患者さんが持つ歯科へのイメージ調査の結果は数多くありますが、「痛い」「歯を削る音・振動がイヤ」などの診療内容以外で上位を占めるのが「治療費が高い」「費用の内訳がわからない」など費用についてのこと。医療では美容系医療を除けばほぼ全ての治療は保険治療ですが、歯科医療は保険治療と自費治療が混在していることが原因の1つです。

今回は、歯科治療の費用と価値について整理し、これまで中々知られなかったウラ事情も含めて、わかりやすく解説します。

歯医者の通院はお金がかかる!?

夕方過ぎにスーパーマーケットへ行くと、食料品売り場には「10%引き」「30%引き」など値引き商品が並び、中には半値になる商品も。お得感があり「ちょっとラッキー!」と思っちゃいますよね。

でも、もし「70%引き」「90%引き」があったら、2度見するくらいに驚くかもしれません。実は、こんなに値引きしてくれているのが「保険治療」なのです。

保険治療は基本的に費用の70%は税金で負担し、患者さんが負担するのは30%に過ぎません。つまり治療費が1万円だったら、患者さんは3,000円を支払い、税金で7,000円をまかないます。 75歳以上では患者さんの負担は10%で、税金で90%を補うことも。乳幼児では治療費を全く払わない地域も少なくありません。

保険治療は細かく診療内容と治療費が決められ、医院単位で患者さん一人当たり1カ月の平均治療費まで厳格に管理されています。各都道府県の同じ診療科での平均治療費の1.1〜1.2倍以上だと、高額治療費医院となり厚生局からの指導対象となります。これは税務署が企業に調査に来るようなもので、医院では事務的負担が過大となり診療への集中が難しくなるので、できれば避けたいのが "本音"です。

歯科医療の一人当たり1カ月の平均治療費は約1万2,000円ですから、一般の患者さんの負担額は3,600円になり、これが歯医者通院の平均的治療費です。上限目安の治療費になる「平均治療費×1.2」は1万4,400円で、患者さんの負担額は高くても4,320円になります。

医療全体で見ると平均診療費が安価な診療科は皮膚科で約7,000円、耳鼻咽喉科で約8,000円。一方、高価なのは外科で約1万4,000円、整形外科で約1万2,900円、精神・神経科で約1万2,800円。特に人口透析治療は高額になり約8万4,000円です。他の診療科と比べ、歯科治療費が特に高いわけではありません。

歯医者の治療費のウラ事情

歯科医療費には「材料費」が含まれていることが特徴で、他の診療科ではほとんどありません。歯科治療で頻繁に使用されるいわゆる「銀歯」は、専門的には「歯科鋳造用12%金銀パラジウム合金(略:金パラ)」と言い、金属の中でも高額な金を12%、レアメタルのパラジウムを20%含有し、その他に銀や銅が含まれた合金です。近年この金属は高騰し、2010年では約620円/gだったのが、2021年は約2,500円と4倍近い価格になっています。

奥歯に被せる冠を作成する場合に使用する金属量は約3.5gで、材料費は8,750円となります。保険治療での冠の治療費は1万3,160円なのですが、約25%(3,290円)が冠を作成する技工料の目安で、歯科医院には9,870円が残ります。これから材料費を引くと1,120円になり、これがいわゆる粗利となります。これから人件費などの費用を引くと……そうです、マイナスです。奥歯に金パラを使用した保険治療を行えば行うほど、歯科医院は赤字になるのです。

このように診療費には材料費も含まれているので、治療費が高いと感じた時も、ちゃんと理由はあるのです。

保険治療と自費治療の本当の違いとは?

医療は保険制度により「保険治療」と「自費治療」に分けられ、前者は10〜30%、後者は全額の100%を患者さんが負担します。

保険治療にはさまざまな規制があり、治療費の値引きや医学的に確立していない治療、健康診断などは禁止されています。大まかに言うと、病気になった場合に元の状態にする治療には適応されますが、予防や美容、先進医療には適応されません。

一方、自費治療の適応は広く、病気にならないための予防医療、審美的向上などの美容医療、人間ドックなどの健診、ガンに対する陽子線治療などの先進医療、年齢ケアのアンチエイジングなどが対象となり、治療費の設定は医院が決定できて、患者さんと医院の契約によります。

歯科での自費治療は、インプラントや保険治療に適応していない材料(セラミックや金など)を使用する場合、ホワイトニング、アンチエイジングなどになります。

インプラント治療とは、歯を失った時に人工の歯を顎骨に埋め込むことにより、歯を再現し、失った歯と同等に食べることができる治療法です。ガンなどの病気で顎の骨を取り除き食べることが著しくなった場合を除き、自費治療になります。治療費の一般的な相場は30〜50万円/本です(安い治療費の場合には、使用する材料の質に注意してください)。

