--従業員の観点から、副業を始めるメリットを教えてください

成瀬氏:さまざまな調査から明らかになっていますが、副業を始める理由の第1位は収入を増やしたいからです。しかし、本業をこなしたうえでの副業が前提ですので、本業が忙しかったり、プライベートの環境が変わったりすると、副業の継続が難しく収入が不安定になります。

そこで、収入に代わる副業のメリットとして注目されているのが「社会関係資本」です。特にナレッジワークを副業としている方は、自身の周囲の方に副業の機会をもらったり、自分からその機会を作り出したりなど、人間関係が重要です。例えば、本業が忙しくなって副業を半年間休止していたとしても、再開後にいつでも声をかけてくれる関係性を持てていることが大事です。

現代では、生涯で一つの企業にのみ従事する方は以前ほど多くありません。また、終身雇用の継続が難しい企業も増えてきていますよね。所属している企業の後ろ盾がなくなった時に、声をかけられる、もしくは声をかけてもらえる関係性を構築しておける点が、副業の大きなメリットです

--では反対に、副業のデメリットは何でしょうか

成瀬氏:副業をきっかけにした事故が増えると思います。もちろんこれまでにも起きてはいるのですが、今後はますます増えるでしょう。考えられる事故の1点目は、働きすぎの懸念です。せっかく本業の企業で働き方改革を取り入れても、副業を詰め込みすぎて体調を崩しては、元も子もありません。本業の企業では労働時間を管理してくれますが、副業は自分自身で管理をする必要があるため、仕事を引き受けすぎて歯止めが利かなくなる懸念があるのです。

2点目のリスクは、情報の取り扱いについてです。本業で得た知識や経験をどれだけ社外で利用して良いのか、あるいは反対に、副業で得た知識や経験をどれだけ社内に持ち込んで良いのかを、自分でしっかりと判断しなければいけません。情報の取り扱いをきちんと行わないと、本人だけではなく勤めている企業が損害を被るリスクにもなり得ます。

副業が解禁される以前は、一つの企業に就職することによって、組織に守られる恩恵を受けられました。しかし、これからの時代は副業の観点からも自律性が求められています。つまり、社会人としてのリテラシーが、これまで以上に求められる時代になってきているのです。

ですので、企業としては今後、「副業リテラシー」教育を施す必要があると思っています。単に副業を解禁するだけではなく、副業規定などを作成するのが良いでしょう。なぜそのようなルールがあるのか、そして、ルールを破るとどのようなリスクが生じるのかを教育することで、副業によって起こり得る事故から従業員と組織を守る必要が出てきました。

--企業として、副業を解禁するメリットはあるのでしょうか

成瀬氏:本日のキーワードとして何度も出てきましたが、社員の「自律性」を育める点にあると思います。前半の繰り返しになりますが、環境の変化によって、社員の自律性を高める必要が出てきている時代になったからです。

また、極端な例ですが、終身雇用の継続が難しい企業は、どこかのタイミングで従業員の雇用を守り切れない瞬間が訪れるかもしれません。そうした時でも、従業員が健全な社会関係資本を築けており、本人のキャリアとして自律性が高い方がお互いにWin-Winな関係を構築できるのです。

加えて、2018年の副業解禁以降に特に顕著なのですが、副業をしている社員が外で得たノウハウを、社内に還元してくれることを期待する企業が多いように感じます。社内のリソースだけでは十分に提供できない成長機会を社外で経験して、個人の付加価値を高めて欲しいと思う企業もあるようですね。

だからこそ、従業員に対して「副業リテラシー」教育を実施することで、お互いにリスクの少ない方法で副業を解禁するのが良いと思っています。