テレビ神奈川(tvk)がやってくれた。もともと突飛なテレビドラマを突然再放送する傾向にある局だ。『あぶない刑事』(日本テレビ系・1986年)、『傷だらけのラブソング』(フジテレビ系・2001年)など、キー局の垣根を超えてエッジの効いた作品を放送してくれる。ドラマオタクとしては、このセレクトが非常~に楽しみなのだ。

山口智子

そんなtvkが10月から『29歳のクリスマス』(フジテレビ系 1994年)を再放送している(FODでも配信中)。これにはSNSがざわついた。山口智子さん主演、松下由樹さん、柳葉敏郎さんの出演する平成初期の作品で、当時の29歳たちが仕事や恋愛に傷つき、楽しみ、そして立ち上がっていく日常であり、風景を描いた作品だ。それだけの言葉で納めてしまうと「普通のドラマじゃん」と終わりそうなのだけど、そうではない。

令和2年では考えられない話だけれど、当時は29歳の独身女性は薹が立ったものと分類されて、まともに働くことがままならなかった。それでも自身の力で立ち上がっていこうとする山口さん演じる矢吹典子たち。ブラウン管に描かれていく、29歳たちの機微。すべてが適温に熱いドラマだった。

空前の平成ブームの今、ルーズソックスを楽しむようにこの作品も見てほしいと思い、私なりの見どころを伝えていくことにした。ドラマオタク史上、最も愛していて、自著『結婚してもしなくてもうるわしきかな人生』(KKベストセラーズ刊)内でも取り上げたことがある。そんな敬愛する作品について、ここで語り切れるかどうか不安だけれど、若い世代に向けた伝言として、文字を連ねていきたい。

山口&松下の圧倒美は"観る活力"なのだ

松下由樹

TVKでの再放送が始まってから、SNSに『29歳のクリスマス』がトレンドにあがるほど注目されている。『この世の果て』(フジテレビ系)、『長男の嫁』(TBS系)など、同じ年にたくさんの作品が放送されているのにも関わらず、なぜ敢えて『29歳のクリスマス』なのかといえば、映像に古臭さを感じないのである。

その理由に挙げられるのが、主演の山口智子さんの美しさ……表現がしづらくて、つい3点リーダーを使ってしまったが、昭和生まれを疑う足の長さが特徴のスタイルは圧倒される。そして57歳の現在と比較してもまったく引けを取らないビジュアル、あれは一体どういう仕組みでできているのだろうか。

『G線上のあなたと私』(TBS系 2019年)では冴えない主婦を演じている松下由樹さんも、同じく。逆三角形のスタイルなのに、胸はちゃんとでかくて、手足は細い。現在はその代表格のスタイルに綾瀬はるかさんや真木よう子さんたちが上がる。彼女はこの先駆者だったかもしれない。もちろん、瞳が大きい正統派美も持ち合わせている。

過去作を見ていて飽きてくるのは、演者たちの体型に対してつい注目してしまう節がある。造形美はさておき、やはり古い。ただ前述のご両名に関しては、現代っ子がひれ伏すほどの体型を見せてくる。これらが今見ても飽きない理由のひとつとするのなら、次の理由にも繋がっていく。

平成初期のコーデ&メイクは令和のトレンドとして鑑賞

ハイウエストのパンツ、濃い色リップ、インスタントカメラに、昭和レトロを思わせるテーマパークに生まれ変わった『西武園ゆうえんち』。今はレトロブームだ。私の推測だけれど、コロナ禍で一部止まってしまったカルチャーが大きく影響している気もする。

たった2年ほどではあるが、新しいものを生み出すことがままならなかったコロナ禍。そこで放送されていたのは『愛してると言ってくれ』(TBS系・1995年)など、過去のドラマたち。それからサブスクの普及。「日本の昔、結構いいじゃん!」そう飛びつく若者が、今流れているカルチャーを作っている。そもそも、数年前からレトロブームは始まっていたので、コロナ禍によって加速したといい説も。

この状況を見据えた再放送だったのだろうか。『29歳のクリスマス』には、当時のトレンドが流れている。つまりこの作品を見ることは、インスタを見るよりもリアルな情報をキャッチできるのだ。

女性がこぞって真似をした山口さんのシャギーカット。ロングヘアでも重たくならないテクニックは、今から30年前は斬新だった。演じる矢吹典子は勤務用の服に、肩パットの入ったジャケット、ロング丈のコートと渋谷の駅ビルで量産されているアイテムを着こなしている。水野真紀さん演じる腰掛けあざとOL・上越香奈のつけている、大ぶりアクセサリーやスカーフ。これも今、十分に自分のコーディネートへ取り入れられる。

そのほかにはインテリアも私たちにとっては懐かしく、若者には斬新。タバコ、家電、大きなイラスト、カセットテープの入ったコンポ……。当時の最先端が画面の随所に並んでいる。

各々が、自分の意思を見た目に押し出していた時代だ。

27年前、社会人たちの苦労から見る27年後の未来

ドラマでは典子たちの"悔しさ"がたびたび登場する。男女雇用機会均等法は施行されていたけれど、それは建前の話だったらしい。 "男社会"を盾にされて女性たちは悔しい思いを何度も重ねる。

上司のやんごとなき理由で希望部署を飛ばされて、おまけに平気で嫌味も連発される。典子がクソ上司をぶん殴ったシーンは見ていた爽快だった。

女性の生理やトイレ問題を理由に、仕事を与えてもらえない松下さん演じる、今井彩。他には25歳で売れ残りと言われていた時代の独身女性が、結婚に惹かれたり、反発を繰り返す葛藤。当時まだ社会人ではなかった私も「大人になったらこういうことで悩むのか」とドキドキしながら見ていた。

何かとデリケートになった令和2年は生きやすいのかどうか、わからない。でも生きていくしかない。そんな時に諸先輩たちが、今なら炎上して一発退場案件にまみれて仕事をしていたことをこのドラマで見てほしい。たった30年間で日本は変わった。今後もものすごいスピードで変わる。大袈裟かもしれないが、この先30年後の苦労を想像しながら、振り返ることができるのがこの作品の醍醐味だ。だってパワハラ、セクハラなんて常用語みたいになったもんね……

再放送は第5話まで進んだ。ここから見る人に私からおすすめしたいのが、CMに切り替わる前の一言である。

「脚の傷 心の傷 傷だらけの私が好き」

「大声で叫びたいことがある でも 何と叫んだらいいのか分からない」

「強く 優しく 素直になりたい」

ポン、と映し出される文字に心を掴まれる気分になるはず。まだまだ書きたいことはあるけれど、まずはこの作品を多くの方に見て欲しいという願いを込めて。