投資を知らないから投資はしないは正しい

投資未経験者の方に、「投資と聞くとどのようなイメージがあるでしょうか」と聞くと、「怪しい」「危ない」「ギャンブル」「自分とは関係ない」……などというネガティブな回答を頂くことが多い。

投資をしたことがない人の多くは、預貯金以外は元本保証もなく、預貯金と違って購入価格よりも下げたら損をするし、怖いというネガティブ要素が先に立つ。このような気持ちになることは知らないのだろから当たり前だし、知識がないのだから考え方はどうあれ投資をしないのは正しい選択だと言える。投資は自己責任なので、知らないものに投資をするのは返って危険性を伴うのだから当然のことだ。

  • 投資は危ない?

コロナ禍で投資熱は高まっている

コロナ禍の今、実は投資熱が高まっていることをご存知だろうか。以下は、顧客の証券口座数の推移を3ケ月毎に棒グラフで示したものだ。

  • 出所:日本証券業協会 資料室 統計情報・調査結果「統計情報・調査結果」より著者が作成(2021年7月8日現在)

このグラフを見ると2020年に入ってから急激に口座数が伸びていることが分かる。コロナ禍で人々の外出が禁止になる中で、世界的に株価が大きく下げたことを受けて、今から投資でもやってみようという人が増えてことや金融機関の営業マンも大きな下げから安い価格で投資商品を勧めやすくなったことも要因している。

またSNSが当たり前になった今、さまざまな投資情報が飛び交っていることも興味を持ちやすい環境になっていると言える。

しかし、ここで注意が必要だ。繰り返し伝えるが、投資をするのはとてもいいことだが、投資は自己責任だということを忘れてはいけない。つまり金融機関の営業マンに勧められるままに買ったとしても、他の誰かがこの投資で儲けたと聞いたりSNSで読んだりして買ったとしても、またその後に購入価格以下になってしまったとしても、すべて投資をした本人にその責任があるということだ。

これまでお金に関する多様な相談を経験してきたが、文句を言う多くの方は投資の勉強をほとんどしていないという共通点がある。これは投資家ではなく、もはや投機家と呼んでもいいだろう。

勉強する人としない人の差

最初に未経験者ほど投資に対してネガティブな発言が多いという話をしたが、ほとんどの発言は投資と投機の区別がついていないからと言えるものが多い。

ここで少し視点を変えた例え話を1つしよう。皆さんが北海道の札幌から九州の福岡まで旅行にでるとする。旅行期間は3泊4日だ。自分なら、どのようにして北海道から九州まで行き、3泊4日の旅を満喫しようと考えるだろうか。

予算を考え、どこの旅館やホテルに泊まり、現地でどこへ行き、また最初にどの交通機関を使って現地まで行くかなど、綿密なプランを立てることだろう。

実は資産運用や投資の考え方もこれに似ている。いつまでにどのくらいのお金が必要となるのか、そのためにどのような金融商品に投資をするのかということだ。

期間が決まれば、選ぶ手段も自ずと絞られる。今回であれば3泊4日しかないので、自転車、バス、車で行くのは難しい。電車もあるが、かなり時間を要する。結果として現地時間を満喫するには、飛行機がベストと考えつくことだろう。

しかし、飛行機を知らないとしたら、こんなことを思う人もいるだろう。鉄の塊が空に浮き、高度1万mもの高さから落ちたら命はない。そんなの怖すぎる……。

知らないというのは、こういうことだ。ポジティブな便利さよりもネガティブな怖さが先に立つ。株や投資信託を知らなければ、怖いと思っても仕方がないのだ。世の中にはいろいろな情報がある。バブルが弾けて株価急落、リーマンショックで株価大暴落、コロナショックで株価急落……悪い情報だけが目につくものだ。

しかし、株価の急落は逆にチャンスと捉えて下がった株の中から今後上がりそうな優良銘柄を探し出す投資家も実は多い。それはなぜか。投資をしっかりと勉強している人は、株の暴落の要因がその企業の良し悪しに関係なく下げていることを理解しているからだ。いつまでも株の大暴落が続くことはないということも知っているのだ。

投資を知らない人は、この状況を怖いと捉え、勉強をしている投資経験者はここがチャンスとばかりに分析して投資行動を起こすのである。これが投資の勉強をしていると人としていない人の大きな差なのだ。

投資とは再現性があるかどうかで決まる

日本人は特にリスクという言葉を「危険」と捉えがちである。しかし、投資の世界でのリスクは価格のブレ幅のことを指す。ブレ幅が大きければリスクが大きい、小さければリスクが小さいと表現するのだ。

一般的に価格の変動の大きい株価はリスクが大きく、小さな債券はリスクが低いと言われ、ブレが殆どないことから最も低リスクに分類されるのが預貯金となる。投資の世界では、価格が下がることだけではなく、上がるブレ幅も含めてリスクと呼ぶのだ。

この例で言えば、購入してからの価格が最も下がる可能性も、最も上がる可能性も大きいのが株ということになるわけだ。あくまでも可能性の話だ。

では、投資をするとはどういうことか。一言で言えば再現性があるかどうかだ。

例えば、馬券を買ったとしよう。初めて購入した馬券で万馬券を引き当てた。また次に同じように万馬券が当たる可能性は少ない。また同じように宝くじを買い、1等5億円を当てたとしよう。同じように1等を当てることができるか言えば、ほとんどその可能性はない。あくまでも偶然という確率の世界だからだ。このように馬券も宝くじも再現性がない世界なのだ。

ではFXや暗号資産(仮想通貨)はどうか。これはお金を投じる機会を見計らって行うもので、再現性がなく、投資よりは投機という要素が大きいことになる。

一方で株式投資はどうだろうか。目先のブレ幅はあるが過去の株価は長期的に見ても上がっているのがわかるだろう。なぜならば、経済が成長するには企業の成長がある。その企業が上場し、企業価値が高まっているからだ。

日本でも最も大きな時価総額の会社はトヨタ自動車だ。トヨタ自動車は、2010年3月末時点で12兆9127億円の時価総額だったが、2021年3月末時点では24兆898億円とほぼ倍増している。※データ出所:IR BANK 2021年年7月12日現在

時代とともに成長を続けている証拠であり、米国のGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)だってまだまだ成長を続けている。

地球に隕石が落下し、世界人口の半分になってしまったとか、世界の上場企業の大半が何らかの理由で消滅したなどのことがあったとすれば、経済の成長が止まってしまうこともあるだろう。しかし、世界人口が増え続け、時代の変化に企業が対応し続けていれば、経済成長がずっと停滞し続けることはないのだ。

つまりどのような状況にあっても、経済が成長に反映する株価の戻りがあるこの世界は再現性があると言えるのだ。こうした法則を知れば、コロナ禍であろうが、いつかまたやってくる金融ショックが起ころうが、投資に対して恐れるに足らないということだ。

皆さんの大切な資産を使って、再現性のない一か八かの大勝負にでるべきではない。経済の仕組みを理解して、再現性のある投資を行うべきだ。資産を上手に増やしていくためには、しっかりと正しい知識を身に付けるほか近道はない。

著者プロフィール:市川雄一郎(いちかわ・ゆういちろう)

グローバルファイナンシャルスクール校長。CFP。MBA/経営学修士。日本のFPの先駆者として資産運用の啓蒙に従事。テレビ、新聞、雑誌等のメディア活動経験も豊富。主な著書に『投資で利益を出している人たちが大事にしている45の教え』(日本経済新聞出版)がある。