もし、歯を失った時に保険治療で対応するとしたら、選択肢は両隣の歯を削り、失った歯と被せ物をつなげるブリッジという方法か、針金で歯に固定して出し入れできる入れ歯となります。 但し、ブリッジは両隣の歯への負担がかかり、ブリッジを支えきれなくなり、ついには携わった他の歯までもが全滅する可能性があります。一方、入れ歯は通常は強い歯が行っていた噛む力を、弱い歯ぐきで負担するので、硬いものが食べづらくなります。また口の中に大きな装置が入ることになるので、慣れない人も少なくありません。

自費治療に使用するセラミックとは金属でもプラスティックでもない固い材料です。歯のように硬く、長持ちし、見た目もキレイなだけでなく、治療した歯は虫歯・歯周病になりにくい、歯との相性が良い材料となります。

なぜ、歯を大切にする人には是非とも選択してほしいかというと、保険治療で可能な金属を使用した方法は、金属アレルギーのリスクがあるからです。口から離れた手足の肌に湿疹や皮膚炎の症状が出たり、発熱や倦怠感まで引き起こすことがあるのですが、症状と原因が一致せず、長年悩まされる人が多くいます。セラミック治療では、この心配が全くありません。

また、金属を使用した保険治療の1つに銀歯治療があります。歯と金属の隙間にセメントを入れて外れないようにするのですが、元々歯と全く違う性質の金属はくっ付くことはありません。年月とともに隙間のセメントが流れ出し、代わりに虫歯菌が入り、虫歯になってしまうのです。

金属治療ではこの悪循環となり、まるで道路工事のように、埋めたり掘ったりを繰り返し、そのたびに歯は削られ小さく弱くなり、最後は歯を失うことになりかねません。そもそも金属はバイ菌が付きやすい性状で、歯ぐきとの境目にもバイ菌がたまりやすく、歯周病にもなりやすいのです。つまり、金属治療で歯を治療したはずが、歯を失うリスクを伴っているというわけです。

セラミック治療ではこれらのリスクがないので、歯の寿命を考えるとオススメの治療です。歯とセラミックは、セメントを介して一体化するので、隙間に虫歯菌が入りこむ余地がありません。金属と比べてバイ菌が付きにくいので、お手入れしやすく歯周病リスクを下げます。 このように保険治療と自費治療には、金額だけでなく、リスクの面でも差があるのです。

予防歯科は保険治療? 自費治療?

自費治療の中でホワイトニングはわかりやすいと思いますが、「なぜ歯科でアンチエイジング?」と不思議に思う方もいるのでは? アンチエイジングは口の中の環境(歯ぐき・粘膜・唾液)を整えることを目的とした治療で、プラセンタの注射治療やサプリメント服用・粘膜ジェル、アスタキサンチンの内服治療などがあります。実は、以前プラセンタは歯周病に対して保険適用薬だったので、歯科では馴染みが深い薬剤なのです。

また、最近見聞きすることが増えた「予防歯科」は、予防であっても自費治療とはかぎらないことをご存知ですか? 予防歯科とは、虫歯予防と歯周病予防を指しますが、これは厳密に言うと自費治療です。

でも保険治療で予防歯科を行う場合もあります。そのウラ事情とは、実は患者さんにわかりやすく「予防歯科」と言っていますが、正式には「バイオフィルム治療」を行っているのです。バイオフィルムとは、歯に強く張り付いた虫歯菌・歯周病菌のことで、一般の予防歯科とはこれを取り除く治療です。虫歯予防に対しては「エナメル質食う蝕」、歯周病予防に対しては「歯周病安定期治療」との病名が付きます。

このように予防歯科を自費治療として行っている医院も、保険治療として扱っているところもあり、患者さんにはわかりづらいのです。初めての歯科医院を受診する際は、HPで予防歯科が保険治療か自費治療かをチェックすると安心ですね。

治療方法を選択するコツは?

保険治療とは国民の健康を担保する治療で、自費治療は健康を維持・増進する良質医療と言えます。歯科において治療法を選択する場合には、今回の治療費や通院回数だけにとらわれるのではなく、将来的な総合治療費と生涯で歯の治療にかかる総合時間、自分の心身の健康を考えた「賢い」選択をしてください。自費治療が「お得」なことが割と多いことに気づくはずです。

最後に知ってもらいたいのは、歯を失ってから慌てて治療を始めても手遅れになるケースが少なくないと言うこと。歯は噛み合わせによりバランスを取っているので、1本の歯を失ったのをキッカケに、どんどん歯を失うリスクが高くなります。歯が20本以上ある人の割合が40〜54歳では97%なのですが、歯を失い始める65歳から割合は急降下し、60〜74歳で69%、75〜84歳で51%、それ以上では26%となります。

保険治療であれ、自費治療であれ、制度だけにとらわれず、治療の内容を検討して、本当に必要な治療を大切にしてください。