番組の中で内島Dは、松下家を支えてきた長女の瑛梨歌(えりか)さんに「家族って何なんですかね?」という質問をぶつけている。瑛梨歌さんは「難しい…本当によく分からないです」と答えていたが、この一家を見つめた内島Dには、どんな答えが見つかったのか。

「これは瑛梨歌さんの受け売りですが、家族って存在しているだけで尊いものなんだと、今回の取材を通して実感しました。近くにいても離れていても“いる”というだけでちょっと安心できるというか…。それは友達ではありえない感覚だと思います。僕自身、中学生の時に典型的な反抗期があったりして、結局誰に当たるかと言ったら一番近くにいるから家族に当たってしまいました。それでも家族は、ただそこにいてくれたんですよね。それがどれほどありがたいことなのか、松下家の皆さんに教えてもらいました」

■わずか2週間の撮影期間で濃密なドキュメンタリーに

今回は、静徳さんが自宅に戻った日からの2週間を追っているが、そんな短い期間とは思えない、濃密なドキュメンタリーが描かれている。

ともすれば、取材対象者との信頼関係を築くだけに費やされてしまう期間だが、ここまで深く取材できたのは「間違いなく、松下家の皆さんの人柄のおかげだと思います」とのこと。

「静徳さんは学校の先生なので、30歳離れてる僕なんて教え子みたいな感じで、きっと受け入れてくれたんだと思います。お母さんは、人との間に壁をあまり作らないタイプの方。そんなおふたりのお子さんたちなので、受け入れてくれたのだと思いました。静徳さんの余命が限られている中で、赤の他人の僕にカメラを回させてくれた松下家の皆さんには、本当に感謝しています」

最後に、今回の番組を通して伝えたいことを聞くと、「見ていただいた後に、親でもきょうだいでも、ちょっと電話をするとかメールするとかでもいいので、自分の中で『家族ってなんだろう』『どんな存在なんだろう』というのを感じたり考えたりしてもらえたらいいなと思います。そういう思いが続いていけば、世の中の温度も上がっていくのではないかと思います。偉そうですけど、この社会を少しでも良くしたいという目線で番組制作をしています」と呼びかけた。

  • 内島悠介ディレクター

●内島悠介
1990年生まれ、千葉県出身。法政大学卒業後、14年パオネットワークに入社し、『東北発☆未来塾』(NHK Eテレ)や、『news every.「5年ぶりの成人式」』(日本テレビ)、『BS1スペシャル「聖域は守れるか~ロサンゼルス 不法移民の日々~」』『BS1スペシャル「仕事が消えた~コロナショック最前線~」』(NHK BS1)などを担当。『明日へつなげよう 証言記録 東日本大震災89回 心の傷に寄り添う~訪問型ケアの現場から~』(NHK総合)では、第36回ATP賞テレビグランプリで奨励新人賞を受賞した。