世界的に有名な未解決事件として恐れられた殺人犯を描いたミュージカル『ジャック・ザ・リッパー』が東京・日生劇場(9月9日〜29日)、大阪・フェニーチェ堺 大ホール(10月8日〜10日)に上演される。チェコ共和国で創作されたミュージカルを原作に韓国独自のアレンジを施し、ついに日本版の上演が決定。木村達成・小野賢章(ダニエル役 Wキャスト)、加藤和樹・松下優也(アンダーソン役 Wキャスト)、加藤和樹・堂珍嘉邦(ジャック役 Wキャスト)、May’n(グロリア役)、エリアンナ(ポリー役)、田代万里生(モンロー役)と多才な俳優達がそろった。

今回はボーカルデュオ・CHEMISTRYとして20周年を迎え、俳優としても活躍する堂珍嘉邦にインタビュー。殺人鬼・ジャック役としてヒールに徹することになり、40代になっての変化や、今後についても考えるという堂珍に、作品のこと、自身の活動のことについて話を聞いた。

  • ミュージカル『ジャック・ザ・リッパー』に出演する堂珍嘉邦

    堂珍嘉邦 撮影:宮田浩史

■ヒール役の機会が増え、殺人鬼にまで

——まずはやはり、作品や役の印象を教えて下さい。ジャック役に決まった時はどのように思いましたか?

30代まではロマンスのある役も多かったのですが、40代に突入するとともにヒール役の機会がどんどん増えていって、ついに殺人鬼の役。悪の頂点というイメージもあり、自分の中の振れ幅としても大きく、面白そうだなと思いました。

この作品は時間軸がかなり入り乱れているんですが、ジャックとしてはとにかく場面場面でダニエルにまとわりついています。焚き付けるというか、顔の近くでずっと囁くような、しつこ〜い、ねばっこ〜い感じです(笑)

——ヒール役が増えてきたとのことで、面白さは感じられていますか?

ミュージカル『アナスタシア』、『仮面ライダー』(『劇場版 仮面ライダーエグゼイド トゥルー・エンディング』)などでもヒールな立ち位置を演じてきましたが、ここまでのヒールに徹するのは初めての経験です。自分もこれまで主人公の敵や対になるような役を演じる方達の背中を見てきたので、どう演じていこうということは、すごく考えます。

演出の白井(晃)さんからは、今回演じるジャックはメフィストフェレスのイメージに近いというお話をいただいて。本当に悪魔みたいな要素もあり、人を悪い方向に向けさせようとする演技をするのにはエネルギーが要ります。殺人を犯しても、それが別に悪いことだと思っていない、すがすがしささえあるような... 。高揚感も必要だし、いきなりナイフで刺すかもしれないとという静かな怖さもいる。そういう緩急も含めて雰囲気を出せたらと思います。何よりジャックという役は、楽しんだもの勝ちなのかな? と。

あとは日本版の初演なので、オリジナルの演出とは違うものになっていくという予感もしています。カレーが日本に入ってきたら、日本人に合う味になった、というような(笑)。ダブルキャストの個性も出ているので、色々な組み合わせを観ていただきたいです。

■俳優の面白さは?

——堂珍さんはもともとアーティスト活動をされていますが、歌手の方が俳優としても活躍されることってすごいなと思うんです。そもそも畑が違うのに、セリフや段取りを覚えて演技をするというのは、大変なことではないですか?

僕が言える立場なのかはわかりませんけど、やっぱり動きひとつをとっても、そこに理由があるので、違和感なく動けるのだと思います。あとはステージに立って表現すること自体が好きで、つながっている部分はあるのかもしれません。もちろんベースとしては音楽があっての自分なので、そこはちゃんと守っていきたいですし、ありがたいことにご縁が続いて役者としても活動することができていて、色々な人に巡り合わせていただいてるんだと思います。

今回は白井さんとご一緒しますが、今までに出会った演出家の方も、辻仁成さん、宮本亜門さん、また『RENT』『アナスタシア』は海外の方で、本当に個性的な方ばかり。舞台は大きな組織と演出、役者がうまく絡み合ってエンターテイメントができあがるという実感があって、そこが面白いところです。うまくいったときは何もかもが最高だし、今はコロナ禍だから難しいけど、終わった後に、みんなでおいしいお酒を飲むためにやっている感覚もあります(笑)。僕は40代前半ですが、いま行っていることがつながっていくことを楽しみながら、50代、60代を迎えていきたいです。

——1つ1つのお仕事がどう未来につながっていくか、自分でも楽しみという感覚でしょうか?

長く続けられたら、歴史ができるのだと思うんです。最近、改めて上の世代の俳優さんが素敵だなと思います。そこまで活動を続けること自体が簡単な話ではないですし、好きじゃないとできないところもある。俳優は、色々な役を通して擬似体験して学んだことが、自分の年輪になってくるところがとても素敵だなと思います。

——10月からはCHEMISTRYの20周年アニバーサリーツアー「This is CHEMISTRY」も行われますが、そこの切り替えなどはいかがですか?

切り替えは苦手な方なんですが、周りに話を聞いてくれる人達がいるので、助かっています。マネージャーさんにも「今日はこんなことがあって、こう思ってる」という話をたくさんしていますし、1回口に出すということが、大切なのかもしれません。長く応援してくれるファンの方も、いろいろとわかってくださっていると感じることも多いです。来年はソロ活動でも10周年を迎えますし、根本にある"音楽"というものを大切にしていきながら、もう「欲張っちゃおう」と思っています(笑)

■堂珍嘉邦
1978年11月17日生まれ、広島県出身。2001年にCHEMISTRYとしてデビューし、2012年からはソロとしても活動。俳優としては2009年に映画『真夏のオリオン』に出演し、2013年『醒めながら見る夢』で主演を務めるほか、『劇場版 仮面ライダーエグゼイド トゥルー・エンディング』(17年)、『空母いぶき』(19年)、舞台は音楽劇『醒めながら見る夢』(11年)、ミュージカル『ヴェローナの二紳士』(14年)、ミュージカル『RENT』(15年、17年、20年)、ミュージカル『アナスタシア』(20年)に出演。最新作として日露共同製作映画『ハチとパルマの物語』主題歌「愛の待ちぼうけ」を含むライブ盤を2020年6月30日に発売。