トヨタ自動車「ヤリス」、ホンダ「フィット」、日産自動車「ノート」が続々と登場し、選択肢が充実してきたコンパクトカーの世界。今あえて、マツダが2014年に発売した「MAZDA2」(マツダ2、旧デミオ)を買う意義はあるのか。熟成が進んだ最新のMAZDA2に乗って考えた。

  • マツダの「MAZDA2」

    今あえて「MAZDA2」を選ぶ意義とは? 試乗してみた

6月に商品改良を受けた最新版に試乗!

MAZDA2は2014年に発売となった5ナンバーの小型ハッチバック車だ。登場から7年が経過しているが、マツダが「魂動(こどう)デザイン」と呼ぶ外観の造形は今なお古びていない。カッコいいと思える1台だ。

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    「MAZDA2」のボディサイズは全長4,065mm、全幅1,695mm、全高1,550mm。デザインは今でもカッコいいと思える

自動車メーカーは一般的に、クルマを発売すると定期的に「マイナーチェンジ」を行って商品性を維持していくものだが、マツダは「商品改良」として年次的な取り組みを続けている。新車を作る時点で、数年先の導入を視野に開発している技術を織り込んでおく「一括企画」という手法がマツダの特徴だ。これにより、マツダはモデルチェンジを待たず、新技術を随時採用しながらクルマを改良していける。

今回試乗したのは、2021年6月に商品改良を受けた最新型。「15S プロアクティブ・スマートエディションⅡ」(15S PROACTIVE Smart Edition Ⅱ)グレードの4輪駆動(4WD)車だ。

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    「MAZDA2」には特別仕様を含めたくさんのグレードがあり、価格は145.915万円~271.15万円と幅広い。試乗車は車両本体価格が196.85万円、オプションが13.75万円(アダプティブLEDヘッドライト、地デジのチューナー、シルバーメタリック塗装のホイールなど)で計210.6万円だった

6月の商品改良では、一部の1.5Lガソリンエンジンで燃費と環境性能を高めた。このエンジンを搭載するモデルは、アクセル操作に対しクルマの応答性やコントロール性が向上しているという。マツダはガソリンエンジンに「予混合圧縮着火」(HCCI)を適用した世界初のメーカーだが、その実用化のカギとなった火花点火制御圧縮着火(SPCCI)の吸気系制御技術をMAZDA2の新エンジンに応用した。加えて、「MAZDA3」で培った自動変速制御も寄与している。

このほかに6月の改良で追加となった要素を見ておくと、全車でスマートフォンのワイヤレス(Qi)充電と「Apple CarPlay」ワイヤレス接続が用意された(オプション装備)。4WD車には「ワイパーデアイサー」が標準装備となった。降雪によりフロントウィンドウにたまった雪を融かし、ワイパーで除去しやすくする機能だ。

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    車体外板色は「MAZDA2」にとって新色となる「プラチナクォーツメタリック」。上品な色合いで、ブラウンの内装ともよく調和していた

MAZDA2の競合はトヨタの「ヤリス」「アクア」、日産「ノート」、ホンダ「フィット」、スズキ「スイフト」などだろう。これらのうち、ヤリス、ノート、フィット、スイフトには、方式こそ異なるがハイブリッド車(HV)の選択肢がある。アクアはHV専用車だ。

MAZDA2がデミオとして発売された2014年からの7年ほどで、コンパクトハッチバック車の動力も電動化が進み、ずいぶんと様変わりした。そうしたなか、MAZDA2ではガソリンエンジンしか選べないわけだが、商品改良を経た最新モデルはどんな乗り味になっているのだろうか。

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    「MAZDA2」のエンジンは1.5Lの水冷直列4気筒。駆動方式は前輪駆動(FWD)と4WD、トランスミッションはオートマチック(AT)とマニュアル(MT)がある。試乗車の最高出力は110PS、最大トルクは142Nmだった

ターボチャージャーなどの過給をしない自然吸気の1.5Lエンジンは、発進から十分な力を出した。その後の加速も力強い。

4WDはFWDに比べ車両重量が80kgほど重い。そのせいであるかどうかわからないが、6速自動変速機のシフトアップは時期が比較的遅めで、軽くアクセルペダルを踏み込んだ加速状態でも、毎分2,000回転ほどまでエンジン回転を高めてから次のギアに変速していた。より強い加速を望んだときはそれでもいいが、日常の交通の流れにのって走るときは、もっと低いエンジン回転でシフトアップしてくれてもいいのではないかと思った。そのほうが室内はより静かで、燃費も稼げるのではないだろうか。

走行モードを「スポーツ」にすると、さらに高い回転数で変速するようになる。選んだギアを保持する機能が働くので、無用な変速は行わない。エンジンをより活発に使いたいときは「スポーツ」モードを選べばいい。

