがエディ・マーフィーのは、あれで全米回っているからネタが練られているんですよ。しかも当時のエディ・マーフィーは若いし、その後俳優になってすぐにやらなくなるわけです。でも、俺らはそれをこの歳になってまでやろうとしているから。だから前例があまりないんですよ。それは仕方ないなと思って。見本がないのは俺らのいいところだとも思うけど、今後どうなるかわからない。それは仕方ないですね。

――田中さんに哲学は……。

田中:ない、哲学というのがない(笑)。ただ僕はお笑いをなんでやっているかというと、自分が笑いたいから。だから笑わせたい、というより笑っているときが一番幸せ、面白いと思っているときが一番幸せというのはありますけどね。それがやすきよさんみたいに自分たちがやっているときにその状況になれたら、というのは理想ですけど……。

太田:最高なんだよな。

田中:でも、俺らはなかなかそういう状況にはなれないかと。

太田:でも、きよし師匠が言っている“楽しい”時期ってほんの一瞬だったんじゃないか、と思うんだよね。そう長く味わえるものじゃないと思う。

田中:ただやっぱりコロナ禍でお客さんが少ないのは寂しいですね。それこそ劇場で単独ライブをやっていたときというのは満員のお客さんでね、みんな我々を目的にチケット買って来てくれている人たちですからお客さんの反応というのがすごくいいじゃないですか。好意的だしね。ああいう状況が本当に幸せだなと思いますよね。

太田:そういう意味ではお客さんが間隔を空けて座っている客席というのはお笑いをやっている人間にとってはちょっとこう不完全燃焼なんだよね。ギュッと詰まってないとお笑いのライブの手応えがない。やっぱり“密”がいいんです。

田中:その時ウケというのは本当に気持ちいいですよね。

――苦しいという時があっても漫才を続ける理由は、やはりそこですか?

太田:いや、これは途中からもう意地ですね。それももう越したかな? もう別に当たり前になっているみたいな。いろいろな気持ちのブレはあったけどね。ネタ番組がぜんぜんない時代もあったし、俺ら自体がテレビに出られない時期もあった。そうなると、とにかくライブで漫才をやるということが一番決まっていること。それ以外のことは消えてしまう可能性があるから。決まっているのは、それだけなんですよ。そのうちに『M-1』とか出来て漫才の関心度が高くなってきたときにたまたま俺らがネタやっているから、そこにも入れてもらえるということもあったりして。そこでそれなりの手応えがあったりして、また続けようと思ったりと。いろいろありましたよね。結局、今となってはこれ(漫才)は一生続けるんだろうなという感じです。