天神大牟田線や貝塚線などの路線網を有する西日本鉄道を核として、九州・福岡を拠点に事業を展開している西鉄グループ。その事業を首都圏の報道関係者らに紹介すべく、西鉄グループの2021年度事業戦略説明会が都内で行われた。

  • 地域を味わう旅列車「THE RAIL KITCHEN CHIKUGO」。天神大牟田線で運行される

新型コロナウイルス感染症の影響を受け、運輸業やホテル事業は2020年2月以降、収益が大きく落ち込んだ状態が続いた。福岡国際空港は国内線・国際線ともに利用者が減少し、国際線にいたってはほぼ利用者のいない状況が続いている。それらの影響を踏まえ、本来は3か年ごとに策定している中期経営計画のうち、2019~2021年度の「第15次中期経営計画」を1年延長し、「“修正”第15次中期経営計画」が2021年3月に策定された。この内容について、西日本鉄道代表取締役社長の林田浩一氏が説明を行った。

そのテーマに、「筋肉質でサスティナブルな企業グループへの変革“ニューノーマルにおける西鉄ブランドの価値追求”」を掲げる。「聖域なき構造改革とニューノーマル下での成長戦略を着実に推し進め、ウィズコロナ・ポストコロナ社会においても存続し成長に向かう企業グループを目指す」と基本方針を設定した。

重点戦略として、「聖域なき構造改革・事業モデル変革とポートフォリオの見直し」「グループ経営体制・組織体制の見直し、組織風土改革」「持続可能で活力あるまちづくりの推進」「住宅・流通・国際物流・海外事業の収益拡大」「デジタル化・新技術の活用による生産性・顧客体験の向上」「ESG・SDGs視点での取り組み強化」「安全・リスクマネジメントの強靭化」の7点をもとに取組みを進める。数値目標として、修正第15次中期経営計画の最終年度(2022年度)で営業収益3,750億円、事業利益130億円と設定。コロナ禍前の水準への回復をこの計画期間で達成する見込みと林田社長は説明する。

  • 西日本鉄道代表取締役社長の林田浩一氏(写真右)、常務執行役員の田川真司氏(同左)が説明を行った

続いて、修正第15次中期経営計画をもとにした、西鉄グループの最近の取組みを3点に分けて紹介。1点目は持続可能な公共交通ネットワーク構築に向けた取組みに関して、「nimoca」乗車ポイント、ボーナスポイントの廃止、100円バスの運賃変更などが挙げられた。SDGs視点では、鉄道の回生電力を駅施設へ活用する検討や、中古バスを電動化する「レトロフィットバス」の実証実験も行っている。

  • 朽網駅~北九州空港間では自動運転バスの実証実験も

幹線交通を補完する役割で、鉄道・バスとタクシーの中間にあたるというオンデマンドバス「のるーと」に関しては、福岡市東区のアイランドシティ地区で2019年4月から実証実験を行っていたが、2020年6月以降、福岡市壱岐南地区を皮切りに全国へのソリューション提供を開始している。導入実績は長野県塩尻市や大阪市(Osaka Metro)など。2022年1月には、三重県桑名市にも導入予定となっている。

その他、日立製作所と連携し、ナッジ応用技術を活用して交通機関利用者の行動変容を促す実証実験も。トヨタ自動車、JR九州と連携したMaaSアプリ「my route」の取組みについても紹介された。ナッジ応用技術では実験用のウェブアプリを用意し、ルート検索から交通機関の混雑を予測した上で、混雑を避けてスムーズに移動する提案を行っている。

  • 「my route」は今後、九州全体でのサービス展開も行われる予定

「my route」は、これひとつでルート検索、予約・決済、イベント・スポット情報提供を行うサービスとして、2018年11月から福岡市で実証実験が進められ、翌年に福岡市・北九州市より本格的に実施されてきた。今後は電子チケットの拡販をはじめ、利用データをまちづくりや行政との連携に活用し、事業者や行政などが活用できるプラットフォーム構築を進めていく方向とのこと。

