――映画では、本格プロデビューを果たす前の少年・石ノ森章太郎(演:鈴木福)が、将来『仮面ライダー』『秘密戦隊ゴレンジャー』を生み出し、大ヒットに導くだろう……というくだりが象徴的に語られますね。

石ノ森先生の自伝的“萬画”のなかに「時ヲすべる 第1話/トキワ荘1961」という作品があります。そこでは、アパート「トキワ荘」で少女マンガ誌の仕事をしていた青年時代の石ノ森先生が、アシスタントに「(あなたは)テレビで『仮面ライダー』などをヒットさせる……」と告げられます。自伝というにはシュールなシチュエーションではありますが、これって石ノ森先生自身が「若さゆえの希望と将来の不安」をかかえていた、という切実な思いの表出だと感じるんですよ。「若き日の創造主の苦しみ、悩み、そして希望」というものをなんとかドラマの中に盛り込めないだろうかと、努力をしてみたつもりです。

――映画には、1971年に初登場した『仮面ライダー』、いわゆる「旧1号」が当時の造形を忠実再現した形で登場しています。50年の歴史の“はじまりのライダー”を出された経緯とは?

映画のストーリー展開的にも、まだ「旧1号」とも「1号」とも呼ばれていない、『仮面ライダー』でなければなりません。ちょうど50周年に向けた展示イベント用に旧1号の再現スーツが製作されていたのを、そのまま使わせていただきました。

――また、仮面ライダー1号/本郷猛役の藤岡弘、さんが仮面ライダー50年の“重み”を背負って登場されるのも、映画の注目ポイントだと思います。白倉さんは藤岡さんにどんなことを託したのでしょうか。

『仮面ライダー』スタート当時の視点で、リアルに語ることができるのはもう藤岡弘、さんしかいらっしゃいません。残念なことに、ここ数年で最初の『仮面ライダー』を作った方たちが相次いでこの世を去り、言い方は悪いかもしれませんが藤岡さんは当時を知る、大切な生き証人です。藤岡弘、としてでなく、「仮面ライダー/本郷猛」としての思いを語っていただくのも大事なことでした。藤岡さんも格別の思いを込めて取り組まれています。藤岡さんには、これまでにも何度か「仮面ライダー」映画に出演していただきましたが、今回は私たちが初めて見るような表情、芝居を見せていただき、感動しましたね。

――白倉さんは『仮面ライダー』(1971年)は初期エピソードからお好きでずっと観ていたとおっしゃっていましたが、4年後となる1975年に開始した『秘密戦隊ゴレンジャー』のほうはどうでしたか。

小学生にとっての4年間は長いですから。私自身もそろそろ熱中してヒーロー作品を楽しむ年頃ではなくなってますね。でも『秘密戦隊ゴレンジャー』は毎週テレビにかじりつき、ではないですが、ブームは肌身に感じていました。むしろ大人に成長してからのほうが、『秘密戦隊ゴレンジャー』のドラマの作り方やキャラクターの巧みな動かし方について、感じ入ったかもしれません。

――世界には架空の「物語」がいくつもあり、そのひとつひとつの登場人物もまた生きている存在だ、というのも本作の大きなテーマです。『仮面ライダーセイバー』の主人公・神山飛羽真は、小説家として「物語」を作る創造主でありながら、自分も「物語」の登場人物だと気づく、メタ展開になるのがすごいですね。

飛羽真はテレビシリーズで「物語の結末は俺が決める!」と豪語しますけれど、じゃあ「その言葉、原作者の前でも言えるの?」と問いかけたのが今回の映画です。

『仮面ライダー』でも、ショッカーに作られた仮面ライダーが、同じショッカーの怪人と戦いますよね。それは子どもが親であったり、より大きな社会だったりを相手に立ち向かっていくのと一緒。決して今ここにいる自分を全肯定するのではなく、自分とはいったい何なのか悩み続けるのが、石ノ森ヒーローの人間味、魅力です。だから飛羽真には、自分が作る物語(小説)という箱庭世界の中での「神」であるだけでなく、自分たちを作った創造主(原作者)を相手に回しても、正々堂々と「主人公は俺なんだ」と言い切ってほしい。神に挑戦状を叩きつけるくらいの被造物であってほしいと思っているんです。

――「物語のカギを握る謎の少年」章太郎役に、鈴木福さんをキャスティングされた狙いとは?

それはもう、少年時代の石ノ森先生を演じられるのは誰だろう? 鈴木福くんしかありえないんだけど、みたいな感じで早々と候補にあがりました。なんでも聞くところによれば仮面ライダーのファンらしいし、でも忙しいんじゃないかな?と思いつつお話をしてみたら、スケジュールをしっかり開けてくださり、快くお引き受けくださいました。

――福さんは5年前の雑誌インタビューにて「仮面ライダー50周年を迎えるあかつきには、ぜひ自分も出演したい」と熱いラブコールを放っていたそうですが、このことをご存じだったりしましたか。

ぜんぜん知りませんでした。ただ、「仮面ライダーが好きそうだ」って話は耳に入っていましたね。でも、実際にお会いしたら、「好きそう」なんてもんじゃなかった。ガチで「めちゃめちゃ仮面ライダーもスーパー戦隊も好き!」でした(笑)。私たちが彼にオファーしたのは福くんの演技力と存在感が目当てでしたが、この役の意味合いをあれほど深く理解していただけるとは思っていませんでした。