「アンゾフのマトリクス」とは、どのようなもので、どのような場面で使われる言葉なのか、みなさんご存じですか? 「アンゾフのマトリクス」とは、企業の成長戦略を検討する際に用いられるマトリクスで、主に4つのグループに分けられた戦略があります。本記事では「アンゾフのマトリクス」が生まれた背景やメリット、4つの成長戦略や多角戦略の4つの分類、そして企業の事例などをご紹介します。

  • アンゾフの成長マトリクスとは?

    「アンゾフのマトリクス」についてご紹介します

アンゾフのマトリクスとは?

アンゾフのマトリクスとは、「戦略的経営の父」と呼ばれているロシア出身の経営学者、イゴール・アンゾフ(1918-2002)氏が提唱した経営戦略を検討する際に有効なフレームワークのことです。

アンゾフのマトリクスが生まれた背景

このマトリクスを提唱したイゴール・アンゾフ氏は、1918年にロシアで生まれました。1936年に家族とともにアメリカへ渡ると、ブラウン大学で応用数学の博士号を取得。そしてシンクタンクに所属した後、転職先のロッキード・エアクラフト社で副社長を務めます。

1963年にはカーネギー・メロン大学の教授に就任。経営学を教える傍ら、コンサルタントとしてのキャリアを伸ばし、1965年に「企業戦略論」という経営学に関する本を出版します。アンゾフのマトリクスは、長年にわたる彼のキャリアの中で構築され、この著書の中で提唱されるに至りました。以降、多くの企業が成長戦略のフレームワークとして使用しています。

アンゾフのマトリクスの構成

アンゾフのマトリクスの構成は、非常にシンプルです。縦軸は、「新規市場」と「既存市場」の2軸、横軸が、「新規製品」と「既存製品」の2軸で構成された4つのグループで成り立っています。企業が成長に悩んだ際は、自社の強みを洗い出し、この4つのグループの中から事業拡大のためのフィールドを選びます。

アンゾフのマトリクスを活用するメリット

アンゾフのマトリクスを活用するメリットは、自社の事業が伸び悩んでいる際に、状況を洗い出して視覚化できることです。課題を具体的に認識することで、どの分野に注力すべきか、潜在的なリスクが少ないのはどこかという戦略的なポイントがわかります。

  • アンゾフの成長マトリクスとは?

    アンゾフのマトリクスは、4つのグループから成り立っています

4つの成長戦略

アンゾフのマトリクスには4つのグループがありますが、最終的な目的は、現状にあった成長戦略を立て企業の成長鈍化を打開することです。戦略的に表すと、この4つのグループはそれぞれ「市場浸透戦略」「新商品開発戦略」「新市場開拓戦略」「多角化戦略」に分けられます。以下では、それぞれの戦略について詳しくご紹介します。

市場浸透戦略

1つ目の戦略は、「市場浸透戦略」です。この戦略は、既存の商品を既存の市場もしくは既存の顧客に売っていく戦略です。4つのグループのうち最もリスクが低い一方で、サービスや商品を購入してもらう頻度を上げるマーケティング戦略が必要になるため、簡単ではありません。

この戦略では、売り上げを伸ばすために、顧客数・売上単価・購入数・購入頻度といった基本的なところをいかに上げていけるかがカギになります。

新製品開発戦略

2つ目の戦略は、「新製品開発戦略」です。この戦略は、新規の商品を開発して、既存の市場や顧客に販売していく戦略です。

この戦略では、既存の市場に新しい商品や現行商品のアップデート商品、限定盤や関連商品などを売り込んでいきます。新商品をイチから作ることで開発費や人件費がかかるため、「市場浸透戦略」に比べ、リスクは高まります。

この戦略では、既存の市場や顧客のニーズを正確に把握することがカギになります。

新市場開拓戦略

3つ目の戦略は、「新市場開拓戦略」です。この戦略は、既存の商品を新規の市場もしくは新規の顧客に販売していく戦略です。例えば、一部地域のみで販売していた商品を全国販売へと展開したり、男性向けの商品をユニセックス用の商品として売り出したりというケースが挙げられます。

