現在放送中のTBS日曜劇場『TOKYO MER~走る緊急救命室~』(毎週日曜21:00~)が佳境に差し掛かっている。「待っているだけじゃ、救えない命がある」という信念のもと「TOKYO MER」という救命救急のプロフェッショナルチームが、大事故や事件に巻き込まれた人々を救う姿が描かれているが、なんと言ってもチームを引っ張り続けているドクターの喜多見幸太を演じる鈴木亮平の演技に魅了される。

  • 『TOKYO MER~走る緊急救命室~』で主人公・喜多見幸太を演じている鈴木亮平

鈴木が演じる喜多見は、TOKYO MERのチーフドクター。海外の紛争地や僻地という過酷な状況のなか「待っているだけじゃ、救えない命がある」というポリシーで、危険を厭わず命がけで患者を救う姿は、彼と対立する立場の人間をも魅了する力がある。

物語の途中で、喜多見先生の過去にまつわる重大な事実が明かされたものの、いわゆる正義のヒーロー系主人公であり、大切なのは清廉潔癖なイメージだ。こうしたヒーロー像は、過去の作品にも登場するが、多くは孤高であったり、やや近寄り難いカリスマ性を兼ね備えていたりするが、喜多見先生は、治療方針以外は、極めて常識的な考え方を持ち社交的であるという、ある意味スーパードクター系作品には真新しいキャラクター像だ。

そんなキャラクターを演じるのに、「本当に適任だ」と思わせてくれるのが鈴木だ。鈴木と言えば、185センチを超える大柄な体躯を持ち、ドラマ『銭形警部』(2017年)での銭形幸一、映画『HK 変態仮面』(2013年/2016年)の色丞狂介、映画『俺物語!!』(2015年)の剛田猛男など、デフォルメされた、ややコミカルな芝居を見せることがあるため、外面的なインパクトが強い俳優という特徴がある。大河ドラマ『西郷どん』(2018年)の西郷隆盛なども、立ち姿だけで、視聴者を惹きつける魅力がある。その意味で、ヒーロー然とした『TOKYO MER~走る緊急救命室~』の主人公・喜多見先生を演じるには、ビジュアル的にも非常に適している。

一方で、もう一つの鈴木の特徴は、優しさをにじませる芝居の温かさだ。先述したキャラクター重視の作品でも、分かりやすい喜怒哀楽表現のなか、何ともいえない優しさを忍ばせる演技を見せているが、映画『ひとよ』(2019年)で見せた吃音を持つ悩み多き長男・大樹や、ドラマ『テセウスの船』(2020年)の包み込むような愛に溢れた佐野文吾、ドラマ『天皇の料理番』(2015年)の病魔におかされた兄・周太郎など、やや影のある男の内に秘めた優しさの表現は、鈴木ならではの魅力だ。喜多見先生の持つ、ハートフルな優しさを表現するのは適任だろう。

さらにもう一つ、鈴木の大きな魅力は、本人から漂う知的な上品さだ。語学が堪能で英検1級を持つことはよく知られているが、その他、世界遺産検定1級を所持するなど知的好奇心の高さが、パブリックイメージとしてオーバーラップしている部分はあるだろうが、そうした先入観を差し引いても、鈴木の佇まいには上品さが感じられる。

視聴者が喜多見先生に感じる魅力の一つがこの上品さではないだろうか。現場はかなりの危険がはらんでおり、レスキュー隊とのやり取りを含め、時間勝負のピリピリムードが漂う。そんななか、喜多見先生は、どんなに切迫した状況でも、決して声を荒げることなく、丁寧な言葉で的確な指示を出す。また、怪我をした患者に対しても、優しく声掛けする姿は、まさに鈴木の醸し出す雰囲気にぴったりだ。

自らの危険を顧みず患者の命を救う喜多見先生を演じている鈴木だが、本作と同時期に劇場公開されている『孤狼の血 LEVEL2』では、松坂桃李演じる刑事・日岡秀一の前に立ちはだかるヤクザ・上林成浩に扮し、殺戮の限りを尽くすという、喜多見先生とは真逆のキャラクターを表現。

上林は、前述したような鈴木の持つ気品溢れる佇まいを消し、ただただ自身の信じるいびつな正義にまい進し、多くの人の人生を奪う。爽やかな笑顔で優しさを振りまく喜多見先生を見たあと、上林に出会うと、きっとその違いに衝撃を受けるだろう。

物語はついに喜多見先生の過去が公にさらされ「TOKYO MER」は存続の危機に陥る。そんななか、純粋に人の命を救おうと奔走する喜多見先生をはじめ「TOKYO MER」のメンバー、さらには彼らを支持する人々は、どんな絆を見せてくれるのか。胸アツな展開になることは間違いなさそうだ。

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