ただ、HVが増えた今、たとえガソリンエンジン車であっても穏やかな走りをしたいと思う人は増えていそうな気がするので、走行モードが「ノーマル」のときは、シフトアップの時期がもう少し早めでもいいように思う。マツダは「Zoom-Zoom」とか「Be a Driver」といった標語を掲げ、運転の楽しさを追求し続けている自動車メーカーだが、勢いよく走らせることだけが運転の楽しみではない。

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  • 試乗した「MAZDA2」の燃費はWLTCモードで18.1km/Lとなる

カーブでは自然な感触で、素直に曲がっていく様子が気持ちよかった。マツダ独創の「G-ベクタリング コントロール(GVC)プラス」が機能しているのだろう。

運転者のハンドル操作に合わせてエンジンのトルクを微妙に制御し、前輪への荷重移動を発生させてタイヤの応答を高め、カーブを曲がりやすくするのがGVCだ。GVCプラスは、カーブから直線へ向かってハンドルを戻していくときにも滑らかに走れるよう機能が向上している。クルマが余計な横揺れを起こしにくくなる、同乗者にも優しい機能だ。

クルマが直進しているときでも、路面の変化に対して運転者は微細なハンドル操作を行っているものだ。そんなときにもGVCは機能し、クルマがより真っ直ぐ走るよう調整してくれる。簡単にいえばGVCプラスとは、運転が楽になり、なおかつ滑らかに走れるようになるので、運転が上達したように思える機能だ。

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    GVCプラスの効果もあって、運転がうまくなったような感覚が味わえるかも?

マツダは正しい運転姿勢にこだわり、ペダル配置にも気を配ってクルマを作っている。マツダ車に長く乗れば、そうした運転姿勢は当たり前のものになっていくのだが、体験してみないとわかりにくい。それでも、正しいペダル配置による正しい運転姿勢は、ペダルの踏み間違いなどの失敗を起こしにくいので安全につながる。

マツダ車がいいクルマだといわれる理由を飛び道具的な特徴で探ろうとするとわかりにくい。原理原則に従い、運転のしやすさを追求し続ける真摯な姿勢こそ、マツダのクルマづくりの美点なのだ。

改良型エンジンでどう変わった?

HVの選択肢がないMAZDA2だが、商品改良の目玉である新エンジンも、原理原則に従ったエンジン性能の追求が背景にある。マツダの新世代技術「SKYACTIV TECHNOLOGY」のエンジンにおける主眼は効率追求であり、基本は圧縮比をいかに高めるかだ。

MAZDA2が搭載する改良型ガソリンエンジンは、圧縮比を従来の12から14へと高めている。マツダはガソリンエンジンでディーゼルエンジンのように効率の高い燃焼を実現する「SKYACTIV X」という新エンジンを実用化した世界初のメーカーだが、その制御技術を応用し、小型ハッチバック車であるMAZDA2の圧縮比を14まで高めたのである。

ほかの自動車メーカーも、ガソリンエンジンの圧縮比をあげたり、熱効率を高めたりはしているが、14という高圧縮比を実現したメーカーはない。熱効率を上げても、動力性能であったり騒音・振動の面で十分に調和がとれていないエンジンも存在する。それらに比べ、マツダのエンジン技術は優れていると思う。

発売から7年目に入ったMAZDA2も、商品改良で年々、進化を遂げている。今回の試乗では、これもマツダ独創の技術である「i-STOP」というアイドリングストップ機能が、国内外を含めたほかの多くのメーカーに比べ、エンジン停止時間が長いことに改めて感心させられた。アイドリングストップ自体の採用をやめるメーカーもある中で、i-STOPは存分に効果を発揮していると実感した。

  • マツダの「MAZDA2」
  • マツダの「MAZDA2」
  • 内外装のおしゃれな雰囲気は、小型ハッチバック車といえども大人が選ぶクルマとして満足できる域に達しているのではないだろうか

将来へ向け、マツダに残された課題は電動化の推進だ。アクセル操作に対する応答や確実な加減速、振動や騒音の少ない快適な乗り心地などで、エンジン車はもはやモーターにかなわない。ガソリンエンジンの高効率化を狙ったトヨタのハイブリッドシステムも、モーター走行領域をより広くした新型「アクア」では上質さが大幅に向上し、上級車種に乗っているかのような心地よさがあった。モーター主導のHVである日産の「ノート」や「ノート オーラ」は、さらに上質なクルマに感じられる。

運転の喜びを損なわず、それでいてモーター駆動の特性をいかし、ペダル配置や運転姿勢の正しさはそのままに、魂動デザインの独創性をどう盛り込むか。次のMAZDA2に対する興味は尽きない。完成度の高まったガソリンエンジンのMAZDA2に乗りながら、マツダの未来を思うのもまた一興なのではないだろうか。