新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策で大幅に増えたテレワーク。直接的に人と会う回数が大幅に減り、「口臭」チェックを忘れていませんか。

テレワークで仕事に集中し過ぎると、交感神経が刺激されて口の中が乾きやすくなります。菌を抑制する役割である唾液の量が減って乾燥すると、⼝の中が⼝臭の発⽣しやすい環境になるのです。

「病的口臭」の原因のほとんどが歯周病

口臭は、本当にニオイのある「真性口臭」、本当は気になるようなニオイが存在しない「仮性口臭」と「口臭恐怖症」に分けられます。

さらに「真性口臭」は、「(1)⽣理的⼝臭」と「(2)病的⼝臭」の2つに分類されます。

(1)生理的口臭は、舌の汚れなどによって発生するものです。

(2)病的口臭は、文字通り病気によって起こる口臭ですが、そのほとんどが歯周病によるもの。歯周病以外の病気に由来する口臭は、病的口臭全体の約3%に過ぎません。

病的⼝臭の中で全身疾患による口臭は、肝臓疾患などの内臓の病気によって起こる口臭です。よく「胃が悪いと口臭がする」などといわれますが、実際には全身疾患が原因で口臭がするケースは少なく、口臭全体の約1%程度だといわれています。しかし、歯科医院で相談、治療をしても口臭が改善しない場合、全身疾患による口臭を疑う必要があります。

舌の汚れで硫黄系の口臭に

生理的口臭の原因は、舌に付着した食べかすや細菌などの汚れです。ゆで卵のような硫黄系のニオイが特徴。しかし、それほど強いニオイにはなりません。

鏡で舌をチェックして、白っぽくなっていたら要注意。舌の表面に白っぽい汚れ「舌苔(ぜったい)」が付着している状態です。生理的口臭のほとんどは、この舌苔を取り除くことで解消します。

生理的口臭の予防、改善の一環として習慣化したいのが「舌みがき」です。効率よく舌の汚れを取り除くには、「舌ブラシ」の使用がおすすめ。

舌ブラシを舌の奥から手前の一方向にゆっくりやさしく5、6回動かして、汚れを掻き出します。すると、ブラシに薄い黄色をした汚れが付着します。1回舌みがきをするだけで原因の口臭成分は20分の1以下になり、口臭予防、改善の効果は絶大です。

一度に舌苔を除去しようとして、力を入れてゴシゴシこするのはNG。毎日少しずつ舌苔をはがすようなつもりで続けてください。「舌ブラシ」はドラッグストアなどで入手できますが、歯ブラシやガーゼで代用してもかまいません。

歯周病による口臭は「腐敗臭」が特徴

先に述べたように、病的口臭のほとんどは歯周病が原因です。

歯周病菌の中でも毒性の強いP.g.菌が放出するメチルメルカプタンという物質が強い悪臭を放ちます。キッチンの三角コーナーにある残飯のような腐敗臭が特徴です。

歯周病は気づかず進行していることも多いのですが、典型的な初期症状は、歯茎からの出血。歯磨きのときに出血した経験があれば、現在は出血がおさまっていたとしても、既に歯周病にかかっていると考えていいでしょう。出血経験がある人の約6割がP.g.菌を保有していたというデータもあります。

(1)生理的口臭の多くが舌みがきで舌苔を除去すれば解消するように、病的口臭も原因となっている歯周病菌を歯磨きで取り除けると思われるかもしれません。

しかし残念ながら、P.g.菌などの悪い歯周病菌は歯磨きでは除去できません。強力な薄膜を張り、歯の周りにこびりついています。この菌膜は、抗菌剤、殺菌剤や免疫細胞をはねのけてしまうので、歯科医院でないとはぎとることができません。

歯茎が出血している場合は、早めの歯科医院の受診をおすすめします。

夜だけでも徹底的なケアを

歯周病予防には歯科医院で定期的に歯周病菌を除去し、家でのセルフケアで菌の増殖をできる限り防ぐのというのが、現在考えられるベストな方法です。

では、セルフケアはどう行えばいいのか?

歯科医師の私自身が歯周病予防のために行っている、寝る前のケアを紹介しましょう。

1. 「液体歯磨き」でうがい

口内に浮遊している菌を殺菌します。

2. 「電動歯ブラシ」で歯磨き

電動歯ブラシには、音波の振動で歯垢を除去する「音波タイプ」と、丸形のヘッド部分が回転して汚れを掻き出す「回転式」があります。

私は「音波タイプ」を使っていますが、その理由は、音波の振動で毛先が届かないところの菌まで除去することができるからです。

3. 「歯ブラシ」に「歯磨き粉」をつけて歯磨き

歯周病菌に効果があるので、「IPMP(イソプロフィルメチルフェノール)」という成分を含有した歯磨き粉がおすすめ。

歯ブラシは、毛が先端に向かって細くなっている「テーパータイプ」の毛先「やわらかめ」のものを使用。歯と歯茎の隙間に入りこみやすいので、歯周病対策に向いています。

ちなみに、毛先が丸くカットされている歯ブラシは「ラウンドタイプ」。歯の表面を磨くためのもので、虫歯予防に適しています。

4. 「歯間ブラシ」で汚れをかきだす

初めて使う人は、最も細いSSSSサイズから始めるのがいいでしょう。すでに使っている人は、2サイズぐらい大きいブラシを使っていることが多いので、改めてサイズをチェックしてみてください。合わない大きいサイズを使い続けると、歯の間に隙間ができてしまいます。

5. 「デンタルフロス」で汚れをからめ取る

「歯間ブラシ」が入らない、歯と歯の間の汚れや菌を取り除くのが「デンタルフロス」。アメリカで「Floss or Die」という広告がありました。まさにその通りで、それぐらいデンタルフロスは重要です。

6. 「洗口液」でうがい

「洗口液(デンタルリンス/液体歯磨き)」の殺菌成分には、主に「IPMP(イソプロフィルメチルフェノール)」と「CPC(塩化セチルピリジニウム)」があります。前者は歯周病対策に、後者は虫歯予防に適しています。成分を確認してから購入してください。

全部で1〜6の工程がありますが、私の場合は慣れているので全工程を15分ぐらいで行っています。そのうち、歯ブラシを使っている時間は7~8分です。

慣れていない人はもっと時間がかかって毎回大変だと思いますし、会社や外出先で歯間ブラシ等を使うのは難しいかもしれません。そこで、朝と昼は普段通りの歯磨きをして、「夜だけ」徹底的なケアをするのはいかがでしょう。夜だけでも効果は高いと思います。

肥満、高血圧、糖尿病の予防にも

歯周病ケアは、口臭予防だけでなく、さまざまな生活習慣病の予防にもつながります。歯周病は単に口の中の病気ではなく、全身の生活習慣病と深く関わっていることが明らかになっています。

肥満、糖尿病、高血圧、動脈硬化、心筋梗塞などの生活習慣病の始まりにあるのは歯周病です。歯周病があると糖尿病になりやすく、歯周病を治療すると糖尿病も改善しやすいことも明らかになっています。さらに歯周病菌は、がんや認知症、骨粗鬆症などとも深く関わっています。

「口臭は万病の元」。

口臭の強い人は歯周病の疑いが強く、それは生活習慣病の予兆とも言えます。コロナ禍だからこそ、今一度、自分の口臭をしっかりチェックしてみてください。