京成電鉄の京成上野~日暮里間にかつてあった博物館動物園駅。東京国立博物館や東京藝術大学の最寄り駅だったが、駅舎など設備の老朽化や利用者の減少を理由として、1997年4月に営業休止し、その後も再開することなく、2004年4月に廃止となった。
2018年4月、旧博物館動物園駅は「東京都選定歴史的建造物」に選定され、同年11月にリニューアルが行われた。現在は不定期にイベント等で一部を公開している。
京成電鉄は10月9日、台東区教育委員会が行う「台東区歴史・文化探検隊」の取組みに協力し、旧博物館動物園駅の見学を実施した。この「台東区歴史・文化探検隊」は、台東区内の児童・生徒が歴史的建造物・文化施設の見学や地場産業の体験を通じ、歴史や文化・伝統を大切にする心を育てることを目的として実施する自主学習支援事業である。
当日はこどもたち13名、台東区教育委員会の職員8名が参加。旧博物館動物園駅の施設を興味深く見学していた。
■京成上野駅長の案内で地下空間へ
案内を務めたのは、京成電鉄京成上野駅長の香取利和氏。駅舎の扉を開け、まずは入口のドーム内の様子を説明する。「戦前、このドームにはシャンデリアが設けられていましたが、戦争中に供出しました」とのこと。また上野恩賜公園の地下ということで、「この土地は『世伝御料地』という特別な土地で、建設のためには天皇陛下に認めてもらわなければなりませんでした。認められたことで、立派な駅舎にしなければならないということになり、このような駅舎になりました」と西洋様式の外観について話した。
階段を降り、出札窓口があった場所の前で、ヘルメットと安全ベストを着用。暗い場所なので懐中電灯を持つことになった。「電車に向けてはいけません」と言われる。
ホーム階に降りようとすると、2018年の一般公開時に展示された「アナウサギ」があり、いまも掘り進んで地上から地下へ到達したということになっている。日暮里駅から京成上野駅へ向かう上り列車からは、ライトアップされた「アナウサギ」が見えるようになっている。
改札前にはきっぷうりばが設けられていた。駅を営業していた当時、自動券売機などは設置されておらず、一方で安全上の問題から無人駅にすることもできなかったという。ホームが短く、4両編成の列車しか停車できず、その4両編成の列車も先頭部分がはみ出る状態になっていた。
1981年以降、京成電鉄の普通列車の一部が4両編成から6両編成になったことで、博物館動物園駅に停車できる列車の本数が減ってしまった。そのために利便性が悪化し、多くの利用者は京成上野駅から乗降するようになった。休止直前の営業時間は7時ころから18時ころまでとなっていた。時間帯によっては1時間に1本程度、駅員は最低1人いなければならず、利用者も少ない。開業以来、本格的な改修工事も行われていなかった。そんな状況から、この駅は廃止になった。
■特徴あるホームと幻の出入口
この旧博物館動物園駅は、2面2線ながらホームが向き合っているのではなく、互い違いに設置されていることが特徴となっている。改札のあったホーム(京成上野駅へ向かう列車が停車)から階段を上り下りすると、もうひとつのホーム(日暮里駅より先へと向かう列車が停車)がある。このホームに当時の時刻表や停車駅案内が残されており、駅営業最終日の落書きもそのままに残っていた。東日本大震災などではく離したタイルもあえてそのままにしてあった。
ホームには現在のような点字ブロックではなく、白い点線が描かれていたが、ほこりなどでほぼ見えなくなっていた。
壁面の扉を開けると、倉庫のような空間に案内された。照明などはなく真っ暗だ。こちらにも出札窓口があり、そこからスロープと階段を抜けると、東京都美術館の裏に出る。かつてここも動物園口として、駅への出入口に使用されていたとのことだ。
見学会を終えると、京成上野駅の香取駅長へ質疑応答の時間が設けられた。こどもたちから「なぜ6両編成の列車が増えたのですか?(博物館動物園駅に停車できる4両編成の列車が減ったのですか)」と質問があり、「お客様が増えたから」と答える。香取駅長が当時を振り返り、「運転士をやっていたときは(博物館動物園駅に停車する)4両編成を運転していたこともあります」と話す場面もあった。最後にこどもたちは香取駅長らにお礼の言葉を述べた。