「老婆心」(ろうばしん)という言葉を聞いたことはありますか。あまりこの言葉に馴染みがない方もいますが、実は謙虚さを大切にする日本語ならではの言葉なんです。本記事では、「老婆心」の意味や語源、使い方や類語・言い換え表現などを解説します。
「老婆心」の意味とは
「老婆心」の意味や語源について説明します。老婆心の読み方は「ろうばしん」です。「ろうばごころ」とは読まないので、注意しましょう。
老婆心の意味
広辞苑では、老婆心とは「年とった女の親切心がすぎて不必要なまでに世話を焼くこと。必要以上な親切心。主として自分の忠告などをへりくだっていう語」と説明されています。つまり、必要以上に世話を焼こうとする心、おせっかいな心を、へりくだった形で表現することをいいます。
老婆心の語源
老婆心の語源は仏教の言葉である「老婆心切」であるといわれています。年配の女性は、人生経験が豊富なので、若者におせっかいなほど忠告をしたり、世話を焼きがちだったりすることから、老婆心という言葉が出来上がりました。
語源からもわかるように、基本的に老婆心は、目上の人が年下の人に忠告や進言をするときにへりくだって使う言葉です。
「老婆心」の使い方・例文
老婆心の使い方について、例文を交えながら説明します。
「老婆心ながら」
老婆心を使うときの代表的な表現として「老婆心ながら」が挙げられます。この言葉は言い換えると、「おせっかいだとは思いますが」「余計なお世話で、すみませんが」と表すことができます。
年上の人が年下の人に向けて使う言葉なので、「申し訳ありませんが人生経験が豊富な私の提言を聞いてください」という気持ちが込められています。
<例文>
- 老婆心ながら、プロジェクトの進め方について何点かお話させていただきました。
- 老婆心ながら申し上げますと、今回は先方の条件を飲むべきではないかと思います。
- 彼女の歯に衣着せぬ発言は老婆心ながら心配になる。
「老婆心ながら」を使うときの注意点
あまり使われない言葉ではあるので、使うときの注意点を知らないでいると、かえって失礼になってしまったという事態も起こりかねません。例えば老婆心は、目上の人には使うことができなかったり、正しい返し方があったりします。「老婆心」を使うときの基本的な注意事項をくわしく解説します。
目上の人には使えない
老婆心は、目上の人に使うことができません。理由としては、語源に「人生経験が豊富な年配の女性が年下の人に提言や忠告をするときにつかう」とあるように、明らかに自分より人生経験が豊富な年上の人に「老婆心ながら」と言いながら提言するのは失礼にあたるからです。
年上の人に提言する場合は、「老婆心ながら」とは言わずに、「僭越ながら」「失礼ですが」「お言葉ながら」「恐縮ながら」「申し訳ありませんが」などを使うようにしましょう。
男性でも使える
漢字に「老婆」と入っており、語源に「年配の女性」とあることから男性は「老婆心」を使えないのでは、と思うかもしれません。しかし、男性でも「老婆心」「老婆心ながら」は使うことができます。
また、「老婆」の反対で「老爺(ろうや)」という言葉がありますが、「老爺心」「老爺心ながら」という言葉は存在しません。男性でも「老婆心」は使うことができるので、間違っても「老爺心」と言ってしまわないように気を付けましょう。
「老婆心ながら」に対する返し方
自身が年下の立場で、目上の人から「老婆心ながら…」と言われた場合、なんと返したらよいかわからないという方も多いのではないでしょうか。
老婆心ながらに続く言葉は、忠告や指摘などの厳しい内容なことがあるかもしれません。しかし、話す方は「老婆心ながら」を使うことによって、なるべく優しく述べようとしてくれています。
そのため、返答としてはまずは頂いた言葉に感謝をして、内容を理解したことを伝えるようにしましょう。具体的な言葉としては、「有難うございます」「承知しました」「勉強になります」などが適切です。
「老婆心」の類語・言い換え表現
老婆心の類語や言い換え表現をいくつか取り上げます。「老婆心」はおせっかいや世話を焼くというような意味が含まれているので、類語・言い換え表現としては「行き過ぎた親切」に当てはまる言葉が適切です。
おせっかい
広辞苑では、おせっかいを「出しゃばって余計な世話をやくことやその人」と説明しています。他人のことなのに行き過ぎた行動をとる人のことやその行動自体を指しており、迷惑というニュアンスが強い言葉です。
<例文>
- 近所のおばさんは、親切だがおせっかいだと感じるときもある。
- つい気を使いすぎておせっかいをしてしまう。
余計なお世話・大きなお世話
不必要なことまで突っ込んでくることを「余計なお世話」または「大きなお世話」といいます。具体的には、相手がまったく望んでも頼んでもいないのに、いろいろと手伝ってきたり口を出したりしてくることです。余計なお世話をしてくる人には悪気は一切なく、ありがた迷惑になってしまっていることが多いです。
<例文>
- 母は私についてあれこれと口を出してくるが、正直言って余計なお世話だ。
- 余計なお世話かもしれませんが、お手伝いすることはありますか?
親切の押し売り
「親切の押し売り」も老婆心の類語に該当します。これは、誰に頼まれたわけでもなく他人にあれこれ口出しをしたり、勘違いの親切心で結局相手を困らせたりする行為のことです。親切の押し売りをする人にも悪気があるわけではないのが厄介だと感じるかもしれません。
<例文>
- 親友は親切の押し売りが多く、反応に困ることが多い。
- 悪気がないのはわかっているが、彼の親切の押し売りにはうんざりだ。
差し出がましい
「差し出がましい(さしでがましい)」は、でしゃばること、必要以上に相手にとって厚かましい行動をすることを意味しています。また、「差し出がましいのですが」という言葉は目上の人に対して失礼になりかねない依頼をするときに使うことで、あくまでも低姿勢の遠慮がちな態度を示すことができます。
「老婆心ながら」が年上から年下に使うのに対して、「差し出がましいのですが」は年下から年上に使うのがポイントです。
<例文>
- 差し出がましいのですが、資料に抜け漏れがあるようです。
- 差し出がましいお願いですが、もう一度確認いただけますでしょうか。
「老婆心」を英語で表すと
英語では老婆心をどのように表現すればよいのでしょうか。老婆心に該当する英語を2つ紹介します。
out of kindness
老婆心を表す英語としては「out of kindness」が当てはまります。「kindness」は親切という意味の単語で、out of your kindness とすることで、「老婆心ながら」に当てはまる訳になります。
<例文>
- I'm telling you all this out of kindness for your own good. (すべてはあなたのために言っているんだよ。)
though it may not be necessary
老婆心の英訳として、「though it may not be necessary」があります。これは直訳すると「不必要かもしれないけれど」です。余計なお世話とわかっていながら、という気持ちを表現するときに使うことができます。
<例文>
- I'll give you advice though it may not be necessary. (不必要かもしれないけれど、アドバイスするね。
老婆心の正しい意味と使い方を理解しましょう
老婆心の意味や使い方について解説しました。「老婆心ながら」は特にビジネスシーンなどでは使われることがあるので、その意味や正しい使い方、返し方や使うときのルールについて理解しておくことが大切です。
また、類語や英語も一緒に理解することで、言葉に対する知識も深まります。なんとなくではなく、「老婆心」について正しく理解しましょう。