神奈川工科大学とNTT東日本、NTTe-sportsは、昨年11月にeスポーツ分野における3者連携協定を締結し、eスポーツの発展や研究、地域活性に取り組んでいる。ここ数年でいっそう注目されているeスポーツにおける産学連携とは、どのようなものか。神奈川工科大学の塩川茂樹教授、岩田一准教授、上田麻理准教授、NTT東日本の水谷次郎氏、加来良太郎氏に話をうかがった。

  • (左から)NTT東日本 神奈川事業部 企画部広報担当 課長の水谷次郎氏と、神奈川工科大学情報学部の塩川茂樹教授、上田麻理准教授、岩田一准教授

eスポーツ特化の研究で大学の魅力アップと地域活性

eスポーツ(エレクトロニック・スポーツ)は、複数プレイヤーで対戦するビデオゲームをスポーツとしてとらえた名称。近年急激に市場が拡大傾向にあり、世界市場規模は1,000億円を突破、国内市場も2022年には100億円に達する見込みといわれている。

神奈川工科大学では、2019年からこのeスポーツに着目。単なるゲームとしてではなく、ICTや化学を活用することでスポーツとしての価値を確立し、大学が先駆的な存在となることを目指して翌年「先進eスポーツ研究センター」を発足した。

一方、NTT東日本では2020年1月、eスポーツ分野に注力したNTTe-sportsを設立。同社のICT技術と連携各社の力を掛け合わせることで、eスポーツのトータルソリューション提供や、地域社会・地域経済の活性に貢献している。

神奈川工科大学の先進eスポーツ研究センター設立の発表を機に両者が共感し合い、2020年11月に3者連携協定を発表した。産学連携で、eスポーツの低遅延配信対策の研究や、視線や指の動きによる競技力の影響を検証した競技力向上の研究などを進める。

先進eスポーツ研究センターのセンター長を務める塩川茂樹教授は「eスポーツにはフィジカルスポーツに通づる魅力があり、eスポーツが活気付くことで学生たちが元気づけられる。また、高校生以下の生徒や児童にとっても、eスポーツに強みを持つことは神奈川工科大学の大きな魅力の一つにもなると思います」と、協定締結について話す。

NTT東日本 神奈川事業部 企画部広報担当 課長の水谷次郎氏も「大学と連携することで、NTTとしては研究面のデータを蓄積できる。eスポーツの人口拡大に寄与し、地域社会に貢献することもできます。大学生が社会と触れ合うきっかけになればうれしいです」と期待を寄せている。

学生発案のeスポーツ大会を開催

神奈川工科大学では研究センターの設立とともに、学内のeスポーツサークルを大学公認の部活動に。部員がプレイヤーとしてeスポーツの技術研鑽をするほか、eスポーツイベントの企画・運営を行う。

  • 神奈川工科大学eスポーツ部の設備

2021年4月には3者連携協定の第一弾として、eスポーツ部の発案による大会「KAIT GRAND PRIX」を開催。オンライン開催で生配信も行った。

  • 神奈川工科大学eスポーツ部がNTT東日本、NTTe-sportsと連携して開催した大会「KAIT GRAND PRIX」

学生とともに開催までの実働的な部分を担当したNTT東日本 神奈川事業部 地域ICT推進部 主査の加来良太郎氏は、「学生さん発信の企画書をいただき、私たちも活動をサポートするかたちで携わりました。コロナ禍の影響もあって直接お会いすることも難しく、学生さん同士も集まれない中でしたので、オンラインで定期ミーティングを開いて、いつまでに何が必要か、私たちの大会運営のノウハウなどを提供しました。私たちにとっても教育プログラムなどの開発につながる経験でした」と振り返る。

  • NTT東日本 神奈川事業部 地域ICT推進部 主査の加来良太郎氏

「学生たちははじめ企画書を書くのもままならなかったのですが、準備を進める過程で自発的に動けるようになり、成長する機会をいただけました。NTTさんとの連携がなければできなかった、素晴らしい経験に感謝しています。研究テーマにeスポーツを選ぶ学生も出ています」(塩川教授)。

  • 大会中のアクシデントに対応する学生たち

NTTe-sportsの協力により、KAIT GRAND PRIXは、最先端のICTと最新の機材を備えた施設「eXeField Akiba(エグゼフィールド アキバ)」を貸し切り、横浜F・マリノスeスポーツチームの選手を解説に招いた華やかな大会となった。全国から64人が参加し、盛況のうちに終了した。

  • プロeスポーツ選手とともに実況も

実験や調査をしながら、地域貢献へ

産学連携は、今後新たな研究や調査に踏み出す予定だ。「現在進行しているのは、音の面からのeスポーツにおける研究です。音響の有無で競技にどんな影響があるか、技術が一流のプロのレーサーによる実験やアンケート調査を行う予定でいます」と、スポーツ音響などを専門とする上田麻理准教授。

  • 神奈川工科大学で行っているeスポーツのデモの様子

ユーザビリティなどを専門とする岩田一准教授も「顔の見えることのないeスポーツだからこその攻撃性などを分析した、コミュニケーションの研究を進めたい」と語る。

NTT東日本は、アンケート調査やプレー時の脳波実験など大学での調査・実験に協力し、自治体や他の教育機関などとも連携調整を行うことで、地域交流による地域活性にもつなげていきたい意向だ。「研究成果を社会につなげたいですね」(水谷氏)。

2019年の茨城国体では文化プログラムに採用、2021年にはオリンピック公式イベントにもなったeスポーツ。神奈川工科大学eスポーツ部にも、アジア上位にランクインするトップクラスの腕前の部員がいるという。NTTの最先端技術やノウハウと、大学生の自由な発想や行動力を掛け合わせた新しい取り組みに注目したい。