映画『るろうに剣心』のアクション監督・谷垣健治氏が、あす24日に放送される日本テレビ系バラエティ番組『世界一受けたい授業』(毎週土曜19:56~)に出演する。
谷垣氏は香港でスタントマンとしてのキャリアを積み、その後アクション監督の道へ。実写映画『るろうに剣心』シリーズでも、2012年公開の1作目から全てアクション監督を務め、『The Finalが4月23日、『The Beginning』が6月4日に2作連続公開となる『るろうに剣心 最終章』でもアクション監督を務めている。
今回の放送では、『るろうに剣心』撮影の舞台裏を中心に、アクション指導、演技の構成、カメラワークまで多岐にわたるアクション監督の仕事を掘り下げていく。収録後に番組の見どころや、『るろうに剣心』アクションの舞台裏、海外での評価なとを語った。
『るろうに剣心 最終章』の出来栄えについて「1mmの後悔もない」と語る谷垣氏。実は『るろうに剣心』シリーズのアクションは海外からも一目置かれているそうだ。
谷垣:『るろうに剣心』は世界中アクションをやっている人間ならみんな知っているし、少なからず影響を受けていると思います。今回『最終章』ができるということで今度はどんなことをやるのか、とても注目しているのを感じます。僕が海外の仕事に呼ばれる時も、実は『るろうに剣心』をやっている人だからぜひ、と望まれて行くことがとても多いです。
──海外の撮影現場では、どのような質問や評価を受けていますか?
谷垣:いろんな質問を受けますね。「あのシーンはどうやって撮ったのか」という質問から、「佐藤健という役者、彼はスタントマン出身なのか」という質問も受けたことがあります(笑)。今回の『るろうに剣心 最終章』は本撮影が終わって次の作品のロケ地のパンクーバーで編集をしていたのでsが、僕の部屋に遊びに来たアメリカのスタントマンが「ワオ、・・・これはゲームチェンジャー」と、一体どうやったらこういうアクションができるのかお手上げだという感じのリアクションをしてくれていました。
『るろうに剣心』は「ハリウッド映画並み」という言い方をよくされるそうだが、谷垣氏は「ハリウッド映画でもない、香港映画でもない、独自のジャンル、独自の進化を遂げている」と捉えているそうだ。
──『るろうに剣心』とハリウッド映画との違いは、具体的にはどういったところにありますか?
谷垣:システムですね。『るろうに剣心』をはじめ僕がアジアでやっている現場は撮影部、照明部、美術部、装飾部などと同じように「アクション部」というのがあり、アクションシーンにおいては彼らが「アクションを撮る上での演出部」のような働きをカメラの前と後ろできっちりしてくれます。なかなか想像がつきにくいかもしれませんが、実はこれこそがアクションシーンを成立させる上でとても重要な要素だと考えています。その日だけスタントマンが雇われて現場に来るのではなく、アクション部が現場での撮影やその裏でのアクション練習など、その作品のアクションにずっと関わり続けているというわけです。
──放送では、授業の生徒役として『るろうに剣心』で緋村剣心を演じる佐藤健さん、神谷薫を演じる武井咲さんも出演しますね。『るろうに剣心』撮影現場ではどのようなアクション指導を行うのでしょうか?
谷垣:アクション練習は役者さん1人ずつ行います。練習の中で一番大事なのは、アクションを通じてキャラクターを作るお手伝いをすることです。その段階では僕らはトレーナーでもありますが、むしろカウンセラーに近いかもしれないですね。その日の練習で『ここ、剣心っぽいね』というところが発見できた、ならば次はこういう練習をしよう…そういった処方箋を作り、一緒にキャラクターを発見するというのがアクション練習だと思っています。
──アクション指導時、佐藤さんや武井さんの印象に残っている点はありますか?
谷垣:お2人とも、1作目からオリジナリティーがありましたね。実戦的で前傾姿勢の剣心と、町道場の師範なのでちゃんと正中線をまっすぐにして構えている薫。キャラクターは全く違うのですが、僕らが教えずとも自然にそういった構えが最初からできていたので、それはすごいなと思いました。そうなると、僕らは一緒にそのキャラクターの癖を探していくことができます。お客さんが思わずマネしたくなってしまうような何かを。そこで練習中に自然に出て来たものを「あっ、今のかっこいい!」「今のすごいな、独特で剣心っぽい!」「そのまっすぐな感じ、師範っぽい!」と、僕らが見つけて、キャプチャーして、そういった(演じるキャラクターらしい)佇まいを一緒に見つけていくわけです。そういう意味ではお2人はシルエットだけでも、剣心、薫とわかるくらいでしたから、役者さんとしての優れたところ、オリジナリティがありましたね。こういった指導は、最初から構えを教えてしまうとそれはただの「決まりごと」になって腐っていってしまうので、自然に出てきたものを見つけていくのがベストですね。
配信サービスの普及により、世界中で様々な国の映画を観られるようになった現在。そんな環境の中で、日本の映画、日本のエンタメが出していくべき強みについても聞いた。
谷垣:外に向けてということで言えば、結局はドメスティックなものを突き詰めるということになると思います。アクション映画でもこれまで評価されたものは、例えばタイの『マッハ!』という映画はムエタイアクションを強調しています。インドネシアの『ザ・レイド』という映画はシラットというアクションを強調しています。そういった意味では、『るろうに剣心』の刀はすごく良い題材ですよね。『るろうに剣心』の題材、キャラクター、時代背景は日本らしく、同じものは他の国ではなかなかできないものだと思います。
──海外のアクション事情や作品をチェックされることも多いですか?
谷垣:長年やっているといろんな国のアクション関係者と交流がありますから、お互いの作品を見て感想を言い合ったり、またスタントマンを紹介したり、紹介してもらったりしています。国は違えど、同じ時代を駆け抜けてきた同志のような気分。どの国でもそうですが、結局は自分たちが面白いと思ったものを直感で突き詰める方がうまくいくみたいですね。
──日本ならではの作品作り、という点はどのように考えますか?
谷垣:『るろうに剣心』は、何が国内外の方に響くかというと、結局は本気でやっていることだと思います。今回の番組の中ではアクションの撮影に関する技術もいくつか紹介させてもらいましたが、それはあくまでも手段に過ぎないですから。「CGを使えばいいじゃん」というものでも、あえて愚直に遠回りしてもアクションをやることが世界への近道になるということを『るろうに剣心』をやると特に感じます。例えば、佐藤健くんはカメラの速さに合わせて自分の速度を落として走るなんてことは絶対しないわけです。撮影部は大変ですけど(笑)、全力で走って、それをカメラが必死で食いついてくる。まさにそういったところに(作品らしさが)現れていると思います。一見「要領悪いな」「映画の撮り方を知ってるのか」と思われるようなことでも、僕らは真面目にやる、そこを愚直にやった結果(が5作にわたるシリーズになった)と思います。
最後に、今回の放送の見どころを聞くと「よくアクション監督とスタントマンの違いがわからないと聞かれますし、アクション監督という職業はわかりづらいと思うのですが、今回は、アクション監督が何をやるか『るろうに剣心』の舞台裏を通して具体的にわかると思います」とは語ってくれた。