あす15日に放送される日本テレビ系バラエティ番組『世界一受けたい授業』(毎週土曜19:56~)では、精神科医の藤野智哉氏が、ベストセラーから選んだ「ストレスを減らす“心の処方箋”」の授業を行う。放送を前に、心の不調に気づいたときにできることなどを語った。

  • 精神科医の藤野智哉氏=日本テレビ提供

──番組でも多数紹介されているストレスを軽減してくれるちょっとしたヒントが書かれた書籍。書店でも特集コーナーが設置されるなどブームを超えて、定番のジャンルとなりつつあります。そういった現状をどうとらえられていますか?

書籍のトレンドのようなことは専門家ではないので分かりませんが、やはりストレス社会ということは言われていて、患者さんの数は昔から比べれば増えています。こういう方が増えたなとか、こういう年代の人が増えたなというのは、(自身で)統計を取っているわけではないので明確には言えないですが、コロナ禍では主婦の方の(心の)負担が増えているのではないでしょうか?リモートワークが進んできた関係で、これまで日中は家に居なかった夫やお子さんがずっと家にいてご飯作る手間が増えたりとか、趣味や外出もできなくなってしまった。そういうことで、負担が大きくなっていると言われてます。また、お子さんの患者さんも増えています。休み明けに行くのがしんどい。そもそも休みが不規則。去年はそういったことを仰って診療に来られる方は実際多かったです。

──家庭や学校、職場などで、ともに時間を過ごす人たちの心の不調を気づいてあげることができるサイン、兆候のようなものはあるんでしょうか?

一番分かりやすいのは、食欲が落ちること。あとは、ストレスが高まると頭の回転が遅くなってミスが増え思うようにいかなくなる人もいます。それがイライラとして出ることもあって、普段はすごく穏やかな人なのに攻撃的で噛みついてくる発言がちょっと目に付くとか。ほかには、余暇を楽しむことができなくなって、SNSなどに趣味のことを投稿しなくなる。そうすると、話題の幅も減って次第に人付き合いも悪くなったりします。

──そういった兆候に気がついたとき、周囲はどんなことができるでしょうか?

やっぱりコロナ禍の中であってもつながりを保つことが一番大事だと思います。特に何かを言ってあげるとかでなくても、本人が何か言いたくなったときに聞いてあげられる状態でいること。誰かに話すことで整理したり発散になったりします。ちょっとしんどそうな人に連絡するのは、こっちもしんどくなりそうでみんな『また今度でいいか』って考えてしまうと思うんですけど、気になったときに連絡をしてあげる、聞き手になってあげるってすごく大事だと思います。ただ、聞き手が思い入れを強くしすぎて『今度もっとこうしたらいいよ』とかプレッシャーになるようなことを言って、アドバイスの通りにいかなくて『お前のせいだ』と責められると最悪な形になってしまいます。あくまで聞き役に徹して、それ以上踏み込まない。本当は踏み込んであげたくなると思うんですけど、ちゃんと距離をとる。僕ら(精神科医)が診療するときも、感情移入すると治療がうまくいかなくなるし、患者さんが僕らに依存しても治療はうまくいかなくなります。

──前回、番組に出演された際は、毎朝鏡にむかって自分を褒めるとストレスが軽減すると教えて頂きましたが、ほかにも自分自身でできるストレスケアがあれば教えて頂けないでしょうか?

色々ありますが一番簡単なのは、「いま自分は何が不安か?」「何がしんどいのか?」書き出してみることです。よくカウンセラーさんがやりますけれども、何が実際に不安なのか具体的に書き出して整理すると、不安に思っていることにどんな対策をする必要があるのか見えてくる。ひとに話すことも結局、話すことで整理ができるわけですね。あとは必要以上に怖がっていないかとか客観的に見ることもできます。実はそんなに不安のことは数多くなかったりします。あとはイライラしていることも書いてみると、大体書いている間に落ち着いてきたりスッキリしてしまう。誰かに見られると思うと、書くことすら本音で書けない人がいますが、書いた後に破り捨てるつもりで書けば大丈夫です。 結局、昔から言われているのは王様の耳はロバの耳と一緒で、不安はどこかに出してしまうこと。誰にでも簡単にできることです。日記を普段から書いている人は割とそういうことを無意識にやっている方もいますね。

──そもそも、藤野先生が精神科医を志したきっかけは何だったのでしょうか?

精神科医を志したきっかけは犯罪心理に関心があったからです。裁判において精神鑑定を行う場面があるのですが、なぜこの人は殺人を犯したのか?責任能力があるのかないのか?鑑定が一審と二審で判定が割れたりして、なぜこの人が無罪になったんだろう?とすごく気になっていたんです。判断が偏っていたり、鑑定は本当に正しかったのか?そこはブラックボックスの世界。精神鑑定は『きちんとやる』と決めた人がやらないとよくないのではないかと思い、医療刑務所で週に一日、受刑者で精神医療が必要な方たちを診療したりもしています。

あともうひとつの理由は、もっと気軽に精神科を受診できるようになってほしいということ。今日のような活動(番組出演)もそうですが、より多くの人に届くように本の執筆なども行っています。

精神病院を建てることになると、反対運動が起きたりしますよね。やっぱりまだ根強い偏見があるんです。鬱なんかは、最近『心の風邪』って言われますけど、本当に誰でもなりうる病気なんですよね。そういうことをもっと知られるべきだと思っています。