健康な人なら誰にもあるのに、「ないもの」「隠すべきもの」とされている鼻くそ。ここではそんな鼻くそに焦点を当て、正しい情報やケア方法を探ります。耳鼻咽喉科医でクリニック院長の木村至信氏(以下、キムシノ氏)が教えてくれました。

  • 鼻くその色は何を意味する?

正しい鼻くそ、ヤバイ鼻くそ

テレビや雑誌の健康特集に登場することもなく、他人との会話で話題になることもない、影の存在こと鼻くそ。色や乾燥具合などにより、どんなことが分かるのでしょうか。

――鼻くその理想的な状態とは? どんな状態が正常で、どんな状態が異常なのでしょう。

キムシノ氏 「この色や乾燥度ならオッケーなどといった、絶対的な指標はありません。ホコリっぽいところにいるなら黒っぽい色や砂混じり、空気が乾いているなら鼻水の色で白や淡い緑色など、その環境の色なら正常です。

細菌などに感染すると、黄色や緑の鼻くそになり、副鼻腔炎(ふくびくうえん)、いわゆる蓄膿症(ちくのうしょう)を疑うケースがあります。まったく出ない人もいて、鼻に炎症がなく、鼻腔内が潤っていれば、鼻くそが出ない状態もあり得ますし、そういう方も少なくありません」。

生命の危機!? 超危険な鼻くそって?

感染症予防のため、マスク生活も長引いています。マスクで蒸れたり、花粉による刺激を受けたりで炎症が生じ、鼻くそに血が混じることもあります。数日で治るなら問題ありませんが、命の危険性のあることも? 真実は?

キムシノ氏 「血が混じっているなら、外傷や炎症などによる鼻出血をまずは考えます。ですが、過去、命の危険性がある症例もあったので軽視はできません。

それはウェゲナー肉芽腫症と呼ばれていた『多発血管炎性肉芽腫症(たはつせいけっかんえんせいにくげしゅしょう)』で、通常は鼻出血、かさぶたによる鼻づまり、副鼻腔炎、声がれ、鼻が悪いせいから起きる耳の痛み、中耳にたまる体液、眼の充血と痛みで始まります。

その後、呼吸のしづらい感じが出てきて、精査をすると病気が見つかりました。この病気では、鼻くその量が非常に多く、臭いも強烈です。原因は解明されていません」。

――多発血管炎性肉芽腫症とは、聞きなれない病名です。悪化するとどうなりますか、また、どんな年代に起こりやすいのでしょうか。

キムシノ氏 「この病気が進行すると、他の領域を侵したり、最初から複数の臓器を侵したりすることもあります。多発血管炎性肉芽腫症は白色人種に最も多く、大半は40歳頃に発症しますが、人種や年齢を問わず起こる可能性があります。

また、それ以外にも、鼻腔にもガンはできます。そして、鼻腔ガンによる出血や鼻づまりによる鼻くそ、悪性リンパ腫による出血が固まり鼻くそとなる例は深刻です。この二つの病気はポリープを伴うので、鼻づまり感も強く出ますし、鼻くそは黒い。これらの異変に気付いたら、適切な治療を行うことが重要です」。

鼻のお隣、のどにも「くそ」が!?

軽視されがちな鼻くそですが、想像以上に怖い病気が隠れていることがあると分かりました。ところで、某掲示板で、「喉から出てくる『くさいだま』の正体」というスレッドが話題になりました。人によっては、「においだま」と呼ぶようです。くさいだま、においだまとは、睡眠不足のときなどにポンと出てきて、あまりの臭さに驚くアレです。

――先生、のどから出てくる鼻くそのような物体、もしかして鼻くそがのどに下りてきたものなのなのではないですか?

キムシノ氏 「あれは、膿栓(のうせん)というもので、鼻くそとはまったく別です。のどにある扁桃という器官の表面に凸凹があり、食べ物や唾液のカスがたまったり、詰まったりすることがあります。そこで、扁桃組織の壊死細胞や、細菌の死骸である細菌塊などが感染を起こすと臭くなります。これが膿栓です」。

――どうやって取るのが正解ですか?

キムシノ氏 「自分で無理に取ると、下の動脈に傷をつけて出血することがあります。耳鼻科に行き、吸引や洗浄で取ってもらうと安心です。しっかりうがいをしていれば、ほとんどの場合は自然に取れます。でも、扁桃の表面の凹み部分がなくなるわけではないので、また出てくるし、唾液がネバネバの方は膿栓がたまりやすい印象ですね。口の衛生に気を付け、飲み物で口の中を潤わせるといいでしょう。病的に膿栓が多い場合、レーザーで表面を焼く、扁桃摘出術などの選択肢もあります」。

取材協力:木村至信(きむら・しのぶ)

横浜市の馬車道木村耳鼻咽喉科クリニック院長・産業医・医学博士。テレビやラジオのレギュラー番組を持つタレントでもあり、「木村至信BAND」でメジャーデビューする女医シンガーの一面も。