新しいエリアやターゲットが販売の対象になるため、必要に応じて既存製品の改良が必要です。また、新しいマーケットやターゲットの調査にコストがかかるため、やはりこちらも「市場浸透戦略」に比べてリスクは高まります。

多角化戦略

4つ目の戦略は、「多角化戦略」です。この戦略は、新しく開発した商品を新規の市場・顧客に売っていく戦略です。新しい商品の開発と、新しいマーケットの調査を一気に行うため非常にコストがかかり、4つの中で最もハイリスクな戦略になります。

ノウハウがまだ確立されていないため、軌道に乗るまでは手探り状態になるでしょう。企業の成長が鈍化している際は特に、ハイリスクなものより地に足のついた戦略のほうが好まれます。

  • 4つの成長戦略

    アンゾフのマトリクスには、4つの成長戦略があります

多角化戦略の4つの分類

アンゾフのマトリクスの中で最もハイリスクな「多角化戦略」は、さらに4つに分類できます。

水平型多角化

1つ目は、「水平型多角化」。これは同じ分野で事業を拡大していくものです。例としては「精肉店が焼き肉店の事業を立ち上げる」「清涼飲料水を販売しているメーカーがアルコール製品を開発する」などが挙げられます。同じ分野のため活かせるノウハウが多くあります。

垂直型多角化

2つ目は、「垂直型多角化」。これはバリューチェーンの中で、上流や下流へと事業を拡大する戦略です。例えば、「宅配会社が商品を売り始める」「スーパーが宅配事業を始める」などが挙げられます。

集中型多角化

3つ目は、「集中型多角化」。既存製品の技術やマーケティングを活かせる新製品を、新しい市場に展開する戦略です。元は釣り糸を作るための機械を生産していたエアウィーヴや、元は鋳造メーカーだったバーミキュラなどが例としてあげられます。

集成型多角化

4つ目は、「集成型多角化」。既存事業と全く関係のない事業を立ち上げ新しい市場に乗り込むという、多角化の分類の中でも最もハイリスクな戦略です。単一事業の場合はリスクが大きすぎますが、経営全体の視点ではリスク分散効果は最も高くなります。

  • 多角化戦略の4つの分類

    多角化戦略は、4つに分類できます

アンゾフのマトリクスの企業事例

各戦略を実施している企業の事例をご紹介します。

市場浸透戦略の事例

市場浸透戦略の例としては、Amazonの「Amazonプライム」があります。既存の市場で既存ユーザーへのサービスを向上させるため、「Amazonプライム」をスタートさせました。

新商品開発戦略の事例

新商品開発戦略の例は、イオンなどのプライベートブランドです。生産コストを抑えられるため、メーカーよりも低価格での販売が可能になり、顧客の支持を得ました。

新市場開拓戦略の例

新市場開拓戦略の例としては、富士フィルムが挙げられます。既存のフィルム事業の技術を活かして、医療品や化粧品などの市場に参入し、成功を収めています。

多角化戦略の例

多角化戦略の例は、ヤマハです。元の事業は楽器の製造でしたが、まったく関係のないリゾート開発やスポーツ用品などさまざまなジャンルの新規事業をスタートさせました。

  • アンゾフのマトリクスの具体例

    アンゾフのマトリクスの企業事例を紹介します

アンゾフのマトリクスで企業を成長させよう

企業の成長鈍化を打開するためのフレームワークが「アンゾフのマトリクス」です。このフレームワークを使用すれば、自社の目指すべき成長戦略が見えてきます。どの戦略も簡単ではありませんが、企業を成長させるためには必要不可欠なものといえるでしょう。業績が伸び悩んでいるという企業は、ぜひアンゾフのマトリクスを使用して自社に最適な戦略を見つけ出してください。