コロナ禍においては対面の機会が減り、オンラインへの切り替えが一気に進みました。経団連が2020年秋に行ったアンケートでは、9割以上の企業がオンライン面接を実施していると回答しています。コロナが完全に収束するまでは、今後もオンライン就活が継続することが予測されます。

オンライン化が進んだ就職活動においても、覚えておきたいのは「就活ハラスメント」がまれに起きているという事実です。今回は、就活ハラスメントの現状と、対策や対処法について、日本ハラスメントリスク管理協会の阿部淳一郎さんと金井絵理さんに話を聞きました。

  • 就活ハラスメントの現状と対処法とは (画像はイメージです)

オンラインの就活事情

――まずはコロナ禍における就活事情について教えてください。

阿部:通常は会社説明会があり、それからESを出して、面接を受けるという流れですが、そこにオンラインが導入されたという変化があります。基本的には選考の流れなどこれまでと同じです。これまで対面でやっていたことがオンラインに切り替わったというだけで、仕組みが抜本的に変わったということはありません。

各社は対面できない分、工夫を凝らしていて、会社ツアーや工場見学の動画を作成して配信するなどしていますが、どうしても限界は出てきてしまいます。就活生にとっての課題としては、実際に会社に訪れることがないため、職場の雰囲気が分からないということなどが挙げられると思います。

――会社側にとっても、オンライン面接の課題はありますか?

阿部:オンライン面接だと、いきなり就活生がパッと画面に現れることになります。対面だと、ドアをノックして入室して着席する中でも、就活生の様子を見ることができていましたが、それはオンラインでは見られない部分です。また、現在はずいぶん慣れてきていますが、当初は面接官側も慣れていないため、お互いに緊張してしまうということもあったようです。

就活ハラスメントとは?

――そもそも就活ハラスメントとはどんなものですか?

金井:就活ハラスメントとは、就職活動中に起こるハラスメントのことで、セクハラ、パワハラ、オワハラなどが挙げられます。「オワハラ」とは、「就活を終われ(終わらせろ)ハラスメント」のことで、他社の内定辞退を強要したり、他社の選考に行かないようにさせるハラスメントのことを指します。

私たち日本ハラスメントリスク管理協会では、就活ハラスメントを6つのタイプ別に分けてみました。

【就活ハラスメントの6つのタイプ】

1.ワンマン親分型
「自分が絶対」という考えが強く、良かれと思ってやっている。ワンマン経営者などにこの傾向が見られることも。ルールや倫理無視な態度は、社員もコントロールできずに困っているケースもある。

2.イキリ型
自分よりも弱い立場の学生にマウントをとる。傾向としては若手社員に多い。

3.これが普通でしょ型
自分や自社の常識で物事を語り、合わない考えの人を否定しがち。視野が狭く、「仕事はこういう風にするのが当たり前でしょ」などと、価値観を押し付けてくる。

4.つけこんでやろう型
就活生の「内定が欲しい」という気持ちにつけこみ、自分の要求を通そうとする。食事やホテルなどに誘うセクハラはこれに属することが多い。選考型のOB訪問で、採用の権限を持っている社員が行う場合も。

5.無知型
「就活ハラスメント」について考えたこともなく、自分の興味本位で質問したり説教、強要したりする。例えば、社員ではない内定者に対して「メールは24時間以内に返信しろ」と強要するなど。

6.プレッシャーかけられてます型
「採用人数、何人必達! 」というノルマがあって、必死で採用しようとする。超早期に内定を出して他を見せないようにするなど、言葉でプレッシャーをかけてくることも。オワハラもこれに該当する。

  • 日本ハラスメントリスク管理協会が作成した就活ハラスメントの類型と分布

――就活ハラスメントといってもなかなか定義づけが難しいですね。

金井:一見就活ハラスメントと捉えられがちなのが、「掘り下げ型」です。学生がどんな人物なのか、自社の考えと合いそうかを知りたいタイプですが、どんどん深掘りして聞くのでしばしばハラスメントに取られてしまうこともあります。パワハラについては、改正労働施策総合推進法で明確に禁止されていますが、求職者は対象ではないため、なかなか見極めは難しいところです。

就活ハラスメントにあったら

――厚労省の調査(※)によると、就活ハラスメントを受けた学生のうち、約24%が「何もしなかった」と回答しています。もしも就活中にハラスメントに遭ったと感じたら、どこに相談すればいいのでしょうか?

