木月:最近、謎解きが流行っているからか、テレビ番組にも「ひらめきクイズ」が多くなってきましたけど、基本的には視聴率で苦戦しがちなジャンルですよね。
矢野:そうなんですよ。クイズ番組が好きな層は、どこか情報を吸収できたり、ためになったり勉強になるというのを求めているんですけど、「ひらめきクイズ」は得るものがないんですよね。
木月:やっぱり知識を得られるものが、視聴者の皆さんは好きなんだなあと思いますね。
矢野:『マジカル頭脳パワー!!』(日本テレビ)とか『IQサプリ』(フジテレビ)は、子供がブームをけん引した部分があったので特例ですが、今の時代は「ひらめき」だけだと、なかなか難しいですね。
木月:『今夜はナゾトレ』は、ひらめきで解いた後に知識にたどり着くという形に変わってきましたもんね。
矢野:『雑学王』(テレビ朝日)もそうですよね。あれは、知識がなくても推理して解くという意味ではひらめき力だし、それで正解を聞くとちゃんとためになる。松丸(亮吾)くんもよく言ってますけど、そもそも「謎解き」ってシチュエーションやストーリーがあってナンボみたいなところがありますから、そこがないものを切り取ってくると、どこか限界があるなという気がしますね。だから『ナゾトレ』の「東大ナゾトレ」は、1時間のクイズ番組の中で、最後に優勝を決める大事なところで逆転できるというストーリーがあるから、成立してるんだと思います。
木月:矢野さん、本を出されたんですよね。
矢野:『美しいナゾトキ』っていう、謎解きの問題を芸術として楽しめないかっていう本です。難問を解くことを競うんじゃなくて、「こんな問題よく作ったなあ」とか「よくこの奇跡を見つけたなあ」みたいな美しすぎる作品だけを集めて、問題の完成度を楽しむという切り口ですね。
日高:“観賞用謎解き”、これは新しい(笑)。でも、この謎解きの進化はすごいですよね。
木月:圧倒的にSNSの進化が大きいみたいです。問題作りの際も、1つのLINEグループに問題案を出して皆で意見を出し合って、それがどんどんブラッシュアップされて作っていけるんですよ。昔はそういうのができなかったですからね。
矢野:謎解きクリエイターたちと仕事をすると、「こんなことできたらすごいよね」という夢みたいな発想力のすごさと、それを実現するための人材の多さに驚かされます。「彼と彼と彼が入れば大丈夫」みたいな、そこの流れがすごくきれいなんですよね。
木月:つながっていくことで今までなかった発想が生まれるし、意見のフィードバックも速いし、リファレンス(参照)も多くて「過去にこれがあった」という情報も全部出るから、やっぱり昔と違いますよね。
■謎解きクリエイター・松丸亮吾の革命
木月:そんな中で、松丸くんは、“登場感”がありましたよね。
矢野:1つ革命を起こしましたよね。
木月:覚えてますか? 湾岸スタジオで会議した日。もともと松丸くんたちに『ナゾトレ』でクイズの監修をやってもらおうと思ったんですけど、名刺の裏に書いてある謎解きが面白すぎて「このまま問題にできるじゃん!」「出てもらおう!」って、それで急きょワンコーナー作ることになって。
矢野:まさかこんなブームになるとは…。
木月:『マジカル頭脳パワー!!』とも明確に違いましたもんね。
矢野:1問の中で、ちゃんと伏線や物語があるから、解いたときに「良くできてるなあ」って驚きがくるんですよね。
木月:かつてあったような、引っ掛けられて意地悪だなあっていう感じじゃなくて「スカッとする」っていうところがコーナーを立ち上げようと思った大きな理由なんですよ。特にすごいと思ったのは、「(A)ずむのは(B)」で、AとBに対義語を入れる問題です。正解はA「ひがし」、B「にし」で、左から右に矢印の弧が引いてあって、その線が最初テレビとして必要なのかな?と思ったんですけど、これがあるから答えが限定されるんですよね。解いた後に「なるほど、だからか!」と思って、その伏線が回収されたところに爽快感があったんです。
日高:『IQサプリ』を否定するわけじゃないですけど、あれは「モヤッとボール」という形で「納得いかないぞ!」みたいな意思表示があったわけですもんね。15年くらい経って、そういう右脳系と言われるクイズが進化したというか、ステージが違うところに行ったというのが正しいのかな。『ソモサン・セッパ』(フジテレビ)から比べても、だいぶ進化してますもんね。
矢野:かつてはどこか強引な言葉遊びがあって、それも含めてギャグとして楽しんでいた部分もあったんですけど、そこの精度を上げて1問としての完成度をここまで高めたというのは、東大のAnotherVisionの功績だし、それを世に広めようと頑張った松丸くんの功績ですよね。子供のファンもいっぱいできたし、「謎解き」が1ジャンルになってきた。
木月:松丸くんとは当初から「謎解きという言葉を文化にしよう」と目標設定して5年間やってきました。彼らは自分たちのやってることはクイズではなく「謎解きである」というブランディングをちゃんとしているんです。
次回予告…~クイズ作家編~<2> 『アタック25』の終了と視聴者参加クイズの今
●矢野了平
1977年生まれ、埼玉県出身。高校時代からクイズ番組で活躍、東洋大学在学中からクイズ作家の仕事を手がけ、01年にプロの放送作家としてデビュー。現在の主な担当番組は『くりぃむクイズ ミラクル9』『マツコ有吉かりそめ天国』『有吉クイズ』(テレビ朝日)、『水曜日のダウンタウン』『オオカミ少年』『オールスター感謝祭』『クイズ☆正解は一年後』『佐藤健&千鳥ノブよ!この謎を解いてみろ』(TBS)、『潜在能力テスト』『今夜はナゾトレ』『超逆境クイズバトル!! 99人の壁』(フジテレビ)、『天才てれびくんhello』(NHK)など。
●日高大介
1977年宮崎県生まれ、静岡県育ち。高校時代からクイズ番組で活躍し、慶應義塾大学在学中からクイズ作家の仕事を手がける。06年に『クイズ!ヘキサゴンII』(フジテレビ)でプロの放送作家として活動を開始する一方、『お願い!ランキング』『キス濱テレビ』『真夜中のプリンス』(テレビ朝日)、『笑っていいとも!』(フジテレビ)、『行列のできる法律相談所』(日本テレビ)、『勇者ああああ』(テレビ東京)などに出演。現在の主な担当番組は『全国高等学校クイズ選手権』(日本テレビ)、『クイズプレゼンバラエティー Qさま!!』(テレビ朝日)、『超逆境クイズバトル!!99人の壁』(フジテレビ)など。
●木月洋介
1979年生まれ、神奈川県出身。東京大学卒業後、04年にフジテレビジョン入社。『笑っていいとも!』『ピカルの定理』『ヨルタモリ』などを経て、現在は『新しいカギ』『痛快TV スカッとジャパン』『キスマイ超BUSAIKU!?』『ネタパレ』『久保みねヒャダこじらせナイト』『出川と爆問田中と岡村のスモール3』『千鳥の対決旅』『人間性暴露ゲーム 輪舞曲~RONDO~』などを手がける。クイズ番組は、現在放送中の『今夜はナゾトレ』のほか、『タモリのジャポニカロゴス』『全国一斉!日本人テスト』『優しい人なら解ける クイズやさしいね』などを担当。