私が発信している、Youtube上のお悩み相談番組「大愚和尚の一問一答」には、人間関係についての悩みがたくさん届きます。

答えはブッタの「諸法無我(しょほうむが)」の真理にある

お釈迦さまは、誰もが抱える苦しみの中に、人間関係について、代表的な苦しみが、2つあると説かれました。

「愛別離苦(あいべつりく)」と「怨憎会苦(おんぞうえく)」です。愛別離苦とは、愛する人と離れなければならない、という苦しみのこと。怨憎会苦とは、会いたくない人と会わなければならない、という苦しみのこと。

会社に入ると、理不尽なことをたくさん経験し、怨憎会苦も経験します。とくに、新年度が始まってしばらくすると、「直属の上司から、何度も厳しくダメ出しをもらうので会社に行くのがつらい。どうやって乗り越えたらいいか」といった相談が届きます。

ですが、あまりにストレスフルな状態が続けば、精神を病んだり、「転職」の二文字が頭に浮かんだりするかもしれません。一体、このストレスの正体は、何なのでしょうか。それは、自分の心に生じた「凹みと反発」です。

ではなぜ、上司からのダメ出しに「凹みと反発」が生まれてしまうのでしょうか。それは、自我(じが)があるからです。自我とは、エゴのこと。 「自分を一番」だと、とらえる意識のことです。自分が一番偉い。自分が一番できる。自分が一番かわいい。自分が一番愛されたい。自分が一番認められたい。逆に、自分が一番ダメ。自分が一番サイテー。見かけは違えど、どれも立派な、自我です。

「自己評価」、と表現してもいいかもしれません。上司からのダメ出しに凹んだり、反発したりする理由は、自己評価が高すぎるからです。この世でもっとも重要な存在である「わたくし」を、評価してもらえない……。自我がそう感じて、凹み・反発するのです。

気持ちはわかります。けれども、これは、そもそもの前提が間違っています。あなたの仕事の「評価」は、部下である、あなたがするものではありません。評価者である、上司がするものです。そう、評価は、自分ではなく他人がするものなのです。

そうは言っても、やはり、上司からのダメ出しには凹みます。特に新卒の社員は、傷つきやすいものです。なぜなら、会社に入る直前まで、一消費者として、「好き、嫌い」「面白い、面白くない」「使える、使えない」などと、傲慢な自我による上から目線で、他者を評価し続けてきたからです。

それが社会人になって、いきなり、評価する立場から、評価される立場になった。無責任に「ダメ出しする立場」から、辛辣な「ダメ出しを食らう立場」に立ってしまったのです。

さて、どうしたものでしょうか。お釈迦さまは、この傲慢で、傷つきやすい自我(高い自己評価)を持っていることが、苦しみの原因だと自分の心を観察して、発見なさいました。そして、「諸法無我(しょほうむが)」つまり「傲慢さを手放しなさい」と説かれたのです。

「ダメ出し」に凹んだときこそ、上司に感謝の念を示す

自分は一生懸命とり組んだ、と自負しているときほど、「ダメ出し」されると凹みます。しかも、そのダメ出しが、冷たく、厳しいものであれば、なおさらです。

けれども、ここで、諸法無我の真理を思い出してください。凹みそうになる。反発したくなる。その衝動を超えて、上司に感謝の念を示すのです。「ご指摘、ありがとうございます」と言って、自我を離れ、「なぜダメ出しされたのか」を冷静に分析するのです。

自分が懸命に行った仕事が「評価されなかった」ということは、「どうすれば評価されるか」が分かっていなかった。「上司が求めていることを、理解していなかった」ということです。

上司が求めていることと、自分が考えたことに齟齬(そご)があったということなのです。この齟齬が解消されない限り、何度もダメ出しをもらうのは、当然です。

上司から指示を受けた段階で、すでに、上司が求めている内容と、自分が求められていると考えた内容にズレがあった場合、求められている成果は出せません。「一所懸命やりました」「必死で考えました」「頑張りました」という話ではないのです。

ここに気づいて、すぐに認識のズレを修正し、「求められている成果を出せる人」が評価されます。ここに気づかず「何で私が悪いの?」と、上司のダメ出しに対して、凹み続け、反発し続けていいる人は、他部署へ行っても、他者へ転職しても、ついに評価されません。

無我になって、自己評価を離れて、求められている結果を出せるようになることが、社会人としての成長です。料理やスポーツと同じです。「挑戦→失敗(ダメ出し)→再挑戦」の積み重ねが、自分に成長をもたらすのです。

だから、部下の成長を願う上司ほど、厳しく「ダメ出し」をします。「部下の育成」という大切な役割をよく理解していない上司は、部下を甘やかすか、「やめてもらってはこまるから」といって、当たり障りなく接します。

嫌われないように、部下にやさしくする接する上司と、不満顔に耐えながら、部下の成長を願って厳しくダメ出しをしてくれる上司。どちらの上司が、あなたを伸ばしてくれるでしょうか。上司としての役割を果たしている、と言えるでしょうか。デキる社会人として早く成長したいなら、上司からの厳しいダメ出しに、感謝することです。

凹んだり、反発したりするのではなく、ダメ出しされた瞬間に「ありがとうございます」と言って、自分の認識と、求められていることのズレを確認、修正し、再挑戦することです。

集団での自分の「立ち位置」を把握することが大事

私たちは、関係を生きています。それぞれが、個で生きているようでいて、あらゆる人、もの、事象との関係を生きています。

仏教では、そのことを「縁起」といいます。関係を上手く生きるには、それぞれの場面において、自分の立ち位置を把握して、役割を果たすことです。

例えば、会社の社長であるAさんには、妻子があります。家にいるときのAさんは、妻との関係においては夫であり、子どもとの関係においては父親です。Aさんが、どんな大会社の社長であっても、その立ち位置と役割は変わりません。しかし、そのことを忘れて、Aさんが家でも「社長」として振る舞い続けたらどうなるでしょうか。きっと、一家が崩壊してしまうことでしょう。

逆に、Aさんが会社に行って、妻に甘えるように、秘書に甘えていたらどうでしょうか。子どもと戯れるように、部下と戯れていたらどうでしょうか。会社の経営は大きく傾いてしまうことでしょう。

家庭にあっては、家庭での立ち位置を把握して、役割を果たす。会社にあっては、会社での立ち位置を把握して、役割を果たす。

どんな会社も、理念を掲げ、目的、目標に向かって、挑戦しています。そこで働くすべての人に、それぞれ、把握すべき立ち位置と、果たすべき役割があります。

各人の役割が、ちゃんと、果たされているかどうか。その結果として、求めたい結果が、ちゃんと、もたらされているかどうか。それらをちゃんと評価し、出来ていなければ、出来るようにする。これが、健全なる会社経営の姿です。

そのために欠かせないのが、「ダメ出し」です。部下の仕事の評価、ダメ出しを上司がする。その上司の仕事の評価、ダメ出しを、社長がする。そして、社長の仕事の評価とダメ出しを、株主や市場がする。部下であるあなたも評価されますが、上司もまた誰かに、常に評価され、ダメ出しされているのです。

ダメ出しに、凹んだり、反発するのではなく、「ご指摘、ありがとうございます」と感謝して、何度でも挑戦する。そのような、無我の人が成長する人であり、無我の人が集まる会社が、繁栄する会社となるのです。