「やおら」とは「ゆっくり動作を起こすさま」を表す言葉です。「急に」や「いきなり」などの誤った意味で使われがちなので注意しましょう。

近年では「やおら」という言葉自体が使われなくなってきており、初めて聞いたという方も多いかもしれませんが、語彙力は高めていきたいところです。そこで本記事では、「やおら」の正しい意味や語源、類語などについて詳しく紹介します。

  • 「やおら」の意味

    「やおら」は誤用が多いので、正しい意味や語源を覚えておきましょう

「やおら」の意味

「やおら」は、「ゆっくりと動作を起こすさま」や「徐々に事を行う様子」を表す言葉です。「静かに」や「そっと」という意味合いもあります。動作の対象は人間だけではなく、動物に対しても使うことが可能です。

「やおら」の誤用は多い

「やおら」は、「いきなり」や「急に」などの意味に誤用されやすい言葉です。文学作品には「やおら立ち上がった」や「やおら現れた」などの表現が多く、前後の文脈から「急に」や「だしぬけに」という意味と勘違いしやすいのが、誤って解釈されやすい理由と考えられています。

「やおら」は戦前から「急に」や「だしぬけに」などの意味で使われるケースもあったため、誤解され始めたのは最近ではないようです。

文化庁の「国語に関する世論調査」によれば、「やおら」の意味を「急に」「いきなり」などと誤解している人が43.7%、本来の意味である「ゆっくりと」と思っていた人は40.5%となっています。正しい意味を回答した割合が多いのは60歳以上のみで、ほかの世代では意味を間違えている人の割合が上回っています。

「やおら」の語源

「やおら」の語源には諸説あります。ひとつは、現在の「ようやく」を意味する「やをやく」が短縮した「やを」に、状態を表す意味の「ら」という接尾語がついたという説です。「ようやく」には「やっと」という意味があるので、「ゆっくりとした動作を起こすさま」を意味する「やおら」に通じていると考えられています。

もうひとつは、「やはら」という言葉が語源になっているという説です。「やはら」を漢字で書くと「柔ら」や「和ら」になり、「やわらかい」「おだやか」という意味になるため、「やおら」の語源になっているのではないかとされています。

古文で登場する「やをら」はほぼ同じ意味

「やおら」は古語辞典にも載っている古い言葉です。実際、古文にも「やをら」という表現は数多く登場します。

古文では「やをら」と書かれていますが、現在使われている「やおら」と意味はほとんど同じです。ただし、人や動物の動作に対して使われるのではなく、「そっと」や「しずしずと」というような「静かな情景」を表現するために使われるケースが多くなっています。

平安時代に清少納言が執筆したとされる「枕草子」にも「やをら」は使われていますが、その一方で、鎌倉時代に吉田兼好が記したとされる「徒然草」に「やをら」は一例もないため、平安時代の女性的なイメージが強い古語なのかもしれません。

  • 「やおら」の語源

    古くから使われている「やおら」の語源を知っておくと正しい意味を理解しやすくなります

「やおら」の類語

「やおら」と似た意味をもつ類義語を紹介します。

穏やか

「穏やか」は「何ごともなく静かな様子」を表すので、「静かに」を意味する「やおら」の類語として使えます。

のったり

「のったり」は、「ゆったりしているさま」や「ゆっくりと動くさま」を意味する「のたり」を強めた言葉です。「ゆったり、のったりする」などと対句で使われることもあります。

しっとり

「しっとり」には、「静かに落ち着いて好ましい趣があるさま」という意味もあります。

おもむろに

「やおら」と同じく「動作が静かでゆっくりしているさま」を表す言葉です。本来は「ゆっくりと」という意味を持つ「おもむろに」も、「急に」「いきなり」という誤った意味で使われやすいので注意しましょう。間違って使われる状況も「やおら」とほぼ同じです。

なお、「おもむろに」を漢字で書くと「徐に」となります。「徐行」の「徐」が使われているので、「徐に」には「ゆっくりと」という意味があることが理解できるはずです。

「急に」や「だしぬけに」などの意味で誤用しないためにも、漢字の「徐に」と「やおら」が類語であることを覚えておくといいでしょう。

  • 「やおら」の類語

    「やおら」の類語「おもむろに」も誤用されやすいので気をつけましょう

「やおら」の使い方と例文

「やおら」を使った例文を紹介します。

「目の前にいた男性がやおら立ち上がって名刺を差し出した」

ビジネスシーンでも違和感なく使える例文です。「目の前にいた男性がゆっくりと立ちあがって名刺を出した」という意味になります。前後の文脈から「急に」や「いきなり」でも意味が通じてしまうので、「やおら」の正しい意味を理解したうえで使うようにしましょう。

「『昔、ここで重大事件があってね』と、やおら彼が話し始めた」

過去に事件があったことを、彼が「静かに」「そっと」話し始めたという例文です。日常生活で「やおら」を使う機会はないかもしれませんが、語彙力を高めて誤った解釈するのを防ぐためにも覚えておきましょう。

「やおら」を正しく使って表現の幅を広げよう!

「やおら」とは、ゆっくりと動作を起こす様子を表した言葉です。多くの人が「急に」「いきなり」などの意味と誤解しているので、正しい意味を覚えて、ビジネスシーンでも活用していきましょう。

あまり使う機会のない言葉ですが、歴史のある古い言葉なので、正確な意味と語源を理解して語彙力を高めていきましょう。