最近では、「リベンジ消費」や「リベンジ転職」など、「リベンジ」を組み合わせた言葉を耳にする機会も増えています。また「先日、行列で断念したラーメン屋さんにリベンジする」などのように、失敗したりあきらめたりしたことに再挑戦するという意味でも使われます。
しかしリベンジの由来となった英単語の「revenge」には、「復讐(ふくしゅう)」「報復」という重くダークな意味はあっても、ライトで前向きなニュアンスの「再挑戦」という意味はないため注意が必要です。
本記事では、「リベンジ」の意味を改めて確認しながら、日本独自の意味が生まれた理由について解説します。豊富な例文とともに使い方や類語、対義語も紹介します。
リベンジとは? 意味を経緯を含めわかりやすく解説
早速、リベンジの意味や語源、現在の意味で使われるようになった経緯を見ていきましょう。
リベンジの意味は、仕返しや再挑戦すること
まずリベンジを辞書で確認すると、以下のように記載されています。
リベンジ
(1)仕返しすること。復讐。雪辱。
(2)[俗]やり遂げられなかったことや失敗したことに再挑戦すること。
――「明鏡国語辞典」
リベンジは、(1)の「復讐」だけでなく(2)の意味で使われる機会も多いのですが、(2)の意味は「俗語」とあり、本来の意味ではないことがわかります。
語源である英単語「revenge(リベンジ)」本来の意味は?
「リベンジ」は、英語の「revenge」に由来する言葉です。英語の意味は、辞書には以下のように説明されています。
revenge
(1)復讐、仕返し、報復
(2)復讐心、遺恨
(3)(スポーツ・ゲームなどの)雪辱の機会
――「研究社 新英和中辞典」
「revenge」本来の意味には、「復讐(ふくしゅう)」「報復」「雪辱の機会」といった、犯罪や被害、ひどい仕打ちなどに対するような重くダークな意味のみがあり、「再挑戦」といったライトな意味はありません。これは日本で付け加えられた意味であることがわかります。
リベンジに新しい意味が加わった理由
日本で「リベンジ」という言葉が使われるようになったのは、1993年に始まった格闘技「K-1」に端を発するようです。「K-1」は、空手やキックボクシングなど、さまざまな格闘技のNo.1を決めるというコンセプトのもとで始まりました。
K-1では、負けた選手が勝った選手と再び戦うことを「リベンジする」といい、その試合を「リベンジマッチ」と呼びます。そして、格闘技ファンの間に「リベンジ」という言葉が浸透していったようです。
さらに「リベンジ」が市民権を得たのは、1999年に当時プロ野球チームの西武に在籍していた松坂大輔投手のインタビューがきっかけといわれています。松坂選手はプロ入り1年目でロッテの当時エースとされていた黒木知宏選手と投手戦を演じ、敗れました。そのインタビューで松坂選手は「リベンジします」と宣言したのです。
この表現は多くの人にとって新鮮に響きました。「リベンジ」の意味も、松坂選手のさわやかなイメージもあって「復讐・雪辱」というよりももう少しライトな「再挑戦」というニュアンスで受け止められたようです。
そしてこの言葉は1999年の新語・流行語大賞にも選ばれ、そこに松坂人気も加わって広く知られるようになりました。
派生語「リベンジャー」とは?
「リベンジ」の派生語で「リベンジャー(revenger)」という言葉も耳にする機会が増えています。これは「リベンジする人」、つまり復讐する人や復讐者を指す言葉です。
「東京リベンジャーズ」とは?
「東京リベンジャーズ」とは『東京卍リベンジャーズ』というコミックや、そのコミックを原作としたアニメや実写映画のことをいいます。
この作品は、主人公の花垣武道(はながき たけみち)という26歳の青年が、事故で死亡した中学時代の恋人、橘日向(たちばな ひなた)を救おうと、何度も中学時代にタイムリープを繰り返す物語です。
ケンカに弱い中学生に戻った武道が、相棒の松野千冬や不良最強のマイキーという印象的なキャラクターとともに、試行錯誤しながら成長していくストーリーになっています。
リベンジの使い方 - よく使われる熟語や表現と例文
「リベンジ」が使われている文脈に即して、意味と使い方の例を見ていきましょう。
リベンジする
「リベンジする」は、さまざまな出来事がうまくいかなかった時や失敗してしまった時に、再挑戦するという意味で使われます。
【例】
- 中間試験ではうまく結果が出せなかったが、期末試験ではリベンジするぞ。
リベンジを果たす
「リベンジする」という表現が、まだ「リベンジ」はしていない状態であるのに対し、「リベンジを果たす」は再挑戦した結果、今度は成功したという場合に使う表現です。
【例】
- 筆記試験は失敗したが、実技ではリベンジを果たした。
リベンジマッチ
「リベンジマッチ」とは、競技などで試合に負けた側が勝者に再挑戦する試合のことです。試合ではなくても比喩的な使い方をする場合もあります。
【例】
- 今回のプレゼンは、前回の提案のリベンジマッチだ。
リベンジ消費
「リベンジ消費(revenge buying)」という言葉は、新型コロナウイルス感染症の蔓延対策から抑えられていた経済活動を再開した中国で、エルメスやルイ・ヴィトンなどの高級ブランド品が大量に購入されたことから使われるようになったとされています。
新型コロナウイルス感染症が猛威をふるう中、家に閉じこもることを余儀なくされていた中国の人々が、今までの仕返しをするかのようにスケールの大きい消費活動を行う様子を表したのが言葉の始まりです。
【例】
- 中国の「リベンジ消費」は、他国にも波及するのか注目されています。
リベンジ転職
「リベンジ転職」とは、新卒で志望した企業に就職できず、望まない企業に就職せざるを得なかった若手社員が、現状よりもやりがいのある仕事を求めて転職活動をすることを意味します。
