時代劇や演劇を見ていると、「是非もなし」という表現が使われていることがあります。ひんぱんに使われる言葉ではありませんので、意味がわからないまま聞き流している人も多いでしょう。

この記事では「是非もなし」の意味や語源、ビジネスでの使い方などを紹介します。 また類語や英語表現もまとめました。

  • 「是非もなし」

    「是非もなし」の意味や使い方・類語表現などを紹介します

「是非もなし」の意味

「是非(ぜひ)もなし」には「仕方がない」という意味があります。「いいことと悪いこと」を意味する「是非」をいっていられないという表現から、「仕方がない」という意味に変化しました。

「是非もなし」の語源は織田信長の「是非に及ばず」

「是非もなし」の語源は、同様の意味を持つ「是非に及ばず」です。

織田信長が、明智光秀の謀反(むほん)である本能寺の変を知った時に「是非に及ばず」という言葉を発したことが知られています。襲撃され、どうしようもない状況を表して「是非に及ばず」といったとされており、歴史ものの書籍やドラマなどでよく使われています。

「是非に及ばず」は、諦めの心境を表す言葉だと捉えられがちですが、「話し合っていてもしようがないので戦うしかない」という前向きな表現だという説も有力です。

直江状にも使われていた

「是非もなし」という言葉は、歴史上で有名な書簡である直江状にも使われていました。

直江状とは、江戸時代の武将である直江兼続が徳川家康に重用されていた僧に送ったとされる書簡です。上杉家に対する上洛勧告への返書であり、内容が挑発的であったことから、徳川家康の怒りを買ったといわれています。

ただし原本は現存しておらず、偽作だという説もある書状です。

古語における「是非無し」

現在の「是非もなし」と同じような表現であるのが、古語の「是非無し」で、下記のような意味があります。

  • 程度がはなはだしい。ひたすら
  • やむを得ない
  • 当然だ

現在の「是非もなし」に比べると、幅広い意味で使われています。

  • 「是非もなし」

    「是非もなし」は「仕方がない」という意味で使われる言葉です

「是非もなし」の使い方・例文

「是非もなし」は昔の言葉として知られていますが、ビジネスシーンなど現代の言葉でもしばしば使われます。「是非もなし」の具体的な使い方を見ていきましょう。

ビジネスでの「是非もなし」の使い方・例文

・ここまでスキャンダルが続いてしまうと、ファンの気持ちが下がるのは是非もなしだろう。
・机上の空論ばかりでは是非もなし、できることから行動に移そう。
・社会人ならある程度の責任を求められることは是非もなし。

上記の例文のように、仕方がない状況を指して、「是非もなし」が使われることがよくあります。

「是非もないこと」の使い方・例文

・是非もないことと諦めるのは簡単だが、改善策を考えることが今後の成長の秘訣だ。
・是非もないことをいうだけの時間は無駄でしかないため、次のための行動に移ろう。
・専門職なので、試験の合格が昇給条件なのは是非もないことだ。

上記の例文のように、仕方がないことを指して「是非もないこと」と表すことがあります。

「是非もなく」の使い方・例文

・上得意先がどうしてもといつになく熱心だったため、是非もなくこの条件で引き受けた次第です。
・締め切り直前に大幅な変更が発生したため、是非もなく徹夜で対応することとなった。
・突然の異動辞令発表で、是非もなく彼女が担当していた全ての業務を引き継ぐことになった。

「是非もなし」を文章の途中で用いる場合、上記のように文章と文章をつなぐような使い方をすることがあります。

  • 「是非もなし」の使い方

    「是非もなし」はビジネスシーンでも仕方がない状況で使われます

「是非もなし」の類語表現

「是非もなし」はビジネスシーンで使うことはありますが、少し堅い表現です。会話ではもう少し柔らかい表現を使うなど、状況によっては類語表現が使われることもあります。

そこで、「是非もなし」の主な類語表現を見ていきましょう。

選択の余地がない

「選択の余地がない」とは、「選択範囲が限られている」「選択できない」などの意味があります。「是非もなし」をそのまま言い換えることはできませんが、使われる状況が似ている、類語表現のひとつです。

・専門職なので、昇給するには試験に合格するしか選択の余地がない。
・専門職なので、試験に合格することが昇給条件なのは是非もないことだ。

やむを得ない

「やむを得ない」には「他に選択できない様子」を表す表現です。「是非もなし」とほぼ同じような意味であり、そのまま言い換えられます。

・社会人として責任ある行動を求められることはやむを得ない。
・社会人として責任ある行動を求められることは是非もなし。

否応無し(いやおうなし)

・大幅な修正が必要になったため、否応無しに徹夜で対応することになった。
・大幅な修正が必要になったため、是非もなく徹夜で対応することになった。

「否応無し(いやおうなし)」とは、「有無をいわせない様子」を意味する言葉です。「仕方がない」を意味する「是非もなし」と似たような状況で使われることがあります。

他に道がない

「他に道がない」とは、他に選択肢がない状況を表す表現です。「是非もなし」と使われる状況は似ていますので、下記の例文を参考に言い換えてみましょう。

・昇給するには試験に合格する他に道がない。
・昇給するには試験に合格しなければならないのは是非もなし。

  • 「是非もなし」の類語表現

    「是非もなし」の類語表現は「やむを得ない」などいくつかの表現があります

「是非もなし」の英語表現

英語を使う機会があるなら、「是非もなし」の英語表現も覚えておくと役立ちます。「是非もなし」の代表的な英語を見ていきましょう。

「no help」を使った表現

・It can't be helped.(そのことは是非もなし)
・I can't help that.(そのことは是非もなし)
・If you're a working adult, you can't help but be expected to be responsible.(社会人であれば責任を求められることは是非もなし)

「help」には「手伝う」「役立つ」などの意味がある言葉です。否定形にすることで「しようがない」という意味になり、「是非もなし」の英語表現として使われます。

「choice」を使った表現

・I have no choice but to do my best.(全力を出す他是非もなし)
・I have no choice but to do it.(そうする以外に是非もなし)

「I have no choice but to~」には、「~する以外にない」という意味があります。「~する以外是非もなし」という意味で使われることがあるので覚えておきましょう。

口語だと「oh well」

口語表現としてよく使われる「oh well」には、「しようがない」という意味があります。口語で「是非もなし」という場合によく使われる英語表現として、押さえておきましょう。

  • 「是非もなし」の英語表現

    「是非もなし」の英語表現は「choice」や「help」などが使われます

「是非もなし」は「仕方がない」状況で使われる言葉

「是非もなし」とは、「仕方がない」と似た意味がある表現です。織田信長が明智光秀の謀反を知った時に発した言葉だといわれており、時代劇で登場することがあります。日本語として古くから使われている表現であり、堅い印象の言い回しですので、ビジネスシーンでも使える表現です。

「是非もなし」は少し堅苦しい表現ですが、覚えておくことで難しい言い回しを知っている人だという印象を与えられます。この機会に「是非もなし」の意味や使い方を理解して、会話などで活用していきましょう。