2点目は観光復活の取組みについて。西鉄天神大牟田線では、車内にピザ窯を備えた、地域を味わう旅列車「THE RAIL KITCHEN CHIKUGO」を2019年から運行している。この観光列車について、JR九州と共同で「THE RAIL KITCHEN CHIKUGO」と「A列車で行こう」を使用したツアー列車(2020年9月10日開催)や、車両を開放して沿線地域の食材を販売する「レールキッチンマルシェ」の取組みを例に、引き続き活用していくとの説明が行われた。

  • 「THE RAIL KITCHEN CHIKUGO」の車内(2019年3月の試乗会にて撮影)

10月23日から12月12日までの期間、土休日に運転される天神大牟田線の特急列車を対象にサイクルトレインの実証実験も行っている。自転車需要の高まりと、SDGsおよび観光促進の動向から、自転車を活用した移動需要の拡大と沿線地域のにぎわい創出を目的として、導入に向けた実験が進められている。実験期間中、対象列車への自転車の持ち込みは無料とのこと。

西鉄沿線には太宰府市、柳川市といった観光地も立地している。西鉄と太宰府市との連携として、古民家を利用した宿泊事業や、西鉄電車往復乗車券と「梅ヶ枝餅」引換券のセットを展開。柳川市との連携としては、「nimoca」で西鉄電車に乗り、柳川市のレジャー施設を訪問した人に、運賃の半分をポイントバックする企画を10・11月に行った。

太宰府エリアには、太宰府天満宮をはじめ神社仏閣が多く点在しており、もともと観光資源は十分にあるエリアだが、宿泊可能な施設が少ない。そこで、古くから町にある古民家を再生し、日帰り観光から宿泊観光にシフトする取組みが行われている。その古民家宿泊施設として、「ホテルカルティア太宰府」が2019年10月4日にオープンしている。

柳川市は掘割が市内に張り巡らされた水郷地帯として知られる。西鉄柳川駅の近くを流れる二ツ川から、柳川駅西口駅前広場に掘割を引き込み、乗船場、水辺空間と一体化したにぎわい交流施設を整備する事業を進めているとのこと。にぎわい交流施設の整備は2024年度中の完了をめざしており、完成したあかつきには西鉄柳川駅で電車を降り、駅前広場に出ると目の前に舟が待っている光景が見られるだろう。

  • 天神大牟田線を走る柳川観光列車「水都」

100%子会社である大分県の日田バスも、日田市と連携した企画乗車券の販売など、さまざまなしかけで温泉地の観光を促進している。このように、各市の補助金などを活用した観光施策を打ち出し、沿線観光を活性化させるべく取り組んでいる。

西鉄グループでは、他にもホテルのような上質かつ特別なバスツアーブランド「GRANDAYS」や、宿泊施設としてだけでなくワークスペースや交流・くつろぎの場も備えたホテル「西鉄ホテルクルーム博多祇園」(仮称・2023年春開業予定)といった観光復活への取組みを行っているとのこと。

  • 「GRANDAYS」は12席限定だが、快適性とくつろぎを追求し、ホテルのようなスペースに

3点目は、持続可能で活力あるまちづくりの推進として、福岡都心部で進行中の大型開発プロジェクトが紹介された。天神エリアでは旧大名小学校跡地活用事業が進行中。オフィスや商業施設を含む複合施設として進められ、ラグジュアリーホテル「ザ・リッツ・カールトン」が九州初進出を予定しており、2022年12月竣工・全体供用開始予定。博多区の青果市場跡地活用事業では、「三井ショッピングパーク・ららぽーと福岡」などが九州初進出を予定し、2022年3月竣工・4月開業予定となっている。

福岡空港特定運営事業では、2025年3月末の増設滑走路供用開始に合わせ、旅客数1,600万人に対応する国際線旅客ビル施設の拡張や、到着ロビーの拡張、到着後の移動をスムーズにするアクセスホールの新設など行っていく。国内線においても、2025年度に商業・ホテル・バスターミナルを含む複合施設を開設し、多くの利用客を呼び込むとしている。

西鉄グループは2021年2月、LINE Fukuokaと「LINEを活用したDX推進に関する連携協定」を締結した。これを機に、西鉄グループの各事業の案内や予約・決済などにLINEを活用して連携を図る。その上で、地域住民の生活利便性に貢献し、日本トップクラスのスマートシティの実現を目指すとしている。