『仮面ライダー』(1971年)生誕50周年記念プロジェクトのひとつとして、『仮面ライダーBLACK』(1987年)のリブート作『仮面ライダーBLACK SUN』が2022年に配信される。本作では、数々のヒット作を生み出し続けている日本映画界の俊英・白石和彌氏が務めることも大きな話題を呼んでいる。

  • 白石和彌(しらいし・かずや)。1974年生まれ、北海道出身。1995年に中村幻児監督主催の「映像塾」に入塾。その後、若松孝二監督に師事し『17歳の風景 少年は何を見たのか』(2005年)などで助監督を務める。『ロストパラダイス・イン・トーキョー』(2010年)で長編監督デビュー。長編第2作『凶悪』(2013年)で新藤兼人賞金賞などを受賞し、注目を集める。『日本で一番悪い奴ら』(2016年)、『孤狼の血』(2018年)、『止められるか、俺たちを』(2018年)、『麻雀放浪記2020』(2019年)、『ひとよ』(2019年)、『孤狼の血LEVEL2』(2021年)など数々のヒット作・話題作を連発し、活躍を続けている。撮影:宮田浩史

容赦のないバイオレンス・アクションを打ち出し、人間心理を巧みに描き出す演出手腕で高い評価を得た白石監督が『仮面ライダーBLACK』をどのような形で現代によみがえらせようとしているのか。最強スタッフと共に企画・構想を練り上げ、いよいよ撮影開始を目前に控えたタイミングで、白石監督にインタビューを敢行した。

――『凶悪』『孤狼の血』の白石監督が「仮面ライダー」を撮る!?と話題を集めた『仮面ライダーBLACK SUN』ですが、そもそも本作の監督を引き受けられた経緯とは?

声をかけていただいたのは今から2年前、2019年にさかのぼります。もともと、マーベルやDCのアメコミヒーロー映画が好きで、よくプロデューサーたちと「アメリカのヒーロー映画はメジャーな人気を獲得しているけれど、日本映画でもそんなヒーローを生み出したい」みたいな話をしていたんです。

「じゃあ白石さん、そんなチャンスが来たら(ヒーロー作品を)やりますか?」「そんなの、絶対やるに決まってるじゃん!」なんて雑談レベルの会話をしていたら、ADKの古谷大輔プロデューサーと知り合って「今、大人向けの仮面ライダーを作る企画が上がっているのですが、興味ありますか?」というお話が本当に来てしまった。

でもそのときは社交辞令みたいなやりとりで、いくら何でも僕には決まらないだろうと思っていたら、それから1ヶ月もしないうちに「ちゃんとお会いしてお話がしたい」という話になって、トントン拍子に話が進んでいきました。最初のころは、本当に僕でいいんですか?みたいな感じだったんですけどね(笑)。

――白石監督と仮面ライダーという異例の組み合わせ。何やらすごい化学反応が起きそうな予感がしますね。

「仮面ライダー」といえば、50年の歴史を持つビッグコンテンツ。その中でも人気の高い『仮面ライダーBLACK』のリブート作品を作るということで、企画が発表されてからは、すごいプレッシャーを感じています。

実際、あの直後から「仮面ライダー楽しみにしてますよ!」と声をかけられることが多くなりました。仮面ライダーのネームバリューの凄さを実感しますし、それだけ期待が大きいことを痛感しています。映画界のたくさんの諸先輩が築き上げてきた大事なコンテンツ、歴史ある作品に携わることができるというのはありがたいことですね。

――『仮面ライダーBLACK』のテレビ放送はご覧になっていましたか。

当時は中学生だったので、リアルタイムでは観ていませんでした。特撮ヒーローを楽しんで観ていたのはもうちょっと前の『宇宙刑事ギャバン』(1982年)あたりですね。確か仮面ライダーシリーズはそのころ途切れていて、以前の作品を再放送で観ていました。

――『仮面ライダーBLACK』は、1984年の正月特番『10号誕生!仮面ライダー全員集合!!』で幕を閉じた仮面ライダーシリーズを復活させるにあたり、製作スタッフを一新し、仮面ライダーの「原点」を探るべく企画された作品でした。現在の目で『仮面ライダーBLACK』をご覧になり、どんな感想を抱かれましたか。

今回のお話をいただいたとき、『仮面ライダーBLACK』テレビシリーズ全話を改めて繰り返し観ました。

仮面ライダーBLACK/南光太郎の「生まれながらにして悲しみを背負っているヒーロー像」や、ヒーローなのにある意味“負け”が決まっている悲壮なムードが、とても僕の肌に合う。もしかしたら、僕がやりたいヒーロー作品とは、こういう世界なのかな……というものが『仮面ライダーBLACK』から感じられました。

テレビシリーズを全話研究することで、どんな部分を抽出し、どの部分にリブートをかけるか、樋口真嗣さんをはじめとするスタッフのみんなと綿密に話し合って、キャラクターやストーリーを作り上げていきました。

――『仮面ライダーBLACK』から今回の『仮面ライダーBLACK SUN』へとリブートするにあたって、白石監督としてはどんな要素を強く打ち出していきたいですか。

「たとえヒーローであっても、やっていることがすべて正義とは限らない」。その部分を表現できれば、と思っています。

仮面ライダーと怪人が出てきますが、明確な「悪」がいない。それぞれのキャラクターの行いが、正しいのか間違っているのか、観ているお客さんたちにもはっきりとわからない……といった世界観にひきずりこんでいきたいですね。

暗黒結社ゴルゴムの「結社」という部分をよりブラッシュアップして、組織の中でも激しいパワーゲームが繰り広げられているとか、ゴルゴムの中の人間関係を複雑化、深化させるつもりです。剣聖ビルゲニアとこのメンバーは上手くいっているけれど、こいつとの関係は非常に悪い、とか……。

――『仮面ライダーBLACK』テレビシリーズ前半でのライバルキャラ・ビルゲニアも出て来るのですか!?

めちゃめちゃ出てきます。

――ということは、南光太郎=ブラックサンと同じく日食の日に生まれ、2人してゴルゴム世紀王になる宿命を背負った秋月信彦=シャドームーンの活躍にも期待できそうですね。

ブラックサンとシャドームーンの「運命感」はテレビシリーズよりも濃厚に描写したいと思っています。同じ日に生まれ、兄弟同然に育った2人の若者が、やがて「創世王」の座をかけて争う運命にある。その設定は残しておきつつ、光太郎と信彦の2人が主人公だ、という部分が高橋泉さんのシナリオではいっそう強められています。

――暗黒社会に生きるアウトローたちの抗争を描いてきた白石監督だけに、「ゴルゴム」メンバーの描写もリアリティーが強められるのではないかと期待しています。

『仮面ライダーBLACK SUN』では、ゴルゴムの怪人たちは普通に人間の社会に紛れて生きている設定です。人間側も、異形の怪人がこの社会の中で増えてきているのを認識しています。まだ詳しい内容は明かせませんが、ヒントを申し上げますと『仮面ライダーBLACK SUN』の物語のベースになっているのは「怪人の存在意義」の話なんです。