【例】
- コロナ禍で企業の採用活動が変則的になったことで、仮に就職したとしても将来的にリベンジ転職を考える層が現れるだろう。
リベンジポルノ
「リベンジポルノ」は、「リベンジ(復讐)」という言葉と「ポルノ」を組み合わせた言葉です。別れたことを恨みに思う人物が、元配偶者や元恋人の性的な画像や動画をインターネット上にさらす行為を意味します。
【例】
- 2014年に制定された「私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律」は、一般的に「リベンジポルノ防止法」と呼ばれています。
リベンジの類語・言い換え表現語
「リベンジ」の類語の中でも、代表的な「復讐」「雪辱」「意趣返し」の意味と使い方を紹介します。
復讐(ふくしゅう)
「復讐」は、自分や自分の属する集団に加えられた危害に対して、仕返しをすることを指します。
【例】
- 日本の中世社会では「敵討(かたきうち)」として、武家社会を中心に復讐が行われていました。
雪辱(せつじょく)
「雪辱」とは、「辱(はじ)を雪(すす)ぐ」という意味で、以前、受けた辱めを取り返すことを意味します。今日では、多くの勝負事やスポーツで使われる言葉です。
使い方としては、本来「雪辱を果たす」が正しい使い方なのですが、近年は間違った言い方である「雪辱を晴らす」も多く用いられています。
【例】
- 10年ぶりの優勝で、チームは長年の雪辱を果たした。
意趣返し(いしゅがえし)
意趣(いしゅ)とは、「心の向かうところ」という意味から「恨み」や「意地」「理由」など、心の中で生じるさまざまな気持ちを意味する言葉です。特に「意趣返し」という場合には、「恨みを返す」という意味を持ちます。
【例】
- あの人の行動は、端から見ていると意趣返しにしか見えない。
リベンジの対義語
「リベンジ」の対義語の代表的なものとして、「赦し(ゆるし)」「勘弁」「目こぼし」を紹介します。
赦(ゆる)し
「赦(ゆる)し」は、相手の罪や過失をとがめないことをいいます。「許す」と書く場合もあります。また手紙などで使う「ご容赦(ようしゃ)」も同じ意味です。
【例】
- 神に祈り、罪の赦しを請う。
勘弁(かんべん)
「勘弁」には、「相手の過失を赦す」という意味のほか、「相手の要求を引き受けないことを許してもらう」という意味もあります。
【例】
- 来季のPTA委員長を依頼されたが、勤めを理由に勘弁してもらった。
目こぼし
「目こぼし」は、漢字で「目溢し」と書く場合もあります。過失や不正を「大目に見てもらう」という意味です。
【例】
- 漢字の間違いにはお目こぼしをしてもらった。
リベンジを英語で伝えるときは?
ここでは、「revenge」を使った英語表現を紹介します。
revengeを「復讐」の意味で使う場合
個人的な「復讐」の意味で使うときにrevengeを使います。
【例】
- She is always saying bad things about me, so I revenged against her by exposing her secret.
(彼女はいつも私の悪口ばかりいうから、その復讐に彼女の秘密をバラしてやったよ)
revengeを「再挑戦」の意味で使う場合
英語ではrevengeではなく、「retry」などの言葉を使います。
【例】
- The next test will be a retry of my previous failure.
(次の試験は前回の失敗のリベンジだ)
「リベンジ〇〇」を英語で表現する場合
「リベンジ消費」「リベンジポルノ」などの言葉を英語でいうときは、以下のように表現します。
- リベンジ消費……revenge buying, revenge shopping
- リベンジポルノ……revenge porn
「リベンジ転職」に関しては、「revenge job hunt」ということができますが、英語の表現としては一般的ではありません。「リベンジ転職」は以下の例文のように表現することができます。
【例】
- I'm trying to find a job again because the current job is not what I wanted.
(現在の仕事は自分が望んだものではないので、今また就活をしている)
英語「revenge」と「avenge(アベンジ)」の違い
「revenge」は、「(個人的な怒りと憎しみをこめて)復讐する」という意味がある単語です。それに対して、「(社会的な正義の観点から)復讐する」というニュアンスを持つ言葉として「avenge」があります。
【例】
- You shall be avenged.
(お前はいつか復讐されるだろう)
ちなみに、アメリカには『アベンジャーズ』というコミック、およびそのコミックを原作とした映画があります。これは巨大な悪から地球の危機を救うために、それぞれ特殊な能力を持ったヒーローたちが立ち向かうという物です。作品に登場するヒーローたちは「アベンジャーズ(Avengers)」と呼ばれます。
日本語のリベンジは、英語よりライトな意味合いでも使われる
「リベンジ」という言葉は「復讐」という本来の意味を離れ、「リベンジに成功した」や「リベンジ消費」「リベンジ転職」など、より身近に使われるようになっています。「リベンジ」は敗北の苦さをはね返したというニュアンスを持つ言葉として、多くの人に浸透したのかもしれません。
しかし、辞書によっては「復讐」の意味しか掲載されていない場合もあります。特に英語での「revenge」は、恨みを晴らしたり、復讐したりといったネガティブな意味を持つ言葉で、「再挑戦」という前向きでライトな意味はないので注意しましょう。