阿部:就活生は立場が弱すぎますから、もしも自分が入社したい会社でハラスメントを受けたとしても、なかなか言い出せない人も多いと思います。また、何をもってパワハラなのか、判断基準がないというのも大きな課題です。

重要なのは、就活ハラスメントの存在とその内容について知っておくことです。そして、もし「ハラスメントかも? 」という出来事に遭遇したら、起きた事実をすべて記録しておきましょう。企業側に直接は言いにくいと思うので、相談先としては学校のキャリアセンターがおすすめです。学校は学生を守るという目的で、動いてくれるはずですよ。

(※)厚生労働省「令和2年度 職場のハラスメントに関する実態調査」

――「選考から外れてしまうのではないか」、「採用が取り消されるのではないか」と不安を感じる人もいるのではないでしょうか?

阿部:前提としてお伝えしたいのは、コロナ禍でも、新卒求人はそこまで減っていないということなんです。「不況が続いているからほかに行く会社がない」と思いがちですが、現在新卒の求人に関しては、もちろん一部の企業は採用を減らしていますが、多くの企業では減っていないんです。内定率も96~97%に上り、コロナ前よりも採用人数が多い会社もあるくらいです。ですから、「この会社しかない」と思わずに、「選択肢は山ほどある」ことを思い出していただきたいですね。

また、採用の過程で「ハラスメントが起きた」という事実は、その企業では入社した後も同様の事態が起きる可能性があることを示唆しています。どの面接官が当たるかが重要だという意味の“面接官ガチャ”という言葉もあって、「個人」による部分はもちろんありますが、質の高い会社では、面接官に対する教育も行き届いていますから、ハラスメントを受ける可能性も低いはずです。何か問題を感じたら、できるだけ入社しない方がいいのではないかと思います。

  • 就活ハラスメントに遭ったと感じたら……(画像はイメージです)

――就活ハラスメントに遭って、「自分が悪かったかもしれない」と思ってしまう就活生も多そうですね。

阿部:ハラスメントに遭うと、「自分が悪かったのかもしれない」と自分を責めてしまいがちですが、決してあなたが悪いわけではありません。ハラスメントしてきた相手が悪いのは疑いようもありません。その背景には、「自分には能力がない」と思っている就活生が多いことがあると思うんです。でも、きっと自分の能力に気づいていないだけなので、もっと自信をもってもらいたいですね。

――ハラスメントに遭わないために、何かできることはありますか?

阿部:私が就活生のみなさんによくお伝えしているのは、「アナログなネットワークを作りましょう」ということなんです。例えば説明会や選考過程で友達を作ればそこからさらにネットワークが広がっていきます。そういったネットワークにより紹介をしあうOBやOGは、リスクが低いと私は思います。

――これから採用試験にチャレンジする学生たちに伝えたいことはありますか?

阿部:これはとても大切なことなのですが、基本的に企業の採用担当の人たちは、真剣に誠実に就活生に対して向き合っています。就活ハラスメントも、まれにしか起きていません。ですから、就活ハラスメントについても知識を身につけた上で、あまり心配しすぎず、自分らしく就活に臨んでいただければと思っています。

阿部淳一郎

ラーニングエンタテイメント代表取締役。若手の採用・育成に強い人材育成コンサルタント。採用支援実績30社。複数の大学にて就職支援にも携わる。マイナビTVの就活支援番組にも出演中。『「PRするネタがない」と悩んでいる人のためのすごい自己PR作成術(かんき出版)』など就活関連著書3冊。2014年からアメリカでの学生スタディツアーも展開。企業での人材育成や定着支援にも携わっており、一般社団法人日本ハラスメントリスク管理協会の参事としてパワハラをはじめとしたハラスメント予防にも取り組んでいる。

金井絵理

一般社団法人日本ハラスメントリスク管理協会 代表理事。「ハラスメントを解消し品性のある組織つくりを目指す」を理念として、ハラスメント対策研修の実施、相談窓口設置、就業規則見直し、ハラスメント対策の体制をコンサルティングするなど様々な事業を行う。自らが人材会社の法人営業を経て、人事として人材育成と制度設計に携わった経験から、効果を伴う施策にこだわり提案をしている。早稲田大学大学院 経営管理研究科 人材・組織マネジメント モジュール卒業(MBA)。