YouTube・サブスク動画配信サービスの台頭、視聴率指標の多様化、見逃し配信の定着、同時配信の開始、コロナ禍での制作体制――テレビを取り巻く環境が大きく変化する中、最前線にいる業界の“中の人”が語り合う連載【令和テレビ談義】

第5弾は、テレビ朝日『ミュージックステーション』プロデューサーの利根川広毅氏、フジテレビ『FNS歌謡祭』『MUSIC FAIR』演出・プロデューサーの浜崎綾氏が登場。『新しいカギ』などを手がける木月洋介氏(フジテレビ)をモデレーターに、「音楽番組」のテレビ談義を、全4回シリーズでお届けする。

第1回は、きょう12月1日(18:30~)に「第1夜」が生放送される『FNS歌謡祭』の話題に。華やかなステージからは見えない怒涛の裏側、そしてライバル番組が見て絶賛するセットへのこだわりとは――。

  • 『2021FNS歌謡祭』のスタジオセット 写真提供:フジテレビ

    『2021FNS歌謡祭』のスタジオセット=フジテレビ提供

■出会いはユーミンの苗場コンサート

――もともと利根川さんと浜崎さんは面識があるということですが、出会いはどこだったのですか?

浜崎:最初にお会いしたのは、ユーミン(松任谷由実)さんの苗場のコンサートで、終わった後にユーミンさんやバンドメンバーさんが参加するちょっとした打ち上げみたいなのがあるんです。結構フランクな感じでしゃべれる場で、4~5年前に同じ日に私と利根川さんが見に行ってて、同じテーブルになって、バンマスの武部(聡志)さんに「利根川は音楽に愛情を持ってるから」と紹介してもらってお話ししたんですよね。その時は日テレの方だったんですけど、翌年もたまたま同じ日になってまたお会いしたら、テレ朝の人になっていて(笑)。利根川さんはずっと職人気質のディレクターでやってこられた方で、日テレからテレ朝に入るという形も本当に稀有だと思うので、今回いろいろお聞きしたいことがありますね。

木月:利根川さんの経歴、気になりますね。

利根川:今44歳でこの業界は23年生になってずっと音楽番組をやってるんですけど、最初は制作会社に6年くらいいて、別の会社で2年くらい、その後フリーランスになったんです。NHKさんとかWOWOWさんとか日テレの仕事を多く頂いていて、CX(フジテレビ)さんではやったことなかったんですけど。日テレの『Music Lovers』という番組にディレクターで入って、そこからいろんな特番とかをやらせてもらうようになり、「社員にならないか?」というお話を頂いて2013年に日テレの社員になったんですね。5年弱くらいいたんですけど、ディレクターをやりつつ大きな特番で総合演出を担当したり、だんだんディレクター業とプロデューサー業の両方をやるようになって、2018年10月にテレ朝に入り3年経ちました。テレ朝に入って最初の1年くらいは『Mステ』で演出兼プロデューサーをやってたんですけど、2年前くらいから完全にプロデューサーとして、キャスティングとか番組のフレームづくり、音楽に関わるところ全般を担当するようになりました。

木月:浜崎は僕の同期なんですよ。

浜崎:私は入社1年目から『堂本兄弟』をやって、毎回生演奏を作って、吉田建さんとアレンジの相談をしたり、女優さんとかが歌う番組だったのでキー設定を決めたり、そういう経験がすごく大きかったですね。KinKi Kidsさんは入社した日から今の『KinKi Kidsのブンブブーン』までずっと一緒なんで、きっと18年一緒にレギュラーやってるテレビマンは、なかなかいないと思います(笑)。『FNS歌謡祭』は一番下のADからスタートして、司会の黒木瞳さんにずっとカンペを振ってました。

木月:ディレクターになったのが早かったんですよ。

浜崎:『FACTORY』っていう深夜番組でディレクターになったんですけど、視聴率とか様々な行政とかに全く関係なく、ディレクターが今一番撮りたいアーティストを呼んでくるというすごくいい番組だったんですよ。ここで、当時まだ札幌から出てきたばかりのサカナクションさんとか、そういう出会いもあったりして。

利根川:僕、『FACTORY』はすごく印象に残ってる番組なんですよ。the telephonesさんとか、ザ50回転ズさんとかはそこで知りましたから。ライブハウスシーンで来てる人が出るから、『FACTORY』に出ると「この人たち売れそう」みたいな匂いがする番組でしたよね。懐かしいなあ。

浜崎:音楽好きな人はみんな好きって言ってもらえる番組でしたね。私は「音楽番組がやりたい」って言って入社したので、逆に音楽番組ができなかったら何に使い勝手があるんだくらいに思ってました(笑)

――『ピカルの定理』もやってましたよね。

浜崎:『ピカル』では私はコントを撮ったりはできないので、アーティストがゲストに来たときにそのケアをしたりとか、番組のオープニングとかCM前のアイキャッチみたいなちょっとした作りものの映像を作ったりとかしてました。「番組のテーマソングはthe telephonesにしませんか?」って提案したり。

■カメラマンがトイレに行けないまま長時間の生放送に突入

木月:利根川さんは、プロデューサーになった今もカット割りとか画撮りはやってらっしゃるんですか?

