2018年以降、働き方改革関連法案の施行などを背景に、リモートワークや副業を取り入れた新しい働き方が一般化しつつある。2020年の初頭から拡大している新型コロナウイルス感染症の影響により、こうした動きはさらに強まった。

一方で、首都圏をはじめとする都市部では緊急事態宣言が解除されたことから、社員の出社を求める会社も散見される。そうした矢先に、千葉県北西部地震の発生によって公共交通機関がまひし、帰宅困難者が話題になるなど、出社や勤務のあり方が問われている。

こうした背景を受けて、リモートワーク環境でも成果を出している組織や個人に共通して見えてきた特徴、副業を解禁したことで見えてきたメリット、今後増えると予想される副業のリスクについて、パーソルプロセス&テクノロジーでワークスイッチ事業部事業開発統括部の部長を務める成瀬岳人氏に話を聞いた。

  • パーソルプロセス&テクノロジー ワークスイッチ事業部事業開発統括部 部長 成瀬岳人氏

プロフィール
パーソルプロセス&テクノロジー ワークスイッチ事業部 事業開発統括部 部長
事業構想士(MPD)/総務省委嘱テレワークマネージャー/プロティアン認定ファシリテーター
業務コンサルタントとして複数プロジェクトに従事した後、ワークスタイル・コンサルティングサービスを立ち上げ、複数社の労働時間改善やテレワーク導入を支援。また、国や自治体のテレワーク普及促進等の公共事業の企画・運営責任を担う。
2020年4月より、新規事業開発部門の責任者に着任し、企業向けの複業促進サービス『プロテア』およびデジタル人材育成事業の立ち上げを指揮。
2017年より、複業で総務省より委嘱を受けテレワークマネージャーとして活動。
2021年より、プロティアン・キャリア協会認定ファシリテーターとしても活動開始。

--コロナ禍のテレワーク環境で成果を出している組織の特徴はありますか

成瀬氏:大きく2つの特徴が挙げられると思います。1点目は「リモート慣れ」しているかどうかです。新型コロナウイルス感染症が流行する以前からリモートワークを取り入れていた企業と、コロナ禍で必要に迫られてリモートワークに着手した企業では、やはり成果に差があるように感じます。

コロナ禍よりも前からリモートワークを取り入れている企業は、リモート環境を前提とした業務プロセスを既に構築できていますので、その中でどのように組織をマネジメントするのかという思考で業務を確立しています。リモート環境でいかに成果を出すのかというよりも、むしろ成果を出すことを前提にリモートで業務に取り組んでいるイメージですね。

一方で、感染症対策として必要に迫られてリモートワークを導入した企業においては、業務プロセスの一部だけ、あるいは一部の社員だけがリモートワークに移行した企業が少なくありません。仕方のないことかもしれませんが、リモートワークの導入するための手段が先行した企業においては、連携が取りづらい場面が多かったのではないかと思います。

2点目の大きな特徴は「自律性が高い」です。これは、組織だけでなく個人でも同様なのですが、自律性が高い組織や個人のほうが明確に成果を出せています。よく言われることかも知れませんが、指示待ちではないということです。業務のゴールはどこで、達成するまでにはどのようなプロセスが必要で、自身がどの程度関与する必要があるのかを自ら理解できる組織はパフォーマンスが高いです。

従来型の日本の企業では、管理統制型のマネジメント方式を採用している企業が多いと思います。意思決定権を持った上司の指示のもとで複数人が業務を進めるモデルですね。ところが、突然の環境変化によって急に自律性の高い組織作りを求められるようになりました。こうしたギャップに悩んでいるマネジメント層の方も多いのではないでしょうか。

--マネジメント層の人材に求められる要素が変わってきたのですね

成瀬氏:昨今の風潮として、コンプライアンスおよびガバナンスの遵守や、労務時間管理の徹底が求められるようになってきました。規律を守らなければならないという世の中の動きの中で、リモート環境では自律性も求められますので、マネジメントをする側にとっては非常に難しい方向に変わってきています。

少し前から、「ティール組織」や「ホラクラシー」という言葉が注目を集めています。こうした言葉が浸透し始めた背景には、管理統制型のトップダウンマネジメントが通用する時代ではなくなってきた点があると思います。現場レベルの人材の多様性を生かしていく、あるいは社員の自律度合いを高めていく方向に組織を変えていかないと、時代に適応できなくなっているのです。

補足になりますが、「自律性」が求められるようになったのは、コロナ禍以降のことではありません。調べてみると、2000年代前半から徐々に自律性が求められるようになってきています。早いうちから自律性に着目して経営をしている企業では、日々の業務に自律性を落とし込みながらキャリアを積んでいる方がいます。その一方で、そうでない企業で育っている方もたくさんいらっしゃいます。この二者の差が、コロナ禍によって顕著になりました。

全ての企業に当てはまるわけではありませんが、一般的に、オペレーショナルな現場であればあるほど、リモートワークを導入しづらいと思います。こうした企業は従来、自律的であることよりもむしろ与えられた作業を間違えずに完了することが求められています。ですので、リモート環境への戸惑いが大きいように見えますね。

--リモートワークを前提とした組織づくりのためには、何が必要でしょうか

成瀬氏:私が社会人になった2000年代前半の雰囲気は、「徹夜してでも働く人がかっこいい」とされる時代でした。そのような環境で社会人生活を歩んできた方々がビジネスの中心になり始めた現代に、残業時間の規制やワーク・ライフ・バランスの充実などが叫ばれるようになってきました。

まずは、これまでの労働環境が現代では大きく変化している事実を受け入れるしかないと思います。今はむしろ「受け止めざるを得ないよね」という時代です。働き方改革の時代から徐々に環境の変化を受け入れる雰囲気はありましたが、コロナ禍を経てさらにその機運が高まってきたなと感じます。

コロナウイルスは前例がないほど顕著な例ですが、震災なども含めて、自分たちがコントロールできない環境の変化に直面する機会がありましたよね。さらに現在は、テクノロジーが発展する周期も非常に加速しています。環境の変化が早い世界の中で、アダプタビリティ(変化適応力)が以前よりも求められるようになってきました。この事実を組織も個人も理解することが第一歩です。

難しいことなのですが、アダプタビリティが求められる一方で、アイデンティティも非常に重要です。自分個人が何を大事にしたいのか、自分の武器は何であるのか、変化の早い環境の中でもぶれない軸を持つことが大事になってきています。会社が示すパーパスと、自身が持つアイデンティティをすり合わせるために、組織と個人が対話する機会を積極的に持つべきではないでしょうか。