利根川:ごくたまに中継だったり、会場が分かれるといったときにやるくらいで、今は若いディレクターの面倒を見る感じですね。

浜崎:音楽番組の話をするときに、『Mステスーパーライブ』とか『ベストアーティスト』とか長尺の番組の演出をやった経験のある人じゃないと、なかなか気持ちが分かり合えない部分があるんですよ。音楽番組って、そこの苦しみがすごく大きいんで(笑)

木月:浜崎は今もずっとカット割りをやってますからね。

利根川:浜崎さんが初めて担当されたときは話題になりましたよ。『FNS』の夏のときですよね。

浜崎:そうです。代々木第一体育館で最初にやった2012年の『FNSうたの夏まつり』ですね。

利根川:当時CXさんは板谷(栄司)さんという方が『FNS歌謡祭』など大きな特番の演出をされていたんですが、若手の浜崎さんが初登板すると音楽業界でウワサになって、期待されているディレクターがいるんだなと思って、かじりついて見てました(笑)

浜崎:ありがとうございます(笑)

利根川:曲の撮り方って、視聴者にはどれくらい細かく伝わるのか分からないんですけど、ディレクターによっていろんな色や、考え方があるんですよね。

木月:今回は、ぜひそれを聞きたいと思ってまして。

利根川:浜崎さんの最初の『FNS』を見ていて、今までの方とはやろうとしてることが違うなというのが明らかに分かったんです。カメラマンとか照明さんとかはおそらく同じスタッフが引き続き担当されているでしょうから、視聴者が気づくレベルではないんだけど、これは違うディレクターが来たなと。本当に失礼ながら偉そうに言わせてもらうと「まだ若いな」と思ったんです(笑)

(一同笑い)

利根川:僕自身も全く同じ経験をしたので分かるんですが、初めてだから時間に追われて、すごく大変だったと思うんです。まだ慣れてない部分が画面からいっぱい出てくるんですよ。でも、そこからのスキルアップのスピードがすごかったんです。そこはたぶん自負してると思うんですけど、2回、3回とやっていって、めちゃくちゃクオリティ上がりましたよね。

浜崎:そうですね。1回目の代々木第一体育館のような大箱って、フジテレビの音楽番組ではそれまであんまりやってこなかったんですよ。日テレさんとか『Mステ』さんは幕張メッセとかでやってますけど、うちはスタジオにこだわったり、「飛天」(グランドプリンスホテル新高輪の大宴会場)でもテレビのスタジオの環境に近づけるようにセットを建てるからお客さんも基本は入ってないし。そういう中で、お客さんが入った大箱でのライブではない、音楽番組としてカット割りして撮るというのが、自分の中でも経験がなかったので、1年目は「ああすればよかった」「こうすればよかった」というのがOAを見返してあったんです。4時間ほとんど生でやっていくから、ステージ上を転換する時間もないわけで、途切れずに60~70曲をどうやるかというところで、1年目は終わった気がします。だから、次の年は絶対ダメだったところを解消するぞという気持ちがありましたね。

木月:それだけあると、リハーサルも大変ですよね。

浜崎:『FNS』のリハって、1曲に15分くらいなんですよ。その中で音合わせとかカメリハとかを朝の9時から22時くらいまで“わんこそば状態”でやっていって、それでギリギリっていう感じなんですよね。

木月:15分ってやっぱり利根川さんから見て短いんですか?

利根川:短いですね、聞いたことないです。普通だと超短くても25分とかかかりますから。1曲3分から5分くらいあるわけじゃないですか。そこで照明とかカット割りとかいろいろ直しても「迷ったのでもう1回変えてやってみたいんですけど」なんてできる暇ないですからね。もう次の演者が入ってきちゃうんで。『FNS』ってランスルー(通しリハ)終わらないまま本番に突入することがあったんですよね?

浜崎:そうですね。板谷さんが演出のときに私はフロアを担当してたんですけど、19時から生放送がスタートするのに、18時40分すぎてもまだリハをやってて、「あそこのカット割りの直し、後で伝えるから」みたいな感じで細かい指示を伝えないままリハが進んでいったこともありましたから。修正が伝えられるのが結局本番10分前切ってて、カメラマンがトイレすら行けず生放送がスタートして、本番終わった後に「トイレくらい行かせてくれ!」「人間としての尊厳が!」みたいなことになって(笑)

木月:すごいなあ。でも、それで瞬発力が自分の中に筋肉として付いて、クオリティが上がっていくんですね。

浜崎:だから大型番組は、現場で直そうとか、現場で見て考えようみたいなスタンスだと絶対できないですね。どこまで事前に計算し尽くしてカット割りができているか、それでもボロが出たところを直していくくらいじゃないと。